第78話 ドコフクカーゼン号
海にほど近い貸しボート乗り場へやって来たクグとゼタ。ペンギニア社が管理・運営している観光用の貸しボート屋だ。
小屋にいる係員のおじさんが出てきた。
「ボートを借りたいっていうのは君たちか」
「はい、よろしくお願いします」
「なんでも、ドコフクカーゼン号を見に行きたいけど、どこからも断られて困っているらしいな」
おじさんはパートで雇われているだけなので、ペンギニア社が勇者部土木課と関係があることは知らないようだ。
クグたちが勇者部企画課の職員で、勇者モモガワのイベントのためだという理由は伝えていないことになる。
「そうなんです。困っていたところを、ご厚意で貸していただけると言ってくださりまして」
「どうしてまた、そんな危険なところへ行くんだ?」
「えーっと。私どもは民間調査会社なのですが、国からの委託事業で、あの幽霊船を調査しないといけないんです」
「自前の船はないのか?」
「事業を受けたまではいいのですが、調査会社といいましても、海での調査は今回が始めてでして。船は持っていないんです」
「港の漁師とかは乗せてくれなかったのか?」
「幽霊に襲われるかもしれないし、大事な船が壊れたら困ると断られました」
「なるほどな。ま、うちのボートでよければ乗ってきな」
係員のおじさんは、まるで自分の船のように言った。
「ありがとうございます」
「いいってことよ。そうだ、伝説のボートを貸し出してやろう」
係員のおじさんがボートまで案内してくれた。
ボート乗り場には、ハクチョウの形をしたペダルボートがたくさん並んでいる。
「これだ」
係員のおじさんが新品のようにピカピカのペダルボートを指して言った。
ハクチョウの形ではなく、子どもがお風呂で遊ぶ黄色いアヒルのおもちゃをそのまま大きくしたような形のボートだ。
「伝説というほど使い込まれた感じがしないですけど」
「だいぶボロくてみっともなかったから、ペンキを新しく塗り替えただけだ」
「ゼンゼン伝説じゃないっす」
「伝説はここからだ。それは……」
「……それは?……」
「このボートに乗ったカップルは必ず別れる、と伝説となっているボートだ! 何百組、いや何千組以上のカップルを別れさせてきたんだぞ」
「ある意味、伝説っす!」
「安心と信頼でかれこれ30年以上、確実に別れさせてきたからな。実は、こいつは3代目なんだが、自分も若かりし頃に1代目のやつに乗って彼女と別かれたんだ。ボートの呪いだと思って恨んだなぁ」
おじさんは懐かしそうにしみじみと言った。
クグは思った。だからなんだ。それは伝説ではなく、どこの地方でもあるただの都市伝説だ。オススメされた意味がわからない。
「そんないわく付きのものは、誰も乗りたがらないんじゃないですか?」
「いやそれが、結構人気がある。果敢に挑戦して玉砕するカップルや、別れたいからあえて選ぶカップル。あと、とにかくSNSのネタになるとか用途や思惑はいろいろだ。最近の若者の考えてることはわからんな」
貸してもらえるボートはこれしかないので、文句は言えない。クグはしぶしぶ乗り込んだ。ゼタは意気揚々と乗り込んだ。
「このボートは特別仕様だぜ。ハンドル横の黄色いスイッチを押してみろ」
「このスイッチかな?」
ボタン式のスイッチが2つある。黄色い船体に黄色いスイッチはどうなのかとクグは思いながら、おじさんに言われたとおり押してみた。しかし、何も変化がない。
「何も起こらないんですけど」
「ライトのスイッチになってるんだぜ。今、アヒルの目が光ってるぜ!」
こんな昼間に、運転席からわかるわけがない。
「ほらっ、こんなにピカーって。ほらほらっ」
おじさんは、楽しそうに言った。
「そ、そうですか」
クグは思った。だからなんだ。
「次は黒いスイッチを押してくれ!」
「ポチッす」
ゼタが黄色いスイッチの横にある黒いスイッチを押した。
「何も起こらないんすけど」
「船体に電飾が仕込んであるんだ。7色のイルミネーションがピカピカ光って、かなりイケてるぜ」
親指を立てながら言ったおじさんに、クグは返す言葉がなかった。
男2人で電飾ピカピカアヒルボートに乗っていることに、クグはとてつもない恥ずかしさを覚えた。任務ではなくプライベートだったら、泣いていたかもしれない。
そして、夕暮れ時にデートで、電飾で光るボートに乗って奇異の目にさらされたら、自分なら絶対に別れるだろうと思った。
若干興奮気味のおじさんを無視して、クグはそっとスイッチを切った。
「もう切っちゃうのか? まあいいか。仕事だったな」
電飾で遊んでいる場合ではない。任務が最優先事項だ。
「それでは行ってまいります」
「行ってきまーっす」
「伝説のブロークンハーツ号に乗れば百人力だ。気をつけて行ってこいよ」
ボートに嫌な名前をつけるんじゃない、という言葉をクグは飲み込み、ブロークンハーツ号でドコフクカーゼン号へと出発した。
町の水路を進み海へ出た。港を横目にひた進む。
町に住む人たちが個人で所有するボートでも自由に出入りできるよう、水路はすべて海につながっている。
クグは思った。どこで間違えたのだろうか。なぜおっさんになってまで、男とペアでブロークンハーツ号をこがねばならないのか。しかも目的地は幽霊船とウワサされる船だ。ペダルボードで行くヤツなんているわけがない。
ゼタは、力加減やペース配分など無視して楽しそうに漕いでいる。きっとこれも筋トレの一環なのだろう。
人目につきたくないクグは、恥ずかしさも手伝って同じペースでこいだ。
ペダルボートとは思えないかなりのハイペースこいだこともあり、早々に目的地へと着いた。
ドコフクカーゼン号のすぐ上にだけ分厚い雲がかかっており、船の周りには霧がうっすらたちこめて薄暗い。
まずは船の周りを1周しながら外傷を確認する。船体はペンギニア社が調べているが、企画課としても確認をしておく。
船体の側面に『ドコフクカーゼン号』と書いてあるので、間違いなく先代勇者が使っていた魔法の帆船ドコフクカーゼン号だ。
ざっと見た感じでは、大きな穴などはない。とりあえずグラチの港までなら動かしても問題なさそうだ。
船首近くの側面に縄ばしごがかかっている。ペンギニア社が調査用に設置したものだろう。ブロークンハーツ号を横付けし、縄ばしごとハンドルをロープでしっかりくくりつけた。ブロークンハーツ号が流されると帰れなくなる。
クグはデスゾーで購入したお守りを装備する。
「悪霊よけのお守りのオニヤンダクンだ」
どうせ買ってないだろうと思い、ゼタにも手渡そうとした。
「いらないっす」
「ないと面倒だぞ。あと、注意事項だが、船では筋肉圧縮魔法は使えないからな。故意に船を破壊したと判断されたら、始末書とか減給とかになるから覚悟しとけよ」
「先に言ってくださいっすよ」
「だから先に言っただろ」
クグはさっさと縄ばしごをのぼった。
甲板に上がると、白く半透明でふわふわと漂うものがいた。ペンギニア社で聞いたとおり、この船に居着いたゴーストだ。ローブをまとったのようないでたちで、顔は見えないが目の部分だけが怪しく光っている。
クグは慎重に進むが、ゴーストは近寄ってこない。悪霊よけの効果はバッチリのようだ。
ゼタがのぼってきた。甲板におりるなりゴーストがゼタの方に近寄りだした。
ゼタはメイスで虫を払うようにゴーストを払っている。
「回復魔法を付与しているのか」
魔法使いだから、メイスに回復魔法を付与するくらいはできて当たり前か。
「いや回復魔法使えないっすよ」
「どうやって払ってるんだよ」
「なんかこう、筋肉に魔力をグッと込めてメイスを振ると、ゴーストが追い払えるっすよ」
「意味がわからん」
クグは思った。どうなっているんだお前の魔力は。
「思ったよりゴーストってしつこいっすね。追い払ってもすぐに近づいてきて、ゼンゼン進めないっす。やっぱオニヤンダクンくれっす」
やっぱりいるじゃないかとクグは思いながら、ゴーストにもゼタの振るメイスにも近づきたくないので、オニヤンダクンを投げて渡した。
ゼタがオニヤンダクンを装備できたところで、探索を開始する。
船の上を見渡す。船首と中央と船尾に計3本の帆柱がたっている。どの帆柱も折れていることはなく、帆はたたまれた状態だ。
ひとつひとつ帆を広げて確認することはできないので、簡単な目視で最低限の異常がないかだけチェックしておく。
船首と中央の帆柱の間には操舵輪がある。軽く右へ左へと動かしてみる。多少動きは悪いが、ちゃんと動く。
操舵輪が据え付けてある台もチェックする。台についている扉を開くと、中にオーブがちゃんとある。今回はオーブの捜索をしなくてよいことに、クグはひとまず安心した。
ゼタが「マッチョの国へいざ出発っす!」と言いながらグルグルと操舵輪を回して遊びだした。
クグはマッチョだらけの国を想像し、気持ちがなえた。
「壊したら始末書だからな」
クグの言葉に、ゼタはすぐやめておとなしくなった。
船はどこも大きな異常はなさそうだ。もし細かい異常があったとしても、港まで帰る程度なら大丈夫だろう。
中央の帆柱の後ろ側には、船内に入る扉がある。扉を開けて入ると、下へ降りる階段がある。薄暗いのでエーリーデーをかけた。
階段を降りた先には、さらに下へ続く階段と、奥へと続く廊下がある。まずはこのフロアを調べることにした。
廊下の左右には船室が並んでいる。
だいぶ床がもろくなっているようで、歩く度にギシギシと音がする。ゴーストはオニヤンダクンを嫌って、壁や床をすり抜けて逃げていく。
少し進むと明らかにもろいとわかる床があった。クグは大股で避けた。
「あ、ここの床めっちゃボロいっす」
クグが「乗るなよ」と言う前に、バキッという大きな音がした。振り返るとゼタがいない。床には大きな穴が空いている。
「おーい、大丈夫か?」
クグは穴の下に向かって言った。
「イエーイ。やっぱり落ちたぜー」
「落ちたぜーじゃないだろ。不用意に落ちて、モンスターの巣窟だったり、毒性のガスで充満してたらどうするんだ」
「ゼンゼン大丈夫っす。ただの倉庫みたいっすね」
「私も降りるからちょっと待てろ」
ロープで降りようと思ったが、床がもろく支えにならない可能性が大きいので、意を決して飛び降りた。
着地で足がジーンとしびれる。が、ゼタのテポトの着地に比べたらどうということはない。
ゼタの言うとおり、どうやら広い倉庫のようだ。
ここの作りはしっかりしている。端には階段があり、上へ戻れるようだ。
見渡して倉庫の状況を確認する。
「先代勇者が残した物の1つくらいあってもよさそうだが、なにもないな」
「盗賊とかに盗まれた可能性もあるっすね」
船は盗めなくても、武具や道具なら盗めるだろう。
「亡くなったのは先代勇者フォールズだけで仲間は健在だから、仲間たちが片付けた可能性もある」
どちらにしても、いまさら目ぼしいものなどないということだ。
「落ちただけでなんもないと、テンションが下がるだけっすね」
「そうだな。ちょっとしたアイテムがあると落ちがいがあるから、ここは探索ポイントにできそうだな」
「宝箱でギッシリ埋め尽くすんすか?」
「それはやりすぎだな。動かせない木箱で道を作って、ちょっとしたアイテムの入った宝箱を置いておけばいいだろう」
「オーブをここに置いとくのはどーっすか?」
ゼタにしてはいいアイデアだ。ここにオーブの入った宝箱があれば、船を探索せずに動かしてしまうことを防げる。今の勇者ならやりかねない。
「とりあえず保留だな。上の船室も調べてから決めよう」
階段をのぼると、最初に降りてきたところに戻った。
廊下を挟み並んでいる船室を手前から順に調べていく。
それぞれの部屋にはベッドと机がしつらえてあるが、埃をかぶっている。ベッドには布団も枕もない。
小さな丸い窓が壁に1つあり、外の様子が見えるようになっているが、かなり汚れており外を覗き込む気にもならない。
勇者一行が個別に休憩するための部屋のようだ。
ひと部屋ずつ、ベッドの下や机の引き出しの中も調べていく。とくに変わったことはない。
1つの船室で、引き出しの奥に紙が挟まっているのを見つけた。ノートが破れたような紙切れだ。
全体的に文字がかすれており、一部分だけ読むことができる。
『……人間は自ら変わろうとしない。本当の平和とは何……』
『……超大型魔動機……プス……、一度に大量いや、全……』
『……博愛……開発……』
『……命を賭して世界を真の平和に……』
『……もつ者ができる、唯一の贖罪……』
『……この世に、博愛に満ちた新しい世界をもたらす……』
『……どんな罪滅ぼしをしたところで、……の罪が消えることはない……』
『……受け入れてくれる人などいるわけがない。生きていける場所など、どこにもない……』
『……自ら命を絶つべきなのだ。存在さえも消えてしまえ……』
超大型魔動機……械? なんのことだろうか。クグは、先代勇者フォールズの支援をしていたときに、そんなものの情報を与えた覚えはない。もちろん、そんなものがからむようなイベントなどない。
「この意味がわかるか? たぶん超大型魔動機械だと思うんだが」
クグはゼタに紙切れを渡した。ゼタは受け取った紙をざっと見た。
「さあ。ゼンゼンわからないっす」
「なんとかプスというのは機械の名前かもしれないな」
「あ、これって、もしかして」
「もしかしてなんだ?」
「超大型魔動機械フィッシュアンドチップス製造装置じゃないっすか。これがあれば、一度に大量のフィッシュアンドチップスを作ることができるぜ。お金に困らずたらふく食べることができるだけじゃなくて、勇者の冒険が終わったあと、お店を開いてぼろもうけできるぜ、みたいな感じじゃないっすか」
「なんだそれ」
真面目に聞いたのがバカだった。とりあえずクグは紙切れを道具袋に入れた。
個室は全部で4つあったが、この紙切れ以外は何もなかった。
残ったのは廊下の一番奥にある部屋だ。きしむドアを注意深く開けて入った。
4人でミーティングや食事したりするときに使う広い部屋のようだが、他の部屋と違いテーブルやイスがグチャグチャに壊れていた。
そして部屋の奥には、まがまがしいエネルギーが竜巻のようにグルグルと渦巻いている。
クグたちを認識したその渦は、右へ左へと蛇行しながら近づいてきた。壊れたテーブルの破片が四方に飛び散る。
クグは予備で買っておいたオニヤンダクンをもう1つ装備した。ゼタにも渡す。2個装備すれば、強度は2倍だ。
オニヤンダクンの魔力を感じとったのか、渦は中ほどまで来たと思ったら引き返した。
渦が収まると、1体の大きなゴーストが姿を現した。
黒いローブをまとったドクロが大カマを構えているその様は、まるで死神のようだ。
「貴様は何者だ。この船は渡さん。呪い殺してくれるわ!」
ゴーストは大カマを振り上げた。
「はい、ちょっとストップ! 私はこういう者です」
クグはスマホに名刺を表示させ、ゴーストに見えやすいように画面を向けた。
ボスになりそうなモンスターには、勇者にとって手応えのある戦闘になるよう、思う存分戦ってもらわなければならない。
そのためには、気持ちの準備をしてもらい、殺る気を起こさせる交渉をすることも大事な任務だ。
大きなゴーストは、オニヤンダクンから発せられる魔力を警戒するように恐る恐るクグの手前まで来て、スマホの名刺を確認した。そして、素早く定位置に戻った。
「国家情報局? いまいましいヤツめ。公務員が何の用だ。呪い殺してくれるわ!」
「はい、呪い殺す件につきましては、ちょっと置いておきまして、本日は重要な用件がありましてお伺いしました」
「用件を聞きしだい呪い殺すから、早く言え!」
「この船の所有者は先代勇者になりますが」
「そんなことは知らん。海で亡くなった者の霊が住み着き、霊が霊を呼び、このような状態になっただけだ。呪い殺すぞ」
「そうなんですか。それはご苦労さまです」
「わかればよい。けど呪い殺す」
「それでなのですが、じきに現在の勇者がこの船を手に入れようとやって来ます」
「勇者だと? そんなヤツは呪い殺してくれるわ!」
「勇者はとても強いのですけが、大丈夫でしょうか? 簡単に呪い殺せればいいのですが」
「100体もの悪霊が集まり最強の悪霊となったのだ。これだけ強大なエネルギーを手に入れたのだぞ、勇者とてかなうまい。あまりの強さに尻尾を巻いて逃げるだろうな。しかし逃しはせん。呪い殺してくれるわ!」
「とか言って、負けそうになったら逃げそうっす」
「そんな心配は無用だ。何があってもここから出ることはない。我に通常の武器や魔法は効かないのだから負けることなどありえん。必ずや呪い殺す!」
「もしかしてこの場所にとりついて強大になったはいいけれど、この部屋から出られなくなったのではないですか?」
「ダッセェっす」
ゼタはププッっと吹き出した。
「ウルサイッ、余計なお世話だ! 呪い殺すぞ!」
「意気込みはわかりました。ぜひその強さを知りたいので、シラベイザーでスキャンしてもよろしいですか?」
「できるものならやってみろ。呪い殺してくれるわ!」
オニヤンダクン効果で何もされないのがわかっているクグは、大カマを構えてポーズをとるゴーストをスキャンした。
『名前、ハンドレッド・カース。100体の悪霊が集まった最強のゴースト。口癖の「呪い殺す」のとおり、相手を呪いにかける。聖属性か回復魔法でのみダメージを与えることができる』
全部、自ら話してくれたことばかりで、とくに目新しい情報はない。
「勇者と戦っても負けるだけでしょうが、とにかく頑張ってください」
「勇者と戦って勝つという選択肢を忘れては困るな。勇者など呪い殺せばいいだけだ。そしてお前たちを呪い殺してやる」
「私どもの用件は済みましたので、それでは失礼します」
「おい。ちょっと待て。どこへ行く。呪いこ――」
去り際に呼び止められたような気がしたが、もう用事がないので、クグはさっさと退室してドアを閉めた。
言葉の通じないタイプのモンスターと違い、ゴーストはもともと人間であり話が通じるので、手っ取り早く状況を伝えられるのはラクでいい。
調査を終えブロークンハーツ号まで戻ってきた。
クグはスマホを取り出し、忘れないうちに軽くまとめをメモしておく。
洞窟や山に比べると大した広さではないので、攻略自体は簡単だ。
船室前の廊下は、もろい床が分かりやすいようにびひ割れた感じで印をつけてもいいが、どこがもろいかわからなくする案もありだ。不意に下へ落ちたほうが何度も行き来させられるので、少しは攻略を手間取らせることができる。
落ちた先の倉庫にあるアイテムは、魔力回復アイテムや、対アンデット用アイテムの聖水などに絞ったほうが良さそうだ。ヘタに武具を置くと、先代勇者が残したものだと勘違いしてしまう。
奥の部屋にいるボスのハンドレッド・カースを倒したら、船の動力のオーブを手に入れられるようすれば、攻略せずに船を動かすのを防げる。
あとは、港の近くに流しの行商人役を配置し、呪いを防ぐアクセサリーや聖水などを取り扱ってもらえば十分だろう。船でこの町へ来て商売しに来た感じがあれば、不自然さはないはずだ。
「勇者が船を手に入れても、テヤンデに行くだけだったらそんなに使いどころがないと思うんすけど」
ゼタの言うとおり、この世界は1つの大きな大陸なので船で行ける場所はそれほど多くない。
「大陸を縦断するオヤンマ山の北に、海に突き出た陸地がある。『ドコサココサ』とよばれているところだ。南はオヤンマ山、ほかの3方は海に囲まれていて、船でしか上陸できない」
大陸を、翼を広げたイーグルに見立てると、ちょうど頭の部分になる。テポトの起点となる町がないから、毎回、船で行くことになる。
「ナニがあるんすか?」
「勇者用の隠しダンジョンがある」
「オモシロそうっすね」
「入るたびに中の形が変わるという、恐ろしい魔法のダンジョンだ。しかも地下100層もあるらしい」
「もしかして、それも調べないといけないんすか? そんなの死ぬっす」
「いや。ここは調べる必要がない」
「よかったっす。でも、そんなところにどうやって宝箱を置くんすかね」
「宝箱も自動生成される」
「モンスターはどうなってるんすか?」
「ザコモンスターやボスも、これまでその勇者が戦ったことのあるモンスターの強力なやつが出るらしい。勇者部が支援や攻略情報を提供することは一切できない、特殊な魔法のダンジョンだ」
「へー。勇者がそのダンジョンの攻略にはまったら、イベントが進まなそうっすけど」
「船を手に入れた時点では、まだクリアできるほど強くないので、静観しておけばいいらしい。なんでも勇者部内では、魔王を倒すより難しいともウワサされている」
「今の勇者なら逆に沼りそうっす」
「その時は、船をわざと故障させるとか、勇者部でなにがしかの手を打つだろ」
今心配しても仕方がない。
クグはハンドルにくくりつけたロープを外し、ペダルに足をかける。今回の任務は比較的楽に終えられてひと安心した。
「よし。これで終了だ。町へ戻るぞ」
「ところでキリタッタクリフって探索しなくていいんすか?」
こぎ出そうとするクグを遮ってゼタが言った。
グラチから北にある、切り立った岸壁が幾重にも連なる地帯のことだ。アマソソル山の雪解け水が海へ注ぎ込み岸壁を少しずつ浸食することで、断崖の地形になった。
「このボートだから行きたくない」
「企画課総合戦略係としては、調べないといけないんじゃないんすか?」
「それを言われると……」
ゼタこういうときに限って、クグが断れない理由を言ってくる。
「というわけで、レッツゴーっす!」
はりきってペダルをこぐゼタを横目に、クグはしぶしぶペダルをこぎ、ブロークンハーツ号でキリタッタクリフへと向かう。




