第68話 勇者、メルシ~エルフの里
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メルシの町に着いた勇者一行。
1人のおじいさんがモモガワの前に立ちふさがり話しかけてきた。
「むかしむかし、あるところに、おじいとおばあがおりました。おじいは言いました。『森で行き詰まったら、上上下下左右左右BAじゃ!』おしまい」
言っている意味がわからないので、モモガワはとりあえず無視して横によけた。すると、おじいさんも同じ方向に動いた。
たまたま同じ方向になってしまっただけだとモモガワは思い、逆によけた。すると、おじいさんも同じ方向に動いた。
しかも、何度も同じことを言ってくる。
進行方向をふさいでくるパターンのやつだ。
「ボケたジジイが、上上下下とかメッチャ言い寄ってくるんだけど」
「お年寄りの方をぞんざいにあしらってはいけません。こういうお話はどこで役に立つかわかりませんよ。ありがたい話だと思って、きちんとメモっておきましょう」
トリゴエはどんな人にも礼節を欠かさない。
「わーい。おじいちゃん、お話ありがとう」
サルミダは素直にお礼を言った。
「じいさんが死んでも、この話は忘れないぜ」
イヌコマは義理堅い。
「まだ亡くなっていませんよ。勝手に殺してはいけません」
トリゴエはそう言いながら紙のメモ帳を取り出した。
「スマホにメモらねーの?」
モモガワはそもそもペンを持ち歩いていない。
「メモは断然、紙派ですっ」
トリゴエは丁寧にメモを取った。
その後、町での情報収集を終えたモモガワたちは、町に隣接する森へ行き、養蜂・キノコ栽培・林業などを見学してまわった。
見学を終え、森の攻略へと向かう。
「おい、勇者はどこに行った?」
イヌコマはモモガワがいないことに気がついた。
「はぐれちゃったねー」
サルミダは周りを見回すが、とくに心配はしていない。
「しょうがない人ですね」
トリゴエはあきれている。
すると突然、町のほうから爆発音が聞こえた。爆音でびっくりした鳥たちが騒がしく森から飛び立った。森の中も騒がしい。ほかの動物たちも逃げ惑ったり、慌てて巣穴に隠れたりしているのだろう。
「なんだ。なにがあったんだ?」
イヌコマは耳と鼻で様子をうかがう。
「状況から察するに、おそらく町の方で爆発があったと思われますが。ほら、あそこに煙が」
トリゴエは立ち上る煙を見て冷静に分析した。
「おっかないねー」
サルミダは煙を見て言った。しかし、あまり心配はしていない。
「行ったほうがいいか?」
「煙の出ている所から察するに、町外れだと思われます」
「勇者どうしよう? 置いてっちゃう?」
3人が話しているとモモガワが茂みから出てきた。
「おい、どこ行ってたんだ?」
イヌコマは少しイラついている。
「ヤベェ。よそ見してたらめっちゃ迷った。森、深すぎ」
「ふらふらしてるからですよ」
反省の色がないモモガワに、トリゴエはあきれている。
「ところで、なんかでっかい音がしたけど、ナニ?」」
「町外れで爆発があったみたいです。ほら、煙が見えるでしょう」
「おっかないねー。見にいってみる?」
「森を出て町の入り口へ行ってたら遠回りだぞ。早く行くなら森の中を突っ切るしかねーな」
「なんかヤバそうじゃね? なんでもかんでも勇者だからっていう理由で首突っ込んでらんないし。先に森も攻略しちゃいたいし」
「それもそうだな。町外れならそれほど問題があるようには思えねーけど」
イヌコマはモモガワの意見に同意した。
「後からでも問題ないっしょ」
「そだねー」
サルミダも同意した。
一行は先に森の攻略をすることにした。
森を進み、うっすらモヤのかかった池まで来た。
「町で聞いた情報によると、この池には妖精が棲んでおり、心の奥に潜む恐れるものを具現化して行く手を阻むということですが」
「勇者が恐れるものといったら、魔王ぐらいか?」
「わーい。魔王が出てくるかもー」
仲間は冗談めかして話しているが、モモガワは神妙な顔で黙っている。
モヤが立ちこめてきた。
「何も考えず進めば大丈夫だと思います。先を急ぎましょう」
トリゴエの言うとおり、仲間たちは何も考えず先へ進む。
すると、モヤがの中から何者かが不意に飛び出してきて、モモガワに襲いかかってきた。
モモガワは素早く飛びのいた。
襲ってきた者の姿形はモモガワそっくりだ。全体に黒いオーラをまとい、ギラリとした鋭い眼光をしている。モモガワのシャドウだ。
「オレが恐れるのは、オレ自身。枯れることなくあふれ続ける才能が怖いぜ」
モモガワがシャドウをにらみながら言うと、取っ組み合いのケンカが始まった。
「オレのほうがカッコイイ!」
「オレのほうがイケてる!」
力は五分五分。殴り殴られ、投げ投げられ、一進一退の攻防だ。
「とにかく、池に落ちんじゃねーぞ」
イヌコマが応援も兼ねて叫んだ。
すると、勇者とシャドウは組み合ったまま「コノヤロー」「クソヤロー」などと言いながら、なぜか少しずつ池に近づいていく。
「そのまま行ったら落ちますよ」
トリゴエも叫んだ。
「うわー落ちるー」
サルミダは楽しそうだ。
仲間の心配をよそに、勇者とシャドウが組み合ったまま池に落ち、激しい水しぶきがあがった。
「沈んだまま上がってこねーぞ」
「死んだかなー」
「残念ながら冒険終了のようですね」
仲間たちは池の中を覗き込みながら、落ち着いて会話をかわす。
すると池が光り、池の妖精が出てきた。勇者が池の妖精にお姫様抱っこされている。
「あなた方が落とした勇者は、水中でナンパしてくるこの勇者ですか?」
「落としたっていうか、勝手に自分から落ちたんだけど」
サルミダは冷静に説明した。
「水中でナニしてんだよ」
「情けない。仲間として恥ずかしいかぎりです」
イヌコマとトリゴエはあきれている。
「正直なあなた方には、『池の妖精のペンダント』を差し上げます。装備すると体力が徐々に回復します。その代わり毛づやがボサボサになります。ちなみに、この勇者は私のタイプではないので、このまま返却いたします」
ペンダントを受け取ったイヌコマは、
「俺様はいらん。チマチマ回復なんて性に合わねえ」
そう言って、サルミダに投げ渡した。
「ボサボサやだなー。いらなーい」
サルミダはトリゴエに渡した。
「見た目をきれいに保つのは紳士の務めです。安易な回復効果で毛づやを捨てるわけにはいきません」
トリゴエはずぶ濡れのモモガワに渡した。
モモガワは、キューティクルが失われイケてない髪型になった自分を想像し、いらないなと思った。しかし、コレクター的にもらっておくことにした。
その後の探索では、モモガワはヤブの中に隠れた宝箱をすべて見つけ、キノコフル装備を手に入れた。
エリンギの兜。かぶるとエリンギヘアの人のように見える。
マイタケの鎧・小手セット。なんか全体的にビラビラしている。
ブナシメジのレッグガーター。スネの部分は白色、膝の部分は茶色で、遠くから見るとブナシメジが生えているように見える。
干しシイタケの盾。カラッカラでカッチカチだ。
ベニテングダケの剣。朱色の剣身に白色の水玉がまだらについており、剣先は鋭く三角に尖っている。攻撃した相手に毒を付与する。
迷いの森へ入ったモモガワたち。
キノコフル装備を手に入れウキウキのモモガワは、木の台も見ずひたすら前進した。
仲間たちは途中まで着いていったが、ループしていることに気づき、モモガワが戻ってくるのを待った。
「おかしくね? なんで先にいるんだよ」
モモガワは進んだ先に仲間がいてビックリしている。
「ここはエルフの魔力でつくられた迷いの森のようです、間違ったルートを進むと、最初の地点まで戻されてしまうようです」
トリゴエは、町の人から得た情報を元に冷静に分析した。
「迷っちゃったねー」
サルミダは事の深刻さがわかっていない。
「この木の台に書いてある文字になにかヒントがあるかもしれません」
「ギブって書いてあるボタンは、たぶんギブアップだよな。進めないなら、これで戻るしかないんじゃねーのか」
イヌコマは切り替えが早い。グズグズするのが嫌いだからだ。
「戻ってしまっては意味がありません。困りましたね」
「ボクが木に登って正解ルートを見てよこうか?」
「それなら手っ取り早くていいんじゃね」
モモガワはサルミダの案に賛成だ。これといった案が思い浮かばないからだ。
「魔力で形成されているので、上から見てもわからないでしょう」
「じゃあ、4人がそれぞれ別の方向に進むってのはどうだ。不正解だった残りの3人は戻されるから、正解ルートがわかるだろ。正解ルートだった1人は、不正解ルートの3人が来るまで待てばいい」
「それなら効率いいんじゃね」
モモガはイヌコマの案に賛成だ。これといった案が思い浮かばないからだ。
「進んだ先に何があるかわかりません。万が一、強力なモンスターがいた場合、危険です。なるべく単独行動は避けたいところです」
誰もいい案が思いつかず、全員その場で考え込んだ。
「そういえば、町でジジイが森で行き詰まったらどうのこうのって、めっちゃ言い寄ってきたっけ。ありがたい話だとかいって、メモってたじゃん」
「それですよそれ。さすが勇者っ。メモを確認しましょう」
「勇者に選ばれただけのことはあるな」
「勇者えらーい」
モモガワは仲間たちに褒められ上機嫌だ。
「えーと、上上下下左右左右BAです」
トリゴエはメモを見ながら言った。
「ということは、この台に上とか下とか書いてあるから、これのことか」
イヌコマは木の台を見て言った。
「そんじゃあレッツゴー」
サルミダはよくわかっていないが、進む気満々だ。
メモどおりに進むと開けた場所に出た。しかし、樹齢が何百年もありそうな巨木が立ちふさがっている。
巨木に顔が現れ動き出した。
「我は樹木の精霊トレントのヨサク。汝の力を示せ」
巨木が言うと、急に襲いかかってきた。
イヌコマは斧装備でアラブルンをかけ猛攻撃だ。
サルミダは九節鞭の火属性の技『火炎車』を繰り出す。
トリゴエは火属性の魔法を連発した。3人の猛ラッシュだ。
モモガワは、ベニテングダケの剣で何度か攻撃したが、ヒットしても手がしびれるだけで有効打にならない。毒も効かない。
メルシの町で行商人の屋台に火薬玉が売られていたのをモモガワは思い出した。使いどころがわからないからケチって買わなかった。買っておけばよかったと後悔した。
モモガワは補助魔法と回復アイテムを使う役回りになった。キノコフル装備を手に入れて上がっていたテンションが、一気に下がった。
「もうそろそろヤバいかもしらん」
ヨサクがボソッと言うと、急に攻撃をやめた。モモガワたちも攻撃を止めた。
「汝たちの力、しかと試させてもらった。合格だ。通ってよい」
ヨサクが言うと、辺りが霧に包まれた。霧が晴れるとヨサクはいなくなっていた。
モモガワは、自分から襲いかかってきたクセに上から目線なんだよな、と少しモヤッとつつも、倒せたからまあいいかと思った。
ヨサクはいなくなったが、正面にはツタが生い茂り、左右には木が密集している。
「行き止まりじゃね? どっかで間違ってなくない?」
「いや、合っているはずです。最後にBAとあります」
トリゴエはメモを確かめて言った。
「BAってなんだろねー」
「どこかにBAがあるはずです。BAっぽいものを探しましょう」
仲間たちはBAが何かもわからず、当てずっぽうで探し始めた。
地面を探すイヌコマ。木を探すサルミダ。空を見上げるトリゴエ。
なんかわかんないのに、やみくもに探してもムダじゃね。チョーメンドイ。都合よくBAっての見つかんないかな。なんかこうピカッと光ったりして、ここにありますよ的な。と思いながらモモガワは生い茂ったツタをボーッと眺めた。
モモガワは茂みの隙間から一定間隔で何かが光っているのを見つけた。
「あった! 茂みのとこで光ってるの。あれってBAじゃね。見っけちゃったじゃん。オレってやっぱスゲえ」
「さすが勇者っ」
モモガワは仲間たちに褒められ上機嫌だ。
インターホンにあるBとAのボタンを見つけ、無事エルフの里に入った勇者モモガワ一行。
先に女王の屋敷に行って重要な話が進んじゃうと散策ができなくなるかも、という理由で、先に里の中を散策しだした。
ほとんどの家には鍵がかかっており、あまり里の中を探索できなくておもしろくなかった。
しかし里の西に、樽パズルの仕掛けがある小屋を見つけた。
モモガワはパズルを小一時間かけて解き、ムーンブレイドを手に入れた。今までまっすぐな剣ばかりで、三日月刀ははじめてなのでテンション爆上がりだ。
キノコフル装備はもう飽きたので、さっさと道具袋にしまった。
さっそくムーンブレイドを装備して、今まで散々練習した剣をシュバッっと鞘から抜いて構えるのを何度もやった。
新しいおもちゃをもらった子どものようにはしゃぐモモガワの動画は、SNSにさっそくアップされた。
女王の屋敷へ行くと、謁見の間へ通された。
ミツコ女王は最初、とても顔つきが怖かったが、すぐに表情が和らいだ。
ミツコ女王自らの案内で『神秘の泉』へ行くことになった。
モモガワはミツコ女王から積極的に話しかけられた。やたらなれなれしいな、とモモガワは思ったが言えなかった。
老執事のセバちゃんにより、池の前や小屋の前などで記念写真を撮った。
激しい戦闘の後のウォーターサーバーの水は、体にしみわたった。
「池の水なだけにイケる」
モモガワのひと言に場が凍りつき、静寂の時がながれた。
「ホキョン」
とまぬけな鳥の鳴き声が聞こえた。
ミツコ女王の屋敷の客間で1泊することになった。豪華なディナーが振る舞われた。
最初にお通しとして出てきた『姿焼きづくし』は、トカゲの姿焼き、タランチュラの照り焼き、4種の昆虫の幼虫・成虫素揚げ食べ比べセットだ。滋養強壮の効果があり、お肌にも良いらしい。
モモガワは食が進まなかった。しかし、仲間たちはおいしそうに食べている。さらに、ミツコ女王からも強い圧を感じ、渋々食べた。
「お、おいしいです」
モモガワは引きつった笑顔で、声を絞り出した。
続いて出たのは、キノコ料理のフルコースだ。こちらは普通においしかった。
翌日、ミツコ女王直々の接待で里の説明を受けた。ミツコ女王の強引な押しに負け、もう1泊することになった。
翌朝、グイグイ来るオバサンはちょっとニガテだなと思いながら、モモガワはエルフの里を後にした。
◇
一方、ミツコ女王は。
きちんと時間に余裕を持って入念に準備し、勇者が来るのを謁見の間で待った。
しかし、里に入ったという知らせを受けたのになかなか来ない。
ムーンブレイドが置いてある小屋で一心不乱にパズルを解いている、という報告を受けた。
屋敷に向かっているという報告を受けた時には、すでに小一時間たっており、ミツコ女王は半分キレた。
「勇者の奴が来たら、正座させて『先に挨拶しに来いや』って小一時間説教したろか」
とセバちゃんにグチった。
しかし、訪れたモモガワは思いのほか好みのイケメンだったので、一目見て不問にした。待たされたことなど話題にさえしなかった。
その夜、神秘の泉でセバちゃんに撮ってもらったモモガワとのツーショット写真を、スマホの待ち受け画面にした。モモガワの顔が少し引きつっているような気がしたが、気のせいということにした。
もちろん、勇者一行を出迎えたことをSNSにアップすることも忘れていない。
翌日、ミツコ女王はモモガワたちに1日かけて里を隅々まで案内し、里の生活を説明した。
無理を言ってもう1泊してもらえることになった。純粋にうれしくて、何年ぶりかにキュンキュンした。
この日のディナーは、昨日よりもお酒を多く振る舞った。
ミツコ女王は、酔った勢いでモモガワの寝込みを襲おうかと思ったが廊下でセバちゃんに見つかり、部屋に連れ戻されて正座で小一時間こんこんと説教された。
最終日、ミツコ女王はモモガワが帰っていくのをいつまでも見送った。
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