第66話 情報の対価
広場はたくさんの人でにぎわっている。
古い武具を取り扱っているお店の人なら知っているのではないかと話を聞いて回るが、これといった情報は出てこない。
40代くらいのこわもての男性がやっている露天があった。スマホをいじってばかりで積極的な呼び込みをしていないのが、クグは気になった。
テーブルの上には商品が乱雑に積まれている。ひっくり返った兜の中には、安物のアクセサリーがぐちゃぐちゃに入っている。片方だけのブーツは倒れており、中から瓶がのぞいて見える。
雑多な品ぞろえだ。悪く言えば統一性がない。どれも骨とう品というよりかは、ただの中古品だ。
いろんな人が手に取ったからなのか、もとからきれいに並べるつもりがないのか。売る気があるように見えない。
「すみません。幅広い品ぞろえですね。ここにあるのが全部ですか?」
「これで全部だ。用がないなら帰んな」
「ガラクタばっかっすね」
「コラ。失礼なことを言うな」
おじさんは怒るどころか「ははっ」と軽く笑うと、気さくに言った。
「言ってくれるじゃねえか。ガラクタばかりだが、見る人によっては欲しいものになる」
「レアな武器を探しているんですけど、取り扱ってますか?」
「うちはネット販売が中心だから、ここに持ってきてない物のほうが多いな」
「エクスカリバーって知らないっすか?」
ニヤリとおじさんの口角が上がった。
「へえー。エクスカリバーね。うちは物だけじゃなくて情報も売ってるぜ。っていうか、そっちがメインだな」
「こう見えても私たちは情報には詳しいほうなので、よほど信ぴょう性が高くないと、おいそれとは買わないですよ」
足元を見られてデマを売りつけられてはいけない。クグはカマをかける。
「オレの情報網をなめてもらったら困るな。こっちもプロとしてのプライドってのがある。客をだますようなことはしねえ。ドンピシャの情報だぜ」
「確かな情報であれば、聞いた後にお支払いしてもいいですが」
「情報が欲しいんだったら、うちのやり方に従ってもらう。こっちは丸腰だろ。冒険者相手だと、武器で脅されて聞き逃げされたらたまったもんじゃねえからな」
ここはいったん相手の要求を引き出したほうがよさそうだ。クグは相手の条件に乗ってみることにした。
「わかりました。どういった手順ですか?」
「客ならここにあるものを買わねーとな。どうだ? ガラクタでも欲しいものに見えてきただろ?」
表向きは商品の売買というかたちで情報を売る、というやり口のようだ。だから、売る物はガラクタでも何でもいいということか。
クグは品定めをするが、どれもいらないものばかりだ。だからといって、相手が気分を害するようなことは言えない。
「ガラクタばっかっすね」
「相変わらずハッキリ言うな、兄ちゃん。それじゃあ、これはどうだ」
おじさんが雑然と積まれた商品をかき分けて取り出したのは、直径30センチほどの円盤の形をしたものだ。
「なんすかコレ?」
「空飛ぶ円盤型テポト転送装置『アダムスン』だ」
「テポトなら普通に使えるっすよ」
「まあ焦るなって。これのナニがすごいって、人が運べない大きな物だって転送できるし、そこら辺の野っ原でも家の前でも、どこでも好きな場所を指定できるんだぜ」
これなら汎用性が高いので経費で落とせそうだ。
「おいくらですか?」
「これでどうだ」
おじさんは指を2本立てた。
「2千モスルですね」
「バカ言え。2万だよ」
「箱なし、説明書なしの中古品ですよね」
定価はわからないが、この機能の製品にしてはかなり高い。激安ディスカウントストアなら、1万モスルで新品が2個は買えるはずだ。
「イヤなら帰んな。あと、これは中古品じゃなくて未使用品だ」
情報料が入っているのだった。表向きで商品を買うだけだ。
おじさんの言い値で買うしかなさそうだし、2万モスルでエクスカリバーの情報が得られ、オマケでアダムスンがもらえると考えれば安い方だ。
現金の持ち合わせもないし、履歴を残したほうがいいので、スマホ決済で支払った。
もちろん領収書も忘れない。宛名なしで、ただし書きには『品代』と書いただけの簡単なものを渡された。
「どうやって使うんすか」
ゼタが不思議なものでも見るかのように、アダムスンをぐるぐるひっくり返している。
「スマホで操作して転送させたい物の上に飛ばすと、設定した場所へテポト転送できる」
「ということは、専用のマプリが必要ということですよね。どこからダウンロードするんですか?」
「本体の上のところに2次元コードがあるだろ」
「これっすね」
ゼタは、クグに2次元コードが見えるように差し出した。円盤の上部の中心にプリントされている。
クグはスマホで読み取り、ダウンロードとインストールをする。
「注意事項は、1回使い切りだ。転送先を間違えたら二度と戻ってこないから気をつけろよ」
使い切りだから未使用品ということはわかったが、使い切りで2万モスルは高い。えげつない商売だ。
「インストールはできたんですけど、どうすれば」
「あとはちゃちゃっとやればすぐ使えるから」
「ちゃちゃっとというのは?」
「え? えーっと、そんなことよりエクスカリバーについて知りたいんだろ?」
アダムスンの使い方はあとから調べればいくらでもわかる。優先事項はエクスカリバーだ。
「そうでした。情報をお願いします」
おじさんが名刺サイズの紙製のカードを胸ポケットから取り出し、クグに見せてきた。2次元コードが印刷されている。
「ここにアクセスしてみな」
クグは言われたとおりスマホで読み取ってアクセスしてみた。
ショッピングサイトのように商品の写真と値段の書かれたページが表示された。画面下には『友だち登録で10%オフクーポンをプレゼント!』というバナー広告が表示されている。
「これは?」
「うちの自社サイトだ。フリマサイトと違って手数料がかからないから特別に安く買うことができるぜ。今ならSNSに友だち登録すると10%オフクーポンがもらえるぞ。どうだ、おトクな情報だろ」
おじさんは満足そうに言った。
ページをスクロールしていくとモロハノツルゲン社のエックスカリバンが出てきた。ドンピシャどころか、クグはもう見たくもない。
「もしかして、このエックスカリバンをフリマサイトで転売しているのもあなたですか?」
「おうよ。販売中止と聞いて苦労して買い集めたヤツだぞ」
「メーカーが回収しているのに、高額で転売するのはどうかと思いますが」
「そんなの知ったこっちゃない。高いか安いかは買う方が決める。その値段で欲しいヤツが買うだけだ。稼げるときに稼げるもので稼ぐ。それがオレのやり方だ」
おじさんは反省するどころか、開き直った態度だ。
「ケガをしている人もいるんですよ」
「使い方を間違えるヤツが悪い。それに、こっちはちゃんと古物商許可を取ってやってんだ。法に触れてないのに、正義の味方ごっこで丸腰のオレを成敗するってのか?」
おじさんは両手を広げ、挑発するように言った。
クグは勇者のイベント作りのためにいろんな役職を装うが、勇者部の職員という立場を逸脱して世直しするのは任務ではない。
機嫌を損ねさせるのではなく、情報を引き出すのが仕事だ。
「そんなつもりはありません。これの情報は十分に収集済みでして、私たちが知りたいのは剣のエクスカリバーについてなのですが」
「そんなのあるわけないだろ! 何百年も前の伝説上のものだぞ。冷やかしに来たのか、帰れ!」
逆に怒らせてしまった。これで話が終わってしまったら、アダムスンを高値で買わされただけになってしまう。
「有益な情報ではなかったので、返品はできますか?」
「ふざけるな!」
おじさんは商品の山に手を突っ込むと勢いよくナイフを取り出した。商品がバラバラと机から落ちる。そして、地面に落ちた商品など構わずにナイフを振り回しだした。もはや取りつく島もない。
周りの人も何ごとかと遠巻きに見ている。これ以上、大ごとにはできないので、クグたちは逃げるように店を後にした。
ほかに情報はないかと広場を巡っているとキャサリンがいた。
この町で聞き込みをしているようだ。いや、どう見ても観光で買い物を楽しんでいるように見える。
クグから話しかけると、この町での情報収集はほぼ終えたようなので、昼食がてら話を聞くことになった。
広場にあるフードエリアへ行く。ゼタが何かを見つけて指さしながら言った。
「獄卒カレーがあるっすよ」
見覚えのあるフードトラックのカレー屋だ。作業をしている2人の魔族が見える。ゴズロベエとメズハチだ。
ブレイズンと経費でもめたときに、次に見つけたら自腹でもいいので絶対に食べてやると思ったのをクグは思い出した。
「今回もあそこで買っていくか」
「知ってるんですか?」
キャサリンが興味ありげに聞いてきた。
「以前、たまたま食べたことがあってな。何か問題でもあったか?」
問題も何も、魔族がやっているカレー屋で食べたこと自体、勇者部の職員として問題なのではないかとクグは思った。同じ職員として軽蔑されたかもしれない。
「あのカレー屋さんって、『カレー道中膝栗毛~ゴズメズ珍道中』っていうのをSNSでやってて、話題のお店なんですよね。食べたことがあるなんて、うらやましいです」
軽蔑ではなかった。
「へえ、そんなに有名なのか。知らなかった」
「神出鬼没だし、1日限定50食ですぐ売り切れちゃうから、一度、食べてみたいと思ってたんですよ。世の中の流行りくらい少しは調べようと思わないんですか?」
「あんまり興味ない」
「筋肉以外、興味ないっす」
「フツーに軽蔑します」
結局、軽蔑された。女性の心理はクグにはよくわからなかった。
クグは、SNSにはとくに関心がない。というか、ほぼ1人で仕事をしないといけない忙しさなので、SNSの流行を追いかけようという気にもならない。
そして、仕事でもないのにSNSを必死にやっている人が理解できない。無趣味な人にとやかく言われる筋合いはないと相手も思うだろうから、お互いさまだと思っている。
獄卒カレーの前まで行くと、ゴズロベエが気さくに声をかけてきた。
「いらっしゃい。以前も食べに来られましたよね」
「あと10食で完売ですよ。間に合って良かったですね」
メズハチも笑顔で言った。
顔を覚えられていた。とはいえ、勇者部の職員としてではないのでクグはよしとした。
「シオサインのときとなんか違うんすか?」
「そうなんですよ。今回は、カレー煮込みハンバーグのサワークリーム添えです」
ゴズロベエは自信たっぷりに言った。
「カレーライスというか、違う料理になってきているような」
「カレーと肉のことばかり考えていて、初心を忘れてました」
クグの指摘にメズハチは頭をかきながら言った。
「あの、SNS見てます。カレー研究がんばってください。あとで一緒に写真撮ってもらっていいですか?」
キャサリンがテンション高めで言った。
「応援ありがとうございます」
ゴズロベエは素直に礼を言った。
「僕たちとなんかでいいんですか? 恥ずかしいなあ」
メズハチは少し照れている。
こんなゴツい魔族と本当に写真など撮りたいのだろうか、とクグは疑問に思ったが言えない。
「そうそう忘れてた。ちなみに合うお酒は、ガッツリした肉に負けないコクが強めのブラウンビールや黒ビールがオススメです」
メズハチは相変わらずアルコール飲料をすすめてくる。たしか、魔王からカレーに合うお酒も考えろと言われていたのだった。
すすめられても、すすめられなくても、勤務中に飲酒はできない。
ゼタは相変わらずコーラだ。
キャサリンはオーガニックの微炭酸飲料のブラッドオレンジ。
クグは同じオーガニック微炭酸飲料のマテ茶にした。
「エクスカリバーっていう剣について、なんか知らないっすか?」
「魔族の人に聞いてどうする」
不用意な質問だ。勇者と関係があると疑われたら、ただの客としてやり過ごせなくなる。
「カレーのことで頭がいっぱいで、武器のことはよくわからないですね」
メズハチが忙しそうにカレーを準備しながら言った。
「こないだ来たお客さんで、ワーリザードさんがなんかそれっぽいこと言ってなかったっけ? えーっとたしか、石に刺さってて金色に輝く珍しい武器が村にあるとかどうとか」
ゴズロベエはカレーをテイクアウト用の袋に入れる手を止めて、思い出しながら言った。
ドンピシャの情報だ。こんなところで有益な情報が得られるとはクグは思ってもみなかった。しかも、あまり武器について詳しくないのか、勇者関係者だと怪しまれていない。
ワーリザードの村にあるのであれば、町の人や古物商が知らないのも納得だ。
この町の北西の森にワーリザードの村があるので、食後に行ってみたほうがよさそうだ。
それにしても、カレーとドリンク代で情報がもらえたと考えれば安いもので、どこぞの欲深い古物商とは雲泥の差だ。
「なんか情報までもらってしまってスミマセン」
クグは出来上がったカレーを受け取りながら言った。
「いえいえ、困ったときはお互いさまですから」
ゴズロベエは笑顔で言った。メズハチも隣で笑顔だ。見かけによらず優しい人たちだ。
広場にしつらえられた飲食スペースで、カレーを食べながらキャサリンの報告を聞く。
キャサリンは、メルシの教団襲撃事件を聞いたときは少し動揺したようだが、いまは大丈夫なようだ。
いろいろ調べたが、結局、襲撃した犯人はわかっていない。支部はそのまま閉鎖され信者も散り散りになり、これ以上は調べようがない。
教団のダンケ支部の規模は、メルシとほぼ同じ。場所も、町の中心から外れた場所にある。
メルシの事件後、この町の支部では動揺が広がっているようで、これまではどんな人でも来る者は拒まずという雰囲気だったが、今は部外者の出入りを禁止している。
カネで雇われたのだろうか、冒険者たちが支部を取り囲むように警備をしており、偵察機のスクイークも入れないくらい厳重な警備で、文字どおりネズミ1匹入れない。
中に入って関係者から直接話を聞くことはできない状況なので、この町の支部の司教サトゥルヌスが常駐しているのかどうかもわからない。
教会の外で信者の人に話を聞けた。
週1回の礼拝は行われているらしいので、少なくとも礼拝の日に司教はいるようだ。
脅迫状が何通か来ているらしい。嫌がらせがよくあるので、その延長かと思っている。まだ襲撃した犯人は捕まっていないが、模倣犯の可能性もある。
警備が厳重なのはこれが理由のようだ。
勇者に関することで有益な情報はなかったが、メルシの襲撃からまだそれほど日はたっていないので、クグは様子がわかっただけでもよしとした。
「で、この後はどうするんだ?」
「知ってます? チョコレートミュージアムがあるんですよ」
「知らないが。それがどうした?」
「試食コーナーがあるので行かなければいけません。使命です」
「カレー食べたばっかりだぞ」
しかも、ハンバーグも入っておりボリューミーだった。
「大丈夫です。チョコは口に入れたら溶けちゃうんで、食べてないのと同じです」
「そういうものなのか?」
「そういうものなのです。あと、自分へのお土産も買わなければいけません。使命です」
「課長にお土産は?」
「何のことだかわかりません。というわけで、わたしはこれで」
キャサリンは足早に広場を去って行った。
昼食を終えたクグたちは、ゴズメズから得た情報をもとにワーリザードの村へ行く。
なんだか村が騒がしい。村の人たちが右往左往している。ところどころ柵や壁などが壊れた家もあり、板やが道に散らばっている。局所的な竜巻でもあったのだろうか。
とりあえず村長の家へ行く。
村長ともう1人が玄関ホールに立っている。人間でいうと50代後半くらいの比較的若い村長だ。
話が早いと思いクグは早速、話を切り出した。
「勇者学協会からの依頼を受けまして、伝説の武具について調査に来ました。こちらにエクスカリバーがあると聞いたのですが――」
「すまんが、こっちはそれどころではないんだ」
村長は困惑した様子で言った。




