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第63話 フルスロットル

「あいつらって、チョコレイツとかいう3人組じゃないか?」

 冒険者のくせに冒険者らしからぬ服装をして、自称アイドルを名乗っている変な人たちだった、とクグは思い出した。

「近年まれに見るコンプラに引っかかるレベルのディスりをしてきた、チョコバッツとかいうヤツらっすよね」

 ゼタも覚えていたようだ。

 

 3人は何かを探しているのだろうか、川岸を探索しながらクグたちの方に来た。

「どこかで見たことあるモブね」

 ピンク色のミルクが言った。

「もともとモブはどれも似てて見分けがつかないから、見たことがあるのは当然ですわ」

 黒髪のホワイトは高飛車だ。

「モブ中のモブ」

 金髪のビターは相変わらずひと言だ。


 まだ何も言っていないのに、いきなりパンチの効いたことを言われたクグは、早速、気分が悪くなった。

 しかし、見分けがつかないモブであるということは顔を覚えられていない証拠なので、任務遂行上では良いことだと思い直した。

 冒険者の面倒に巻き込まれたくないので、クグは気づかないふりをしていたが、向こうから話しかけてきた。


「ちょっとすいませーん。巨大なカメのモンスターが出現するって聞いたんだけど、見なかった?」

「倒せば一躍有名冒険者の仲間入りなのですわ」

「おまえらには渡さねえ」

 どうやらモンスター退治に来ているようだ。


「来たばかりだから知らない」

 巨大なモンスターだったら、聞かなくても見ただけでわかるだろとクグは思ったが、余計なひと言で反感を買うと面倒なのでぐっとこらえた。


「じゃあなんでこんなところにいるのよ。どうせ横取りでもしようと企んでいるんじゃないの?」

「わたくしたちをだまそうとしてもムダですわよ」

「人としてカス」

 まだ何もしていないのに、腹黒い冒険者に仕立て上げられた。


「そんなの興味ないから、勝手にやってくれ」

「そうっす。カメなんかいじめても楽しくないっす」

 ドンナモンド入手という勇者専用のイベントを作らなければならないので、冒険者のモンスター退治に興味などないし、そんなことに関わっている暇もない。


「なんかトゲのある言い方ね。あ、わかった。あたしたちのCDデビュー曲『クリスピーデイズ』聞いたんでしょ?」

「なんだそれ。聞いたことがない。知ってるか?」

「ハウル・オブ・マッスルの『脳汁は筋肉汁』なら知ってるっす」

「強がったってダメよ。曲を聞いてファンになったから、わざわざこんな所まで追っかけに来たんでしょ」

「熱烈すぎて半分ストーカーですわね」

「キモい」

 妄想がひどい。腹黒冒険者から、ストーカーまがいのファンに変わった。


「勝手にキモいファンにするな」

「正直にファンだと認めれば、セルフィートレーディングカード付き初回限定盤CDを、特別にサイン入りでプレゼントしちゃってもいいんだけど」

「ゴミになるからいらない」

「プロテインじゃないからいらないっす」

 クグは道具袋には余計な物を入れておきたくない派だ。ゼタは筋肉以外に趣味がないようだ。


「ひどくない? フリマサイトでプレミアな値段がつくレベルの激レアなんだけど」

「ツンデレをこじらせてるのですわ」

「どっちにしろキモい」

 今度はストーカーまがいのファンから、ツンデレこじらせファンに変わった。

 訳のわからない冒険者を相手にして、時間をムダにしている場合ではない。


「そっちこそ人の話を聞け。こっちは忙しいんだ」

「そっちこそ強情ね。ここで生歌を披露しちゃったら、こじらせツンデレどころじゃなくなっちゃうんじゃない?」

「特別ファンサービスしてるところをSNSにアップすれば、わたくしたちの好感度も爆上がりですわ」

「心して聴け」


 チョコレイツはスマホやら何やらを準備して整列した。

「あたしの槍に突かれたら、あなたのハートもピンク色! 非常階段を一段飛ばしでのぼっちゃう! ミルクでぃすっ」

「わたくしの魔法にかかったら、あなたのハートは萌え爆発! 魔法を避けたヤツはみぞおちパンチ! ホワイトですわっ」

「あたいにうっかり近寄ると、あなたごとハートをぶっ潰す! ハンマー・ゴスロリねえさんといったらこのあたい! ビターやでっ」

「わたしたち冒険者アイドル、『チョコレイツ』ですっ!」


「それでは聞いてください。あたしたちのデビューシングル『クリスピーデイズ』」

 スマホにつないだポータブルスピーカーから音楽が流れる。クグたちが頼みもしないのに、チョコレイツは勝手に歌い出した。


『じめっと憂鬱レイニーデイ

 シワのないシャツあなたのよ 誰のおかげか知ってんの

 洗濯屋さんのおかげだよ わたしがやるわけないでしょう

 濡れて帰るのチョーダルい あなたの傘を勝手に借りた

 だって化粧という魔法 雨でドロドロとけちゃうよ

 帰り道 寄って買ったのサクサククッキー

 1箱イッキにパクっとね

 女の子だって菓子むさぼる 太っちゃうけどやめられない

 別れ話はあなたから うすうすわかっていたんだよ

 むしろこっちが離縁状 フッてやったよバッキャロー

 あの日の傘は借りたまま そのまま返さずパクっちゃえ

 あなたになんて未練ない 傘を返すのメンドイの

 だってこんなに爽やかな空


 エクストリームなホットデイ

 (のり)がパリッとこのシーツ 誰のおかげか知ってんの

 洗濯屋さんで決まりでしょ わたしがやるわけないじゃない

 歩いて帰るのチョーダルい あなたの自転車勝手に借りた

 だって化粧という魔法 汗でドロドロとけちゃうよ

 帰り道 カラッと揚がったフライドポテト

 あっという間にパクっとね

 女の子だってむさぼり食う 揚げ物やっぱりやめられない

 別れ話はあなたから 思い出鮮やかフォトグラフ

 やっぱりダメ男は切り捨てる 分析簡潔ピリオドね

 あなたの自転車借りたまま このまま返さずパクっちゃう

 あなたになんて未練ない 自転車返すの惜しいだけ

 だってこんなに爽やかな風


 スナック菓子も揚げ物も 残しちゃっても泣かないで

 わたしが全部食べるから

 あなたの笑顔は忘れたの 夢になんかに出てきたら

 炒りたてピーナツ鼻の穴 詰め込んでやるギッシリと


 あの日の傘が濡れている わたしの涙が雨になる

 あなたになんて未練ない 戻らぬ時間が惜しいだけ

 だってこんなに爽やかな朝

 今日も私のクリスプ・デイ

 いつも私はクリスプ・デイ』


 クグもゼタも、曲にのることなく棒立ちで聞いた。いや、聞かされた。

 歌詞の内容は問題ありだが、アップテンポで元気な曲だ。だからといってファンになるようなものではない。クグには趣味が合わなすぎる。


「どうだった?」

 ミルクが笑顔で聞いてきた。どうと言われてもクグは何も感想が思い浮かばない。


「歌詞がクソっす」

「デリカシーないわね。女子のナイーブな気持ちがわからないの?」

「だからいつまでたってもモブ冒険者なのですわ」

「クソモブ」


 チョコレイツは言いたい放題だ。

「観客2人しかいないのに、よくやるな」

 クグは言われっぱなしもしゃくにさわるので、皮肉を込めて言った。


「お客さんが何人だろうと、あたしたちは常にアクセル全開なのがウリなの」

「ペース配分を間違えると大事なところでバテるぞ」

「あなた方には関係ないことです。余計なお世話ですわ」

「親戚のおっちゃんレベル」


 このままレベルの低い言い争いをしていたら、変態冒険者としてSNSにさらされかねないとクグは危惧した。しかも、まるまる1曲聞かされて時間を無駄にしてしまった。

 彼女たちに本来の目的を思い出させ、さっさと話を終わらせ帰ってもらわなければ、ドンナモンドの調査ができない。


「歌はともかく、そもそもこんなところに巨大なカメなんていないし、いたところでどうせ倒せないだろ」

「そうっすね。そっちこそとっとと帰りやがれっす」

「忙しいからさっさと出発するぞ。日が暮れる」

「うぃっす」

 出発するふりをすれば帰るだろうと思い、クグはマクーターの方へ向かう。


「ちょっと待った! モブに侮辱されるなんてプライドが許さない。実力を見せつけてやるわ。ホワイト、魔法をぶっ放してやってよ」

 ミルクはかなりご立腹のようだ。逆に長居させることになってしまった。

「そうですわね。では、あそこにある大きな岩を、魔法一撃で吹っ飛ばしてみせますわ」

 ホワイトが川の中心にある大きな岩を指して高圧的に言った。直径と高さが50ミートルくらいある山のような形の岩だ。

「心して見ろ」

 ビターは自分がやるわけではないのに偉そうだ。


 ホワイトは派手な装飾の杖を構え集中する。

「サンダーブラスト!」

 ド派手な雷が大岩に炸裂した。しかし砕けるどころか、傷ひとつついていない。

 一見派手だったが岩も砕けないレベルの破壊力だとわかり、クグは再度マクーターの方へ向かう。これで諦めて帰るだろう。


「なんか岩が動いたっすよ」

 ゼタが川の方を向いたまま言った。

「そんなわけないだろ」

「っていうか、カメっぽい頭と足が生えてきたんすけど」

「岩からそんなものが生えるわけないだろ。それはもはや岩ではなくカメだ」


 そう言いながらクグが振り返ると、ゼタの言うとおり大岩に頭と足が生えている。どう見てもカメだ。岩だと思っていたのは巨大なカメの甲羅だった。ゆっくりとこっちに向かってきた。


「怒ってるっぽいっすね」

「そりゃそうだろ。よりによって気持ちよく甲羅干ししてたところを雷で邪魔したら、誰だって怒る」


 スマホのアラームが鳴った。クグはすばやく確認する。ドンナモンド・レーダーからの通知だ。

 テクビゲを起動させると、川の中に表示された茶色の丸の様子がいつもと違う。


「動いてないか?」

「そうっすね。ってことはアレっすよね」

 あの巨大なカメの中にドンナモンドがあるということになる。

「ダンジョンにあるんじゃないのかよ」

「聞いてたのとゼンゼン違ったっすね」


 チョコレイツは探していた獲物を見つけ、戦闘態勢に入った。

「とにかく、あいつらが勝手に引きつけてくれている間にシラベイザーでデータ収集だ」


 素早くスキャンすると、調べた結果がスマホに表示された。

 巨大ガメ。固体名『ゲンブル』。土属性。タユタフ川のヌシ。甲羅がとにかく硬い。普通の武器や魔法では傷をつけることさえできない。甲羅以外の部分も分厚い装甲のような皮膚になっており簡単に傷をつけられない。弱点は寒さ。陸上での動きは遅いが、水中での動きは速い。口から衝撃波を放つ。


 こんなのどうやって倒せばいいのか。自分たちが倒すわけではないのだが、あまりの大きさにクグはただ圧倒された。勇者や冒険者など戦闘狂にとっては絶好の戦闘相手だろうが、クグにとっては恐怖でしかない。そして、冷静にデータを分析して勇者が戦うときの戦略など考える余裕もない。


 チョコレイツが先制攻撃を開始した。ミルクが最初に技を繰り出した。

「インパクトドライブ!」

 高速回転する槍が風を切りながら飛び、ゲンブルの甲羅に当たった。槍が甲羅を削るように鋭く回転する。しかし、傷ひとつつけることなくはじかれた。


「アイシクルシュート!」

 続いてホワイトの魔法。

 川からいくつもの水の塊が出現して大きなつららになり、ゲンブルを四方八方から襲う。すべて甲羅に当たったが、つららはすべて砕け散った。

 ゲンブルはどちらの攻撃も意に介さず進んでくる。まったく効いていないようだ。


「準備オッケーやで!」

 ビターはどこから拾ってきたのか、水際で木の板の上に乗っている。

「エアーショット!」

 ホワイトの風の魔法によって押されたビターは、板の上でハンマーを構えたままぐんぐんゲンブルに近づいていく。

「爆裂ダイナマイツ!」

 甲羅にハンマーがさく裂し、爆発が起きた。

 しかしビターのほうがはじき飛ばされ、頭から川に突っ込み、足だけが水面から出ている状態になった。


 ミルクとホワイトが慌てて駆け寄り、ビターの足をつかみ引き抜いた。

「大丈夫?」

「死んだと思った」

 ビターは身の危機にあってもひと言だ。


「死んでないならまだいけそうですの?」

「いやムリやて。手がメッチャ痺れてんねん。腕がもげたかと思ったわ。しかも頭から川に突き刺さるし。アカンてコレ」

 やはりひと言では済まなかったようだ。もしくは、今までキャラを作っていたのだろうか。


「でも、倒さないと有名冒険者に仲間入りできないし」

「腕の1本や2本、なんとかなりますわ」

「アホ言え。腕は2本しかあれへんちゅーねん」

 さっきからホワイトの発言はブラックだ。


「おーい。そんなとこで話し合いしてたら――」

 クグの忠告が届く前に、ゲンブルの発した衝撃波が3人に炸裂。ペシッという音がしたかと思うと、3人ははるか空の彼方へ飛んでいきキラーンと光った。お星さまになったのだろう。


「しまった。3人が戦っている間に逃げればよかった。私としたことが」

「明らかにさっきより怒ってるっすよ」

「甲羅干しの邪魔をされたあげく、わけのわからん3人組から一方的に攻撃されたら。そりゃ誰でも怒るだろ」


 ゲンブルはクグたちに狙いを定めてきた。とんだとばっちりだ。3人がいなかったら、じっとしているところを調べて何事もなく通り過ぎることができたはずだった。


「ヤバイっ、完全にロックオンされた。急いで川を渡って逃げるぞ」

 ヘルメットを装着している暇はない。ノーヘルのままマクーターに乗り込んだ。

 間髪入れずに衝撃波が飛んできた。二手に分かれよけると、ターボをかけてゲンブルの左右から通り抜ける。


 クグがゲンブルの横を通り過ぎようとしたら、前方からゴツゴツとした大きな尻尾が水面から勢いよく現れ、水しぶきがあがった。そして尻尾が激しく水面に叩きつけられ、さらに大きな水しぶきがあがった。

 クグはUターンして回避した。あんなのをくらったら、一撃でマクーターごとぺしゃんこだ。


 ゼタも戻ってきた。

「っぶねー、間一髪っす。衝撃波に当たるとこだったっす」

 二手に分かれても、ゲンブルのすぐ際は攻撃範囲内だ。大きく離れなければ逃げられそうにない。

 仮に二手に大きく分かれたとしても、どちらかは逃げられるが、狙われたほうの命はない。

 確実に2人とも無事に逃げられる方法を考えなければならない。


「全力ターボで引き離すぞ」

 川に沿って全力ターボで走った。しかし、ゲンブルは離れることなく追ってくる。

「急ブレーキをかけてUターンだ」

 フェイントでUターンをした。しかし、ゲンブルは悠々と方向転換し追ってくる。

 川の中では俊敏なようで、簡単に逃げることができない。ゲンブルはクグたちを見逃してくれる気はなさそうだ。


「仕方がない、応戦するぞ」

「待ってましたっ」


 応戦しながら隙を見つけて逃げるしかない。

 ゼタはゲンブルに向かっていく。

 クグもゼタをサポートするため、ゲンブルの正面に向かっていく。

 クグの剣では攻撃が効かないし、ダメージを与えるほどの攻撃魔法も持ち合わせていない。ゲンブルの注意を引きかく乱することに専念して、ゼタに攻撃を任せる。

 ゼタがゲンブルの背後にまわった。


 クグは腹をくくった。こうなったら安全運転どころではない。ノーヘル立ち乗り上等だ。前後左右の動きだけではなく、高さもコントロールしてゲンブルの頭の周りを飛ぶ。


 正面から突っ込んでいき、鋭いキバで噛みつこうとしてきたところを横へかわす。Uターンして遠ざかると、衝撃波が飛んでくるので急上昇してかわす。

 ターボを駆使すればなんとかいけそうだ。


 ゼタは尻尾のなぎ払い攻撃をかわすと、坂をのぼるように甲羅を一気にのぼり、てっぺんまで来るとメイスを思い切り振り下ろした。しかしゲンブルの様子は変わらない。


 ゼタは手がしびれているようだ。

 甲羅が異常に硬く、ゼタのメイスはまったく効いていない。少しでも怯んでくれれば、川を渡りきることができるのだが。

 剣で甲羅ではないところを斬りつけてみようにも足は水の中だし、尻尾はなぎ払う攻撃をしてきて動きが激しく、逆に剣を弾き飛ばされてしまいそうだ。頭は噛みつき攻撃があり、うかつに近寄れない。


 ふと気づくと、クグの左側から大きな尻尾が迫ってきている。慌てて急浮上しなんとかよける。ゆっくり考え事をしてる余裕もない。


 ゼタは噛みつき攻撃をバックで避けると、メイスを振り下ろした。メイスの先端から火の玉が勢いよく飛び出し、ゲンブルの頭をめがけて飛んでいく。

 ゲンブルは素早く頭を甲羅の中に引っ込めた。火の玉が引っ込めた頭の上側の甲羅に炸裂し、激しく爆発した。上級魔法のエクスプロージョンだ。少しは効いたはずだ。

 爆発の煙が消えると、甲羅は煤けているが、ダメージにはなっていなさそうだ。


「ウヒョーッ。スゲーかてーっす」


 ゲンブルはすぐさま頭を出し、攻撃を再開した。少しでもひるんで隙ができればと思ったが甘かった。

 物資課の人たちが全員で一斉に宝箱を全力で投げつければ、甲羅にダメージを与えることができるかもしれないが、今できもしない戦法を考えたところでどうしようもない。


 倒さなくていい。川を渡ることさえできればいい。川を渡りきってしまえば、陸にあがってまで襲ってこないだろう。

 どうしたらいいのか。クグは攻撃をよけながら考える。シラベイザーで調べたとおり寒さに弱い。川が凍るほど寒ければ動きも鈍るし、凍った川では動きづらくなるので、逃げ切れるかもしれない。この手でいくしかない。


 クグはいったん川岸へと戻りゲンブルから距離をとる。ゼタもクグの動きを見て、川岸まで戻ってきた。


「どうしたんすか?」

「魔法で川ごと凍らすことはできるか?」

「川ごとっすか? 川全部はムリっすよ」

「全部じゃなくていい。ゲンブルを中心に一部が凍るだけでいいんだ」

「それならできるっす」

「ゲンブルの周りを凍らせて動きを封じ、その隙に逃げるぞ」

「倒さなくていーんすか?」

「そんなことができる戦力ではないだろ。それに、ドンナモンドを持っているから倒すのは勇者の仕事だ。ゲンブルごと凍らせるならいいぞ」

「そんじゃあ、その戦法でいくっす」


 ゲンブルは川の中心で待ち構えている。


「私が引きつけておくから頼んだぞ」

 クグはそう言うと、ゲンブルの正面へと距離をつめる。注意を引きつけ、ゼタがゲンブルの死角になるよう誘導する。


 一方、ゼタはゲンブルの後ろ斜め上でマクーターをホバリングさせ立ち乗りし、両手でメイスを頭の上に構え、魔法に集中する。メイスの先端に黒く丸いものができ、徐々に大きくなっていく。


 クグはゲンブルがいら立つように、頭の付近を飛ぶ。まるでハエのようだとクグは思った。

 いくら対モンスター補償をつけてあるからといって、安心して壊していいわけではない。

 こんなときこそ公務員魂だ! 公務員として、民間から借りた物を壊して返却するわけにはいかんのだ! 全力ターボ・フルスロットル!

「公務員をなめるんじゃねぇぇぇ!」


 魔力出力3倍、機動力3倍だ! もはやクグの動きは残像して見える速さ! とまではいかないが、スピードアップしてゲンブルを翻弄し、右へ左へ上へ下へと攻撃をかいくぐる。しかし、あまり長くもたせられそうにない。

「早くしてくれっ」

 思わずグチがこぼれる。


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