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第57話 聖剣グラディウス

 ブーメランパンツを履いたマッチョが4人、砂浜をさわやかに小走りでやってきた。あれは物資課の方たちだ。土木課が所持しているトラック型魔動車をお願いしたはずだが、影も形も見当たらない。


「やあ、久しぶり。物資課のマチョスだ。これが例のゴリラ檻だね。うん立派なゴリラだ。ハッハッハッ」

 到着するなり、マチョスさんが言った。


「トラックがないようですけど」

「トラックなんかなくても、私たち4人の筋肉があれば十分担いでイケるぞ。ハッハッハッ」

「やっぱ、筋肉ってヤベーッす!」


 なぜ土木課にトラックを頼まなかったのか、とクグは思った。スタボーン課長のことなので、車両の持ち出しは手続きが面倒だから、人の派遣だけで済ませようと思ったのだろう。

 とにかく頼むよりほかはない。ダメだったら再度、課長にトラックを要請するしかない。


「それではお願いします」

 四隅にマッチョがスタンバイし、「せーの」のかけ声で一気に担ぎ上げた。

 金庫のように重い宝箱を毎日担いでいるからか、まったく問題なさそうだ。


「では行きましょう。ハッハッハッ」

 ゼタの誘導で進む。どう見てもゴリマッチョがゴリラ御輿(みこし)を担いでいるようにしか見えない。

 クグは後ろからついていく。できれば離れて歩きたい。仲間だと思われたくないからだ。結局、力業で運ぶことになるとは思ってもいなかった。


 サハギン村の近くまで戻って来た。

 クグは村での約束を思い出した。マチョスさんの横へ行く。

「あの村でゴリラたちが暴れたんです。捕まえたことを報告したいのですが」

「よし、それならいったん村に寄ろう。ついでに休憩をとらせてもらえるとありがたい。ハッハッハッ」

「では、私たちからプーションの差し入れをします」


 村に入るとサハギンたちが集まってきた。檻のゴリラを見て、やんや、やんやの大喝采だ。まさに、ゴリラ神輿が村を練り歩いているようだ。

 サルーズは毒キノコの効果は切れたようだが、檻の中でションボリして座っている。

 村の真ん中の広場に置かれたゴリラ檻を中心に、村中のサハギンが集まりあれやこれや話し合っている。

 村長も何事かと出てきた。無事サルーズを捕まえたことを報告したほうがよさそうだ。


「マチョスさんたちにプーションを差し入れしておいてくれ」

 クグはゼタに言うと、村長のもとへ行く。大変お騒がせしたことへの謝罪と、無事ゴリラを捕獲できた報告をした。

 村長に何度もお礼を言われた。さらにクグは、村の売店へ連れて行かれ、

「お礼にフィレッシュ水産のもので、好きな物をひとつもらっていってくれ」

 と言われた。

 塩クッキーや塩チョコドーナツ、つくだ煮、ふぐ刺し(冷凍)など、さまざまな品が並んでおり迷ってしまう。

 しかし、無償でもらうわけにはいかない。仕事の成り行き上、仕方なくやったことだ。

 クグはサハギン印の塩コンブを購入した。藻塩が使用されており、ミネラルたっぷり、まろやかな塩味でオススメの一品だ。

 経費で落ちないので、300モスルとお手ごろな値段だったのも決め手だ。


 広場に戻ると、プーションを飲み終えたマチョスさんたちとゼタが、サハギンたちと何やら話している。

「どうしたんだ?」

「なんか、この村に聖剣があるらしいっす」

「ご神体としてまつっている巨石があって、そこに剣が刺さっているらしいんだ。ハッハッハッ」

「ゴリラを捕まえた英雄だから、その剣を引き抜くことができるかもしれないってことらしいっす」


 サハギンたちが言うには、

 数か月前、ダイオウイカが漁で捕れた日に、村の外れに雷が落ちた。見にいくと、まつっている巨石に剣が刺さっていた。

 肉厚で幅広、長さもそれほど長くないことからグラディウスだと思われる。『聖剣イカのグラディウス』と呼んでいる。まだ引き抜いた者はいない。

 ということだ。

 クラーケンから取れたグラディウスではないが、これまでで一番有力な情報だ。


 最初からこちらに足を延ばして聞き込みをしていれば、ゴリラ捕獲などという無駄足を踏むこともなかった。いや、ゴリラ捕獲をしたから剣について知ることができたとも言える。

 青年団リーダーのニガハさんの案内のもと、聖剣を見に行くこととなった。マチョスさんたちも一緒だ。


 村外れの木々に囲まれた小道を行く。開けた場所に出た。

「あれが俺たちの守り神、ハコフグ様です。漁の安全と豊漁を祈願します」

 木々に囲まれた広場の中央奥には、長さ6ミートル、高さ3ミートルほどの巨石が鎮座している。

 直方体の巨石の側面に覆われた亀裂が六角形の模様になっており、ただの巨石がハコフグのように見える。左下の突き出た部分が、心なしか口に見えなくもない。

「守り神ってことは、ハコフグは漁で捕れても食べないんすか?」

「もちろん食べますよ。俺たちサハギンはフグの毒が効かないんで、内臓ごといっちゃいます。貴重な栄養源ですよ」


 巨石の上部のちょうど中心に何か棒のようなものが見える。

「あれが聖剣ですか?」

「そうです。雷によって出現した聖剣です。というわけで、引き抜いてみてください」

「ゴリラを捕まえた英雄の君からだな。ハッハッハッ」

 クグはマチョスさんに言われ戸惑った。

「私に引き抜けるわけがないでしょう」

「さあさあ、どうぞどうぞ」

 ニガハさんからも、立てかけてあるはしごに登るようすすめられた。


 誰も引き抜けなかったら、勇者のイベントとして設定できるかもしれない。万が一、引き抜けたとしても、特殊な武器であれば宝箱へ入れられる。調査をしなければいけないので、クグはお言葉に甘えて先にのぼらせてもらうことにした。


 巨石の中心に、金色に輝く剣が刺さっている。しかし、剣というにはどうも様子が変だ。肉厚というレベルではない。かなり分厚い。そして、刃がない。どう見ても閉じたハリセンだ。

 ハリセンの先端が石に突き刺さっている。いや、刃がないので、めり込んでいると言ったほうがいいだろう。持ち手の部分だけが、剣のグリップような形になっている。

 サハギンたちはハリセンを知らないのだろう、間違えるのは無理もない。


 いったい誰がこんなイタズラをしたのだろうか。さっさと引き抜いてしまえばいいのに。しかし、誰も引き抜けないと言っていたし、雷が落ちて現れたとも言っていた。

 クグは剣のグリップを握り引っ張るがびくともしない。前後左右にも動かない。

 通常であれば少しくらいはグラグラ動くはずだが、まったく動かないところをみると、特殊な力を持った者しか抜けないものであろうことが予想される。

 サハギンたちが、選ばれた英雄しか引き抜けないと言うのも納得だ。

 勇者なら引き抜けるかもしれない。しかし、堅い素材であれば多少の攻撃力はあるだろうが、モンスターを倒せるほどの殺傷能力はなさそうだ。魔族にだけ絶大なダメージを与えられるとか、相手を特殊な状態異常にするとか、何か特殊な効果があるのかもしれない。

 見たこともないものなので、物資課の人にも見てもらったほうがいいだろう。

 クグはとりあえず金色のハリセンをスマホの写真に収め、はしごをおりた。


「どうだったっすか?」

「ピクリとも動かん。というか、あれは剣ではなくハリセンだ」

「ハリセンってなんですか?」

 ニガハさんからまじめに聞かれて、クグは返答に困った。

「何というか……打撃系の武器というか」

「へえ」

 ニガハさんの反応は微妙だ。

「剣だろうがハリセンだろうがなんだっていいじゃないっすか。次は俺がやるっす」

 ゼタがのぼっていった。顔が真っ赤になるほど力んで引っ張っているが、びくともしないようだ。気が済むまで少しかかりそうだ。

 クグは今のうちに、マチョスさんに確認をとることにした。


「ハリセンが勇者の武器になった例はありますか?」

「うーむ。聞いたことがないな。ハッハッハッ」

 マチョスさんは腕組みをしながら言った。他の物資課の人も、同じポーズで考えているが、思い当たらないようだ。

「私ではよくわからなかったので、詳しく見てもらってもいいですか?」

「わかった。調べてみよう。その代わり、自分が引き抜いて勇者の武器にできたら、自分の手柄ということでいいんだよな。ハッハッハッ」

「それに関しては問題ありません」


 ゼタが諦めておりてきた。

「いやー、ゼンゼン動かなかったっす。最初からハコフグ様に生えてたんじゃないっすか?」

「次は私の番だな。ハッハッハッ」

 マチョスさんがのぼっていった。しばらく調べるのかと思いきや、間髪入れずに「ぬおりゃー」という気合いのこもった声が聞こえてきた。巨石が壊れるのではないかというくらい、力いっぱい引っ張っている姿が見える。

 先に調べろよ、脳筋か、とクグは思った。

 マチョスさんがおりてきた。


「いやー、まったく歯がたたなかった。私の完敗だ。ハッハッハッ」

「ところで、調べる様子がなかったのですが。何かわかりましたか?」

「見てわからないものは、調べようがないぞ。そんなときは筋肉で解決だ! ハッハッハッ」

 わからんのかい。この人も脳筋だったのをクグは思い出した。ある意味、いさぎよい。

 物資課の他の人たちもチャレンジしたが、誰も引き抜くことはできなかった。

 村の広場に戻ってきた。


「サハギンの皆さんや、人間の力自慢でも抜けないということは、勇者なら引き抜くことができるかもしれないですね」

 クグにはやはりこれしか思い当たらなかった。

「たしかに、その可能性はあるな。ハッハッハッ」

「そういえば、以前の勇者にはお世話になったっけ。今回の勇者はどんな人か知らないけど、世界平和のために使われる武器がうちの村から出るなら、それはそれで誇らしいな」

 ニガハさんが言うと、ほかのサハギンたちも納得いく様子でうなずいた。誰も異論はないようだ。


 イカコーラではイベントにならないし、ソチャノウォーター研究所の開発がそんなに早くできるわけもない。今回は、グラディウスという名の金のハリセンを手に入れる、というイベントを設定することになりそうだ。

 ハリセンの詳細については、オフィスに戻ったら、過去のデータベースから調べなければならない。最終的に勇者のイベントにするかどうかは、上層部の会議で決まることになるだろう。


 あまり長居をしていられないので、サハギンの村をあとにした。

 クグはSNSでソチャノウォーター博士に、『もうすぐ着きます』と連絡を入れておいた。


 ソチャノウォーター研究所に着くと、門の前にトラック型魔動車が停車していた。

 守衛さんの指示のもと、ゴリラ檻をトラックの荷台に載せた。トラックは早々に研究所の奥へと行ってしまった。マチョスさんたちも早々に帰って行った。

 入れ替わりで、ソチャノウォーター博士がやってきた。


「遅いじゃないか。トラックを迎えにやろうかと思っていたところだ」

「トラックがあるなら、先に言ってくださいよ」

「なんとかなるかなーと思って」

 ソチャノウォーター博士は、あっけらかんと言った。おかげで無駄な苦労をした。


「ともかく、これで武具の開発ができるんですよね」

「それは任せて。ところで、勇者が近くに来るなら、サルーズが逃げたら捕まえるのをお願いしてみようかな」


「勇者がそんな雑用をするとは思えないですけど。業者でも冒険者でもないんですから。そもそも、そんな都合よく逃げるんですか? それともわざと逃がすんですか?」

「両方かな。どのみち隙をみてまた逃げ出すし」


「なんで逃げやすいままにしておくんですか。ちゃんと対策しておいてくださいよ」

「対策といってもねえ、研究で忙しいし。逃げたいんだったら逃げればいいじゃん。それくらいの権利は彼らにもある」

「飼い主として、ご近所さんに迷惑がかからないようにするくらいしてくださいよ。サハギンの村で暴れてたんですよ」

「へえー。気晴らしになったならいいんじゃない」

「よくないですよ。飼い主なら菓子折り持って謝罪に行く案件ですよ。なんで私が尻拭いしなければいけないんですか」

「やっといてくれたならそれでいいじゃん」

 反省の色がまったくない。こういう人には、何を言っても聞かないのだろう。


「だったら、どっかにカメキノコランドでも作って、逃げたらそこにおびき寄せるってのはどうっすか?」

「カメキノコランドってなんだよ。却下だろ」

「工場の新設の予定で買ったけど結局、使ってない空き地ならあるぞ。ここから少し西に行ったところだ」

 ソチャノウォーター博士は少し興味があるような感じだ。


「そもそも、そのランドで何をするんだ?」

 クグは訳のわからないランドに懐疑的だ。

「カメとキノコをたくさん置いておけばいいんじゃないっすか」

「それだとなんか物足りないね。もっとウホウホワクワクするようなアイデアはないの?」

 ソチャノウォーター博士は興味が増してきたようだ。


「ウホウホって言われても……遊園地みたいなアミューズメント施設とかですか?」

「遊園地だったら、カメの歩くスピードで回るカメメリーゴーランドは外せないっす。もちろん乗るのはカメの甲羅っす」

「ゴンドラがキノコの形をした観覧車もいいかもね。もっとウホウホワクワクなアイデアをちょうだい」

 ソチャノウォーター博士は白衣のポケットからメモを取り出し、書きつけながら言った。


「アドベンチャーエリアはどうっすか? 甲羅にトゲがあるカメとか、踏むと爆発する地雷カメとかを倒しながら、いろんな地形のステージを進んでご褒美キノコを取るやつっす」

「火炎噴射で空を飛ぶカメ、火を吹くカメなどが襲ってくるのもアリだね。運動不足解消にもなりそう。ウホウホワクワクしてきたじゃない」

 ソチャノウォーター博士はノリノリでメモを取っている。


「そんなカメがいるんですか?」

「これまでの研究を組み合わせればできなくもない」

「なんか怪しそうな研究ですね」

 ミュータントやキメラなどの生命体でも研究しているのだろうか。町では「怪しげな生命体を作っているのでは」というウワサもあった。

「人聞きの悪い。確固たる知識に裏付けされた卓越した技術をベースに、既成概念にとらわれない柔軟な発想で多岐にわたる研究だぞ」

 それが怪しげな研究だとウワサされているのがわからないのだろうか。


「マッチョに変身するキノコってないんすか?」

「そのアイデアもらった。他の研究とキノコを組み合わせてお助けキノコを作れば、ステージ攻略が楽しくなるぞ。美肌キノコ、育乳キノコ、一定時間火の玉で攻撃できるようになるキノコなど、新商品の実験にも使えそう」

 お助けキノコって何だよ。怪しいので食べたくない、とクグは思った。


「カメキノコランドもいいですけど、武具の開発を忘れられると困るんですけど」

「そうそう、イカ武具研究の耐久テストとか、いろんな試作品の実験フィールドとしても使えそうだね」

 カメキノコランドが中心になってしまっているのは、もはや変えられないようだ。

 武具の開発がはかどるのであれば、それに越したことはない。


「とにかく、よろしくお願いします」

「準備が整い次第、サルーズにカメキノコランドの地図を見せて逃せば、喜び勇んで向かう姿、そしてウホウホハッスルして遊ぶ姿がありありと目に浮かぶ。こうしちゃいられない。じゃ、忙しいんで」

 ソチャノウォーター博士は急ぎ足で研究所へと戻って行った。

 日が傾いてきた。こんなところに長居している場合ではない。クグとゼタもオフィスへと戻った。


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