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第45話 強襲!

 ヤブの中へと入ると体に何の抵抗もなくすり抜けた。幻覚魔法でヤブのように見せかけているだけだ。


 幻覚のヤブを抜けると開けた場所に出た。森の雰囲気は、先ほどまでの爽やかな雰囲気とは打って変わって重く湿った空気が漂う。ざわざわと鳴る葉擦れの音が不安をかき立てる。


 早速モンスターが地面からわいて出てきた。体長1.2ミートルほどのキノコのモンスターだ。

 シャグマアミガサマッシュ。胴体は茶色。カサの部分が赤褐色で脳のようなシワになっている。激しい毒攻撃をしてくる。

 カエンマッシュ。全体が赤色で、カサの部分は火が燃えているような形だ。逆立った髪のような形にも見える。毒だけでなく火の魔法も使ってくる。

 ドクツルマッシュ。別名『破壊の天使』と呼ばれる全体が真っ白のヤツ。こいつの毒は猛毒で、通常の毒より体力の減りが早いうえに、攻撃力も半分以下に落ちてしまうだけでなく、あらゆる状態異常にかかってしまう。

 2体ずつ計6体の群れだ。


 ゼタの先制攻撃だ。すかさずメイスを2回連続で振り下ろした。火の玉とつらら状の氷の塊がモンスターに向かって飛んでいく。火の玉がシャグマアミガサマッシュ1に、つららがカエンマッシュ1に炸裂し倒した。


 カエンマッシュ2が火の玉を打ってきた。ゼタがマッスル・リフレクションで打ち返す。打ち返された火の玉がドクツルマッシュ1に炸裂し燃やし尽くした。


 ゼタの反撃中にモンスターの近くまで詰め寄っていたクグは、火の玉を打ち返され動揺しているカエンマッシュ2を一刀両断した。


 ドクツルマッシュ2が毒胞子を飛ばしてきた。クグが盾を構えるとタワーシールドほどの大きさの炎が出現した。『ファイヤーウォール』だ。上級魔法使いなら大きな炎の壁になるが、クグの場合は初級なので『炎の盾』レベルだ。しかし、毒胞子を防ぐ程度なら十分だ。炎が消えるとダッシュでドクツルマッシュに駆けより横に切り裂いた。


 左から飛びかかってきたシャグマアミガサマッシュ2にクグは気づくと、とっさに横へ倒れながら剣を突き出した。シャグマアミガサマッシュ2の胴体を剣が貫いたと同時に、ゼタのメイスが上から炸裂し、脳のような形の傘が叩き潰された。


 最初の戦闘から、なかなかハードなお出迎えだ。

 とはいえ、森の中ならゼタは不用意に筋肉圧縮魔法(マジッスル)を使えないので、クグも安心して戦える。お互いサポートし合えば、とくに倒すのが困難な敵ではなさそうだ。

 倒したモンスターは胞子が散るように消え、あとにはアイテムの毒キノコが落ちている。痺れキノコと眠りキノコだ。使いどころがあるかわからないが、とりあえず道具袋へ入れておく。


 森の中を見渡すと、幅の広い一本道が奥へと続いている。まるで誘導されているみたいだ。

 モンスターを倒しながら進んでいくと開けた場所に出た。池があり、うっすらモヤがかかっている。


「この池に棲む妖精は、心の奥に潜む恐れる存在の幻覚を見せるというウワサ話がある」

「幻覚を見たらどうなるんすか?」」

「ただの幻覚ではない。実体化し襲ってくると言われている」

「ヤバそうっすね」

「気にすることはない。恐れず何も考えなければ、幻覚など出ることはない。さっさと行くぞ」


 クグがパシュトと任務に来たときは、何も考えず通り過ぎたので何も起こらなかった。

 クグは前回と同様に、何も考えないようにして進む。ゼタは脳筋でもともと何も考えていないので、今回も何も起きないだろう。

 モヤが少しずつ濃くなってきた。薄気味悪いので早く抜けたほうがよさそうだ。

 いつぞやみたいに、筋トレしながら歩くとか余計なことさえしなければゼタも静かなものだ。足音さえも聞こえない。

 クグはおかしいと思い横を見るとゼタがついて来ていない。振り返ると、ゼタはモヤの中をまっすぐ見つめている。


「先を急ぐぞ。おい、どうした」

 クグはゼタのところまで戻り、ゼタが見つめるモヤの中に目を凝らした。

 黒い影が飛ぶようにこちらに向かってくる。


 クグは慌てて横へ飛びのく。地面に強い衝撃が走った。

 クグがヒザをついた状態で振り返ると、さっきまでいたところには大きな衝撃のせいで土煙があがっている。ゼタも無事に避けられたようで、立ち上がりながら舞い上がる土煙を見ている。


 モヤと土煙が徐々に消えていき何者かの姿が見えてきた。クグはゆっくり立ち上がりながら目を凝らす。

 ワーウルフか? いや、違う。全身は毛で覆われているが毛足は短い。二本足で立ち、大きさは一般的な成人男性くらいだ。そして顔は……ハムスターだ!

 かわいげを1ミリも感じない。体つきがバッキバキに仕上がっているナイスマッチョだ。腹筋が板チョコじゃねーか!


「ゴゴゴフ!」

 ゼタはそう言うとメイスを地面に落とした。

「なんだって?」

「俺が『マッスル・ハムちゃん』で育ててるゴゴゴフっす!」


 いつだかそんな話を聞いたが、実体化するとこんな恐ろしい姿のヤツだとは、クグは思いもしなかった。

 ゴゴゴフはゼタに襲いかかった。鋭い爪の引っかきやパンチ・キックの猛ラッシュだ。


「ゴゴゴフ! 俺だ。目を覚ませ! いつものように筋肉で返事してくれ!」

 ゼタはゴゴゴフの攻撃を避けながら必死で呼びかける。


「話しかけてもムダだ。思念が実体化しただけだ。ただの丸太人形が幻覚でそう見えるだけだと思って、さっさと倒すしかないぞ!」

「無理っす! めっちゃかわいがって育ててるのに」


 クグは捕らえられるようマヒ魔法ウゴケヘンをかけた。しかし効いていない。実体化しているとはいえ幻覚と同じようなものなので、ステータス異常などの補助魔法は効かないようだ。


 防戦一方のゼタに対し、ゴゴゴフのラッシュは止まらない。ゼタが倒さないなら、自分が倒すしかない。取り憑かれたようにゼタを攻撃しているので、背中から斬りつければ倒せるはずだ。ただの人形であり、かわいいゴゴゴフなどではないし、そもそも愛着などない。倒しても罪悪感はない。クグは剣を抜いた。


「手を出さないでくださいっす!」

「どうするんだよ!」

「俺とゴゴゴフの問題っす!」

 だからといって、このまま見ているわけにもいかない。万が一のために剣は鞘に納めず、クグは成り行きを見守る。


 ゼタとゴゴゴフは両手をがっしり組み合い、真っ向勝負の力比べが始まった。最初は均衡状態だったが、徐々にゼタが押されだした。やはりバッキバキに仕上がっているゴゴゴフには、ゼタでもかなわないのか。

 ゼタは唸り声をあげならが押し戻し、さらに押し込んだ。

 押し返されて不利になったゴゴゴフはゼタの足を払って転ばすと、追撃でパンチを振り下ろした。ゼタは大きく横に転がって避け、素早くネックスプリングで起き上がった。


 ゴゴゴフはゼタに休む暇も与えず突進する。ゼタは両腕を顔の前に持ってきてガードの姿勢をとる。ゴゴゴフは突進しながら渾身のパンチを繰り出した。ゼタに強烈なパンチが当たったと思いきや、すんでのところで横っ飛びをして避けた。


 するとゴゴゴフは追撃せず、つま先立ちで両手をバタつかせている。何をしているのかとよく見ると、勢い余って今にも池へと落ちそうになっており、池のふちギリギリでなんとか踏ん張っている。


 ゼタはそんなゴゴゴフにゆっくり近づくと、無情にもゴゴゴフの尻を蹴飛ばし池へと突き落とした。激しい水しぶきをあげてゴゴゴフは池の底へと沈んでいった。

 なんとか無事にゼタが勝ったようだ。幻覚に負けるほどヤワな男ではなかった。

 クグは胸をなでおろしながら剣をしまう。ゼタのメイスを拾い、池を見下ろすゼタに手渡した。


「よし。先を急ぐぞ」

「楽しかったぜ、ゴゴゴフ」

 不意に池が光りだした。そして、池の中から白い衣をまとった髪の長い女性が現れた。池の妖精のようだ。切れ長の瞳で妖艶な面持ちだ。

 池の妖精が口を開いた。

「あなたが池に落としたゴゴゴフは、ゴリマッチョのゴゴゴフですか? 普通マッチョのゴゴゴフですか? それともヒョロガリのゴゴゴフですか?」


 クグは思った。何を言っているんだコイツは。

 池の妖精がそろえて差し出した両手の上にはゴリマッチョのゴゴゴフと、普通マッチョのゴゴゴフと、ヒョロガリのゴゴゴフが乗っている。文字どおり手のひらサイズだ。


「普通マッチョのゴゴゴフです!」

 ゼタは妖精の問いかけに真っすぐな瞳で答えた。


「正直なあなたには、『マッスル・ハムちゃん アイテム100連ガチャボーナス』を差し上げます。これからもご自身の鍛錬だけではなく、ゴゴゴフの鍛錬も頑張ってください」

 池の妖精はそう言うと、池の中へと消えていった。


 ゼタはスマホを取り出すと、何やら一生懸命確認しだした。

「スゲー! ほんとに『アイテム100連ガチャボーナス』が届いてるっす。やったー!」

 ゼタは右手に持ったスマホを頭上に上げ喜んでいる。

 何のイベントだ、コレは。クグは生暖かい目でゼタを見るしかなかった。



 その後、遭遇したモンスター。

 クリクイ。リスのモンスターだ。木の実をメチャメチャ食う。口からはみ出すほど頬袋に木の実をためる習性があり、常に頬袋が木の実でモッコモコだ。口から木の実を飛ばして攻撃してくる。

 ヒヨコッコ。ヒヨコのまま大きくなる飛べない鳥のモンスター。ずんぐりモフモフだ。大きいヤツは人間の大人くらいの大きさになる。外見とは裏腹にケッコー凶暴だ。睡眠状態になる魔法ネムインをかけてくる。


 体格の良いクリクイが現れた。

 クリクイが木の実を飛ばしてきた。ゼタはメイスを強振した。しかし空振りした。ゼタの後方に立っていたクグは、膝もとに飛んできた木の実をしゃがんで盾ではじいた。

 クリクイが続けて木の実を飛ばしてきた。ゼタは再びメイスを強振した。しかし、またもや空振りだ。クグは盾で木の実をはじいた。

 余裕しゃくしゃくの顔をするクリクイ。一方、悔しそうな表情をにじませるゼタ。しゃがんで盾を構えるクグ。辺り一帯に緊張が張りつめる。

 クリクイは足場をならして構える。ゼタも足場をならし構えた。クグはツバを飲み込む。

 クリクイの口から木の実が発射され、猛スピードでゼタへと向かう。ゼタの目が一瞬光った。飛んできた木の実に強振したメイスがクリーンヒット。木の実ははるかかなたへと飛んでいった。

 がっくり膝をつくクリクイ。ゼタはメイスを掲げ勝利のポーズだ。

 クリクイは肩を落として去って行った。

「ゾーンに入ったんで、止まって見えたっす」

 何のゾーンだ。それ以前に、何の勝負だったのかクグには理解できなかった。


 体長1.8ミートルほどのヒヨコッコが1体出現した。ゼタが突っつき攻撃をかわしてヒヨコッコの背中に飛び乗った。

「これに乗っていけば、モフモフだしラクっすよー」

 ゼタはヒヨコッコの頭をバシバシ叩いて楽しそうだ。

 ゼタを背中に乗せバシバシ頭を叩かれているヒヨコッコが、目を血走らせて「コケーッ」と鳴きながらクグの方へ突進してきた。

 クグは慌てて茂みの中へ避けた……まではよかったが、急激かつ強烈な眠気に襲われた。

 どうやらヒヨコッコに睡眠魔法ネムインをかけられてしまったようだ。茂みからなんとか出てきたが、地面に膝をつき剣を杖代わりにして、寝ないよう耐える。


 クグの目の前に影が見えた。モンスターかと思い顔を上げるとゼタだ。手には『デカイカーワ天然水』の空き瓶が握られている。ラベルにチラッと『瓶詰め人:ゴンザレス』と見えた。空き瓶で頭を殴りつけ、特殊効果で睡眠状態を解除する魂胆だ。

 そうはさせん。クグはおぼつかない手で道具袋から、ラベルに『瓶詰め人:トメキチ』と書かれた『デカイカーワ天然水』の空き瓶を取り出すと、自らの手で兜の上に瓶を振り下ろした。


 兜に炸裂した瓶が粉々に割れる。兜から程よい刺激が頭を通り背筋へと伝わる。

 キターッ! 目が覚めた! クグは即座に立ち上がった。おめめがパッチリだぜ。

 ゼタは少し残念そうな顔をして空き瓶を道具袋に戻した。クグはゼタに瓶で殴られるのをなんとか避けることができた。


 しかし、今ごろになってクグは気がついた。睡眠解除魔法のオキルンか、状態異常回復魔法のスコヤカンをかければよかったことに。

 他の誰かに見られたわけではないが、自分としたことが、脳筋な手段を使ってしまったことに恥ずかしさを覚えた。

 睡眠にかかりかけたせいで正常な判断ができなかっただけだ。決して脳筋の影響など受けていない……ハズだ。クグは心の中で言い訳をした。


 その後は、モンスターを倒したり追い払ったりしながら森の奥へと順調に進んでいく。

 そして、行き止まりまで来た。目的地へはまだ着かない。むしろこれからが本番だ。

 正面には、一本足の木製の台が地面に打ちつけられ立っている。高さは腰の高さまである。

 台を見ると『スタート』と書かれた赤い押しボタンがある。


「なんすかこれ。押してみよ。ポチッと」

「あ、コラ」

 クグがこの森の説明をする前に、ゼタはボタンを押してしまった。


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