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第43話 勇者、ボッカテッキ


 前日は野営をし、早く朝から出発した勇者モモガワ一行は、もうすぐ次の町だ。

 しかし、ドクバリブッサスの群れが目の前に立ちふさがる。好戦的なハチのモンスターで強力な毒針をもつ。


 勇者ヘラクレスタロウ・モモガワはロングソードをシュバッとカッコつけて引き抜くと、真っ先に敵陣へと斬り込んだ。群がる敵を斬り捨てていく。


 イヌジンの戦士バウバ・イヌコマは、バトルアックスを振り回し敵を弾き落とした。

「ギガトマホーク! ぅおりゃ!」

 投げられた斧が敵を次々と切り裂きながら飛び、ブーメランのように手元に戻ってきた。


 サルジンの武術家ロリス・サルミダは、舞うように九節鞭(くせつべん)を回し襲いくる敵を的確に打ち落とす。

「ホイッ、風斬りの刃!」

 魔力を込めながらひときわ素早く回転させた九節鞭から真空波が3つ4つと発生し、敵を切り裂いた。


 トリジンの魔法使いシュバルツ・トリゴエは杖をかざす。

「くらいなさい、サンダースピア!」

 槍のようなカミナリが次々と降り注ぎ、残った敵を貫いた。

 ドクバリブッサスの群れを倒した。


「チョーラクショー」

 モモガワは余裕しゃくしゃくだ。

「俺様の手にかかればどんな敵もザコだな」

 イヌコマは勝ち誇ったように言った。

「手応えなかったねー」

 サルミダはいつも笑顔だ。

「さあ、もうすぐ町です。先を急ぎましょう」

 トリゴエはなんどきも気を抜かない。


 昼前にようやく町へと着いた。

「ウフフ。ようこそボッカテッキの町へ」

 勇者たちは町に入るなり出迎えの挨拶を受けた。

「どの町でも毎回、『ようこそ』と町の名前を言って出迎えてくれますね」

 トリゴエは少し疑問に思った。

「歓迎されてるんじゃね。それに、どの町に来たかわかりやすいからいいんじゃね」

 モモガワはとくに気にしていない。

「しんせつだねー」

 サルミダも気にしていない。

「言いたいヤツは言えばいい」

 イヌコマは他人の言動をいちいち気にしない。


 大通りを少し進むと、買い物カゴを提げた40代くらいの女性が立ちふさがった。

 女性から食品スーパーのチラシを手渡され、チラシの裏にサインを書くようにせがまれた。

 チラシの端の方には、『ウインナー(タコさんウインナー用)、ピッツァ用チーズ、プチトメィトゥ』などと買い物リストが書いてあるのがチラリと見えた。


 モモガワは『ゆうしゃ へらくれすたろう ももがわ』と書いた。左手の手のひらを台の代わりにして書いたので字がグニャグニャだ。しかし、よい出来だと満足した。

 仲間たちはモモガワの背中を台にして、それぞれチラシの裏にサインを書いた。


 モモガワは、女性に「ありがとね」とお礼を言われながら左肩をバシッと叩かれた。5、6発くらったら左肩が亜脱臼するかもしれないと思った。

 さらに女性から「ヒマがあったら、うちの屋根の雨漏りを直しに来てね」と言われた。

 モモガワは「業者じゃねーし。勇者だし」と思いながらも笑顔でスルーした。

 モモガワたちは、アメちゃんを1人1個ずつ手に入れた。


 さらに進むと、前町長の孫と名乗る若い男性が現れた。「仲間に入ってやる」とからんできたが、ウザかったのでシカトした。

 しかし、「俺を倒したら仲間に入れてやる」としつこくからんできたので、モモガワはその都度、地面に座った状態でローキックを蹴り込んだ。命中したキックは全部で64発だ。若者の左膝は破壊された。

 これにより若者は全治2か月の重傷を負った。その後、「勇者に戦いを挑むバカは雇わない」という理由で、地元ギルドの就職の話がなくなったこと、そして換金されていない小切手が前町長の家に返送されたことを、モモガワは知る由もない。


 モモガワは空き地に1か所だけ怪しい地面を見つけた。

「あそこだけ、土の色が違くない?」

「だからどうした」

 イヌコマはまったく気にならない。

「お空が青いねー」

 サルミダは見てもいない。

「先を急ぎますよ」

 トリゴエは土の色の違いなどどうでもいい。

「ムリ。気になりすぎて無視できないんだけど」

 モモガワは手持ちのスコップで地面を掘って調べた。

「チョーラッキーじゃん。誰かが隠した回復ポーション見つけちゃった」

 モモガワは土まみれの回復ポーションを手に入れた。賞味期限とかは気にしないタイプだ。


 おやつどき。

 町の武器屋・防具屋・道具屋の品定めは終わり、町の人への聞き込みも一段落し、公園のベンチで休憩タイムだ。

 モモガワは思った。家畜被害って言ってもなぁ。人に直接害があるわけじゃないしなぁ。シカトしてもよくね。この町は道具だけ補給して、次の町に行っちゃうってのはどうかな、と。


 モモガワが仲間に提案しようとすると、イヌコマが言った。

「それにしても、家畜を襲うなんて許せんヤツだ」

「しかも、夜中の誰も見ていない時間にコッソリなんてヒキョーなのだー」

 便乗してサルミダも言った。

「なにがなんでも犯人を見つけ出して、倒さねばいけませんね」

 トリゴエも2人の意見に同意だ。仲間たちはとても使命に燃えていた。

「そ、そうだよな。許せないよな」

 モモガワは仲間に同調し、仲間外れにされるのを回避した。危うく「勇者のくせに人でなし」と言われるところだった。


 情報収集のため牧場を訪れた。

 牧場関係者からの目新しい情報はなかったので、余った時間は放牧されているヒツジ・ブタ・ウマとの触れ合いタイム突入だ。

 とくにウマは乗り物用として飼育されていることもあり人懐こい。

 なかでも、乳離れをして間もない子馬の『ンマオ』とのふれあいは、とてもよいものであった。

 追いかけっこをしたり、エサを手であげたりして、「アハハハ」「ウフフフ」「オホホホ」と笑いの絶えないひとときだった。

 スマホでたくさん写真や動画も撮り、SNSにもアップした。

 牧場の動物たちとのふれあいは、冒険の厳しい戦いを忘れさせ、心をリフレッシュさせる束の間のひとときとなった。


 その日の夜。

 宿屋1階のレストスペースで食事をしていたら、ほろ酔いのおじさんから勇者モデルのタブレットにサインをしてくれと頼まれた。

 モモガワは間違って画面側にサインをしてしまったが、おじさんはとても喜んでいた。

 そんなこんなで1日が終わった。


 すっかり寝静まった夜中。

 なにやら外のほうが騒がしく、目が覚めた勇者たち。

 表へ出ると町の人が騒いでいる。牧場の厩舎で何やら事件があったようだ。

 急いで牧場へ駆けつけると、馬の厩舎の前で男性があたふたしている。

「駆けつけたときにはすでに厩舎のドアが開け放たれており、子馬のンマオがいなくなっていた」

 男性はモモガワたちに訴えかけるように言った。

 モモガワたちもあたりを探すが、たしかにンマオはどこにもいない。母馬がいる厩舎にもいない。どうやらンマオが襲われたようだ。

「あんなにかわいいンマオちゃんが……」

 イヌコマ、サルミダ、トリゴエは怒りに震えている。


「許せんっ!」

「ンマオちゃーん!」

「くっ……ンマオっ!」

 イヌコマ、サルミダ、トリゴエは口々に叫んだ。


「今すぐにでも犯人を探し出して、ぶっ倒しにいくぞっ」

「おーっ」

「おのれ。ンマオのカタキじゃ、ぶっ殺す」

 イヌコマ、サルミダ、トリゴエは頭に血が上っている。


「ちょっ待てよ。相手の正体がわからないいま動いても危険じゃん。夜も遅すぎだし」

 モモガワは慌てて仲間を止めた。眠いしメンドイからだ。


「そうは言っても」

 イヌコマは抵抗した。

「いったん落ち着けって」

 モモガワは仲間をなだめた。眠いしメンドイからだ。


「でもぉ」

 サルミダは抵抗した。

「相手は夜行性かもしれないじゃん。逆にこっちが()られる可能性もあんじゃん。相手の思うツボじゃん」

 モモガワはさらに仲間をなだめた。眠いしメンドイからだ。


「いまンマオのカタキをとらずして、いつとるんじゃい」

 トリゴエはふだん使わない語尾で抵抗した。

「確実に敵討ちするなら、ちゃんと準備整えて、朝イチで行った方が確実っしょ」

 モモガワは懸命に引き止めた。眠いしメンドイからだ。


「たしかにそうだ」

「そう言われるとそうかもー」

「うーん、やむを得ん」

 イヌコマ、サルミダ、トリゴエは落ち着きを取り戻し納得した。モモガワはもっともらしい理由により、仲間の暴走を止めることができひと安心だ。

 町の人には、明朝に討伐へ行くことを約束し、明日に備えるため宿へ戻ってしっかり休息することになった。


 翌朝。

 家畜被害の犯人討伐に向かうため、道なき草原を進み洞窟へと向かう。

 昨晩のンマオの被害と町の人の情報から、近くの洞窟に潜むモンスターの仕業ではないか、と推測した。


 夜中に討伐へ行かずに済んだが、結局、モンスター討伐自体はシカトできなかったのが、モモガワは少し残念だった。あまり気分が乗らないのでまだ少し眠い。

 洞窟へ向かう道中、谷あいへ向かう街道がモモガワの目にふと入った。

 モモガワは思った。めっちゃ近いじゃん。歩いて20分もかからないくらいの場所じゃん。ンマオちゃんには悪いけど、モンスター討伐シカトして先に進めんじゃね。


「ちょっと、先にあっちの道を見てみたいっていうか。情報収集で確認っていうか」

 モモガワは仲間にそれとなく言ってみた。

「しょうがないですね。少し見るだけですよ」

 トリゴエは討伐を優先したかったが、情報収集のためならと承諾した。


 15分ほど歩くとヤンマ谷街道に着いた。しかし街道は土砂で埋まっている。

 モモガワは近くにいた冒険者と思われる男女に声をかけた。

「わあー崖崩れだー。通れないなー。どーしよー」

「どーしましょー。困ったわー」

 冒険者風の男女は、崖崩れが起こったことをわかりやすく教えてくれた。モモガワは棒読みのように感じたが、そういうしゃべり方だと思えば気にならない。

 そのころ土木課の職員は、崖崩れの反対側から復旧作業をしていることなど、モモガワたちには知る由もない。


 モモガワは荷馬車の男に声をかけた。

「こりゃ困ったなー。商売のため次の町に行きたいんだがなー。復旧するまで足止めだなー」

 商人風の男は、しばらく通れないことをわかりやすく教えてくれた。この人も棒読みのようなしゃべり方なので、みんなそういうしゃべり方なのだろうとモモガワは思った。

 そのころ土木課の職員は、反対側で交通整理をし、通れない人たちの誘導をしていることなど、モモガワたちには知る由もない。


 流れで通っちゃえば討伐をシカトできると思ったけど、通れねーじゃん。モモガワは心の底から残念だった。

「通れないねー。はやく戻ろー」

 サルミダが催促するように言った。

「さっさと洞窟へ行くぞ」

 イヌコマは崖崩れなど眼中にない。

「通れても通れなくても、討伐を無視するのはいけません。早く洞窟へ行きますよ」

 トリゴエはたしなめるように言った。


「ちょっとこの先どーなってるかなって気になっただけだし。シカトしようとかゼンゼン思ってねーし」

 モモガワは言い訳がましかった。

 そのころ土木課の職員は、反対側で土建三種の神器を使い、復旧作業のピッチを上げていることなど、モモガワたちには知る由もない。

 モモガワはイベントシカトを失敗した。勇者一行はヤンマ谷街道を去っていった。


 その後、洞窟へ探索を開始した勇者一行は、あっという間に大蛇アナナンコダを見つけた。

 アナナンコダはンマオの敵討ちに燃える仲間の手によりあっさり倒された。モモガワの出番はほとんどなかった。

 モモガワは思った。ちょ待てよ。せっかくシカトしないで来たのに、見せ場がないって損してなくね。


 モモガワは気を取り直し、戦利品のヘビ皮を手に入れた。

 オーダーメイドで、全身ヘビ皮コーデのイケてる装備を作ってもらうことにした。ボッカテッキの防具屋におまかせコースで特注し、出来上がるまで観光を楽しむことにした。

 勇者からの発注ということで、防具屋の職人さんが急ピッチで作業してくれた。おかげで、翌日の夕方には完成した。

 出来上がったのは『ヘビのきぐるみスーツ』という全身装備だ。

 前を向いたヘビの口のところから顔を出し、胴体の部分に手足を出すための穴が空いているタイプだ。防御力は高くないが、運が良くなる効果を得られる。


 思ってたのと違う。究極にダサい。モモガワはおまかせコースにしたことを後悔したと同時に、職人のセンスを呪いたくなった。

 注文したのはモモガワ自身であり、満面の笑みで商品を差し出す店主の手前、試着しないわけにもいかない。モモガワはしぶしぶ試着室へ行った。


 数分後、試着室のカーテンが開いた。

 胴から出た素肌の腕とスネ。そして白靴下。ヘビの口の穴から出たモモガワの真顔は、明らかにテンションだだ下がりだ。


「お、おま……それ……クフッ」

 イヌコマはかろうじて笑いをこらえた。

「に、にあってるよ……プッ」

 サルミダは最大限の気遣いをしつつ笑いをかみ殺した。

「ゆ……勇姿を撮っておきますね。フフッ」

 トリゴエは直視しないようにしつつも、記念にスマホで動画を撮り始めた。


「えっと……なかなかいいと思います」

 店主の手前、微妙な半笑いでモモガワは言った。

「きつくないですか? 動きはどうですか?」

 店主に言われたモモガワは1歩踏み出そうとした。歩きづらくて試着室の段差を踏み外し、顔面からクリティカルに転んだ。ビターンという音が店内にこだまする。

 仲間たちはこらえきれずに吹き出した。


 モモガワは起き上がれずもがいている。爆笑するイヌコマとサルミダに抱えられながら、ようやく立ち上がることができた。

 トリゴエによって撮られた動画はSNSにアップされた。ダサい勇者の姿はいろんな意味でバズった。

 『ヘビのきぐるみスーツ』はそのまま道具袋にしまわれ、二度と装備されることはなかった。





 朝早くに小さな村を出発したクグとゼタは、街道を南東へ進む。

 ひたすら歩き通し、街道が徐々に薄暗くなってきた。日が傾いてきただけでなく、木々に囲まれた景色へと変わってきたからだ。

 前方の木々の隙間から町らしきものが見えてきた。メルシの町だ。町の南側には大きな森が広がっている。

 日が落ちきるまでに無事、到着できた。翌朝から調査にはいるため、宿をとって1日を終えた。


 翌朝。町の調査を開始する。

 軽く武器屋・防具屋・道具屋をのぞく。森が近いからか、武器屋にはいろんな種類の斧やナタが揃っている。防具屋・道具屋も基本的な品揃えはひととおりそろっている。パシュトと任務に来たときと変わったところはない。


 この町でのメインのイベントは南の森を予定しているので、町での聞き込みは軽くでよい。

 最近変わったことはないか聞いていくと、気になる話題がひとつあった。ブレッシング・スターという新興宗教団体のことだ。


 オトナリナ国内において、ここ1年で急速に勢力を拡大してきた新興宗教で、各町に支部を構え布教活動をしているようだ。

 町外れの空き家を教会と呼ぶ施設に改装し、礼拝などを行っているようだ。

 ごく一部ではあるが、改宗したことを公言している政治家や貴族もいるらしい。

 他に建物がない場所にひっそりと建っているので、何をしているのかわからず不気味がっている人が多い。

 民間企業マチョカリプスのセールスを装い、調査することにした。宗教を隠れみのにした怪しい団体であれば勇者のイベントになるかもしれない。


 教会へ続く道を進んでいくと、人通りがまだらになってきた。

 旅人のローブをまとった男性が目についた。魔族だ。フードをかぶっていないのでしっかりとわかった。

 コソコソとする様子はなく、辺りをキョロキョロ見回している。道に迷うほどでもない場所だ。何かを探しているのだろうか。

 魔族の動向を探るため、どこか隠れられる所はないかとクグは辺りを見回すが、民家しかなく身を隠せる場所などない。ヘタに慌てて隠れるよりも、気づかないふりをしていたほうがよさそうだ。


 魔族の男性はクグたちに気づくと、笑顔で近寄ってきた。


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