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第41話 魔族との遭遇

「何もイベントがないんだったら、勇者も息抜きできるっすね」

「観光地だから滝を見に行ったり、カジノで少し遊んだりして、二泊くらいするかもしれないな」

「カジノがあるんすね」

 ゲイムッスル国ではカジノは違法なので、ゲイムッスル国の富裕層がカジノ目当てで遊びにくる。

「小さな国にとっては、カジノは重要な観光産業ということだな」

「勇者が冒険そっちのけでカジノにはまったらヤバいっすね」


 勇者がギャンブルで破産したら、世間から白い目で見られるのは必須だ。

 歴代の勇者でカジノにはまって冒険を放棄した人はいないので、今回もその心配はいらないはずだ。


「カジノでものぞいていくか?」

「興味ないっす。筋トレとプロテインさえあれば、ギャンブルなんて無用っす。筋肉は裏切らないッ」

 ゼタは力こぶをつくりながら言った。同じ《《はまる》》でも、ギャンブルに比べたら筋トレは健全だ。脳筋と言わず、健康的男子と言えるかもしれないとクグは思った。


 島の中心を横切るメインストリートには、社会的な階層に関係なくさまざまな人が観光に訪れる。

 飲食店・服屋・武器屋・防具屋・道具屋など、さまざまな店が並んでいる。町の真ん中には宮殿のように荘厳な雰囲気のカジノが堂々と鎮座している。

 服屋も武器屋も防具屋も、ショーウインドーに飾られているものは宝石などの装飾がやたらと多く、実用性があるのかわからない。普通のはがねの剣や素朴なバックラーなどは置いていないところを見ると、観光土産用を目的としているようだ。


 上流側の富裕層向けエリアには、高級リゾートホテルや高級レストランだけでなく、高級住宅街もある。空き家待ちで地価が高騰している。

 下流側は主に住宅街になっており、島で働く人たちの集合住宅や、昔から住む人の戸建てがある。家を改装して宿泊施設を営んでいる人もいる。


 メインストリートをウインドーショッピングしながら歩く。

「あそこに辻の駅があるっすよ」

 ゼタが指した方向に『辻の駅 中州プラザ・デカイカーワ』と看板が出ている。寄ってみることにした。

 店内に入ると、たくさんの観光客で賑わっている。売っているお土産はデカイカーワまんじゅう・デカイカーワクッキー・特産川魚のくん製などなど。スタンダードだがハズさないラインナップだ。

 お店のイチオシ商品は、天然水を使用した青色のクラフトコーラ『デカイカーワ・ブルー』だ。


「『デカイカーワ天然水』ってのがあるっす。1本248モスルっすよ」

「地味に高いな。おっさんが川の水を瓶に入れただけのボッタクリじゃないだろうな」

 他の町で売っているよくある水なら、同じ500ミリリッタルで100モスル前後だ。観光地価格というやつか。


「えーっと。瓶のラベルに『瓶詰め(びと )』って欄があって、『トメキチ』とか『ゴンザレス』とか『オヨネ』って手書きで書いてあるっすよ」

 ゼタが束ねて持つ瓶のラベルに手書きで名前が書かれているのを見たクグは、定年を迎えたトメキチさん・ゴンザレスさん・オヨネさんが笑顔で川岸に並び、ヒシャクとジョウゴで川の水を瓶に詰めている場面が思い浮かんだ。


「工場でろ過してボトリングしなくて大丈夫なのか? 内職の手作業ってことだよな」

「それだけキレイな水ってことっすよね」

「プラス思考だな」

 観光地で浮かれているわけではないが、せっかくだからクグも1本買っていくことにした。


 レジに行く途中、ある一角が目に入った。勇者グッズのコーナーだ。テーショナリーセットをはじめ、マグカップ・スポーツタオル・Tシャツ・木刀などがキレイに並べられている。

 片隅にある『在庫一掃セール』と書かれたワゴンには、先代勇者のステーショナリーセットやハンカチが乱雑に重なっている。『50%オフ』『現品限り』の赤い文字に、時代が移り変わっていくもの悲しさを感じた。


 会計を終え店を出ようとすると、視界の端に挙動不審の見慣れない人影が見えた。

 とっさに近くの柱に身を隠し、相手に感づかれないよう様子をうかがう。


  一見すると人間の男性だが、明らかに人間とは違う。2ミートルはあろうかというガッシリした体格。茶髪マッシュルームカットだが、頭に2本の角が生えている。そして何より、人間ではない独特の灰色がかった肌の色をしている。

 魔族だ。ついに魔族が現れた。ここは中立国で種族を問わない。魔族といえども、町を破壊するとか人間を襲うなど正当な理由がない限り、一方的に排除することはない。

 何やらスマホを操作している。こんなところで何をしているのだろうか。1人だけで近くに仲間がいる様子はない。


「魔族と戦闘していいんすか?」

「相手が襲ってきた場合に限り、正当防衛の範囲ならよし。あくまでも最悪の場合だからな。見つからないように、このままつけていくぞ」

「つまんないっすね」

「つまらなくない。戦闘にならないように調査することが任務だ」

 魔族が店を出た。見失わない距離を保ち尾行する。


 大通りから横の路地へ入ったところにある、3階建ての雑居ビルの前まで来た。魔族の男は2階の部屋に入っていった。

 ドアには『株式会社魔王シュテン堂 チューリッツ出張所』とプレートが貼ってある。


「魔王って、あの魔王のことっすよね」

 人間界侵略をもくろむ魔界最強にして凶悪の魔王オニロク・シュテンベルグ。

 魔王が誕生するたびに、今回の魔王がこれまでの中で最強だと言われる。

「魔族が普通に会社の事務所を設置するなんてあり得ない。人間界を侵略するためのカモフラージュと考えるのが妥当だ」


 民間人の飛び込み営業を装いとりあえず潜入するか。それとも計画を練ってからにするか。クグが決めあぐねていると、

「たのもー! 勇者部企画課の者だー!」

 ゼタがドアを蹴り開け、事務所内へ入っていってしまった。

 正体を明かしながら突入するなんて前代未聞の事態だ!

 クグはゼタを止めるため慌てて追いかけた。


 事務所では5人の男性魔族がパソコンの前に座って静かに仕事をしていた。

 アポなしの急な訪問のうえ、無礼極まりない入室だったので、クグとゼタは魔族の5人から白い目で見られた。

 事務所は整然と事務机が並び、整頓され掃除が行き届いているだけでなく、観葉植物も置いてありこぎれいな印象で、悪だくみをしているようには見えない。

 しかし、悪だくみをするからこそ、悪いイメージをもたれないようにしているとも考えられる。


 事務作業をしていた5人は立ち上がると、

「ノックもなしに入ってきやがって」

「勇者部ってどういうことだ」

 などと言いながらゆっくりと迫ってくる。皆、2ミートルくらいのガッシリした体格だ。

 クグたちは、ただならぬオーラをまとった5人に囲まれた。


 今さら民間企業マチョカリプスの営業に来たと言うわけにはいかない。

 相手は武器を持っていないとはいえ、人数は相手のほうが多い上に囲まれてしまった以上、状況は不利だ。

 クグはイチかバチか、勇者部企画課として話をする決心した。

 わざわざ勇者関係者が話をしに来るなんて本気にしないだろう。運がよければ追い返されて済む。最悪の場合は戦闘もやむなしだ。


「私どもは、勇者の冒険に必要なイベント案をつくっております勇者部企画課の者です。このたびは勇者モモガワの冒険に際しまして、何かご相談できないかとお邪魔させていただいた所存でございます」

 クグは落ち着いた口調を必死に心がけた。

 数秒、間があく。


「勇者の?」

「イベントだぁ?」

 魔族たちの威圧感がさらに増した。

 クグは追い返される可能性がなくなったのを覚悟し、いつでも剣を抜けるよう気を張った。

 魔族の5人が横一列に並んだ。

 緊張が高まるクグ。

「ぜひっお願いします!」

 魔族の5人は笑顔で声をそろえて言ったあと、お辞儀をした。


 クグは自分でも状況が飲み込めないまま早速、名刺交換をすることになった。

 黒髪で刺さりそうなくらい直角角刈りの方がトウフルフさん。

 背中の中程まである銀髪ストレートのシラタキーニョさん。

 ナガネギギさんはハイトップフェードで髪色はグリーンだ。

 シュンギクラウスさんは金髪ロン毛ゆるパーマ。

 そして茶髪マッシュルームカットのシイタケイオさん。

 チーム・スッキャキという班で業務をしているらしい。

 シイタケイオさんの名刺には『株式会社魔王シュテン堂 事業推進部総合リサーチ課』という社名・部署名と共に、『チーム・スッキャキ リーダー』と肩書がある。


「勇者がそのうち来るとは思っていたが、こっちも仕事で忙しいし」

 トウフルフさんが言った。

「来るタイミングがわからないのに、待っていられないし」

 シラタキーニョさんが言った。

「こっちから探すのも面倒だし、どうしようかと話し合ってたところだ」

 ナガネギギさんが言った。

「というわけで、じゃ、あとはヨロシク」

 シュンギクラウスさんが言うと、シイタケイオさんを残して4人は自分の席へと戻っていった。

 シイタケイオさんに事務スペースの横にある応接スペースへと案内された。



「お口にあいますかどうか」

 案内された席に座っていると、茶托にのった緑茶と菓子皿にのった豆大福を1セットずつ、シイタケイオさんが出してくれた。

 魔族のくせに妙に低姿勢だ。

「こちらこそ急におしかけてスミマセン。お気遣いなく」


 クグは魔族に合わせて丁寧に返した。しかし、茶菓子には手をつけない。毒が入っている可能性があるからだ。

 ゼタは気にせず豆大福まるまる1個を口の中に放り込むと、すぐに苦しみだした。やはり毒入りだったようだ。しかも即効性の猛毒だ。ゼタはお茶を一気に飲み干した。


「プハーッ。喉に詰まって死ぬとこだったっす。でもマジうめえ。大福の甘さとお茶の渋みがベストマッチっす」

 ややこしい食べ方をするな。そして、そんな食べ方で味がわかるのか。とクグは思いつつも、ゼタに異常がないのを確認した。毒入りではないようだ。

 クグもお茶をひとくち飲んでみた。おいしい緑茶だ。怪しい点はない。


「よかったです。魔王様からの差し入れが送られてきたのですが、毎回、豆大福なのでちょっと飽きてきてたんです。あ、いまのは魔王様には内緒ですからね」

「余ってるならもう1個くれっす」

「はしたないことをするんじゃない」

「ゼンゼンかまいませんよ。どうぞ、どうぞ」


 シイタケイオさんはゼタの無礼を気にする様子もなく小走りで給湯室へ行くと、豆大福と急須にお茶のおかわりを入れてやって来た。

 ゼタは出された豆大福を遠慮なく頬張った。


「あのー、そろそろお話にはいりたいのですが」

 命を危険にさらしてまで豆大福の話をしに来たのではない。まだ緊張を解かないクグは、自分の前にある豆大福がゼタに取られてなくなるのを静かに見送った。


「そうでした。さて、何のお話からさせていただければ……詳しくないので、ちょっとよくわからないんですけど」

 向かいに座ったシイタケイオさんは、いたって普通の打ち合わせという感じだ。

 相手の狙いはわからないが、ここまで来たら開き直って、面倒な駆け引きはしなくてもいいような気がしてきた。クグはいきなり本題にはいった。


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