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第37話 物資課

 今日の工程はスルースルの町から国境を超え、次の町を目指す。

 クグは準備を整えゼタとオフィスを出ようとすると、スタボーン課長に呼び止められた。


「今日はスルースルの町から国境越えか?」

「はいそうですが」

「国境越えをするなら、ボッカテッキの町に寄るのを忘れないように」

「大丈夫です。これから向かう予定です」

「寄ってどうするんすか?」

「国境を越えた先で必要な手土産を買うんだ」

「名産の『羊のチーズと豚肉の腸詰めセット』を手土産にするのが、慣例になっておる」

 スタボーン課長がクグの補足で答えた。


「それって、うまいんすか?」

「食堂で『店長のオススメ昼定食』を食べたの覚えているか? 腸詰め肉とチーズのあれだ」

「あれっすか。安くてチョーうまかったっすねー」

「そうだな。安くてうまかっ……」

 クグはゼタからお代を回収できていないのを思い出した。

「どうした? 何かあったか?」

「いえ。何も問題ありません」

 課長の前でお金の貸し借りの話をするわけにはいかない。


「お土産ってポケットマネーで買うんすか?」

「そんなわけないだろ。もちろん経費だ」

「大量に買って配りまくるんすか?」

「箱入りセットになったものがあるから、それを1箱で十分だ」

「ちなみに、おいくら万モスルっすか?」

「なんと、1万モスルを切って、9800モスルだ!」

「フツーに高いっす」

「贈答用の箱に入った、上ランクのセットだからな」

「ついでに、普段からお世話になっている私にも、ポケットマネーでお土産を買ってきてくれても構わんぞ」

 真顔のスタボーン課長は、冗談なのか本気なのかわからない。


「たまにはポケットマネーで課長にお土産でもどうだ」

 受け答えに困ったクグはゼタにふった。

「さー、今日もお仕事頑張るっす」

 ゼタはわざとらしくはぐらかした。

「何の話をしているんですか?」

 面倒なブレイズンが横から入ってきた。


「課長にボッカテッキのお土産を買おうかと思うのですが、ここはやはり上司であるブレイズン課長補佐のポケットマネーから出すのがいいのではないかと」

「あ、いや、ちょっと今日は持ち合わせがないんで……」

 ブレイズンはそそくさと自分の席に戻って行った。面倒な話題は面倒な人にふるにかぎる。

 スタボーン課長は元々期待してなかったのか、咳払いをして場を仕切り直した。


「そうだ。あとひとつ。ボッカテッキの町の近辺で、物資課と土木課が仕事を開始したようだ。時間があったら見てみるのもいいだろう。ほかの課の仕事はめったに見られないからな。自分たちの仕事の刺激にもなるだろう」

「はい、わかりました」


 庁舎の中央階段を降り外へと出た。

 国家情報局は王直轄の部署なので、シュトジャネ王がいる城の中にあったほうがいいと思うかもしれない。しかし、城内は人の出入りが多く部署の主任務にそぐわないことから、専用の庁舎が別途設置されている。


 1階は土木課のオフィスとその資材置き場。2階は物資課のオフィスとその物資置き場。3階の南西は企画課で、南東が情報課だ。北側には会計課・人事課・総務課などがある。地下には、国家情報局の情報本部と作戦本部がある。

 庁舎前の広場まで来ると、クグはゼタに余計なことを言われる前にとっととテポトをかけ、目的地へと向かった。


 まだ午前の早い時間帯だが、ボッカテッキのメインストリートでは町の人たちや、商人と馬車、ローブまといフードをかぶった旅人などさまざまな人が行き交い、少しずつ活気がでてきている。

 町のお土産屋さんで贈答用の『羊のチーズと豚肉の腸詰めセット』を購入する。領収書も忘れてはいけない。

 あとはスルースルの町から先へ進むだけだが、物資課と土木課が近くで仕事を始めた、と課長が言っていたのをクグは思い出した。


「物資課と土木課の仕事を見たことがあるか?」

「ないっす」

「せっかくの機会だから、仕事の様子を見学してみるか」

「おもしろそうっすね」


 勇者の先回りをするという仕事上、クグもほかの課の仕事を見たことはない。なによりゼタにとっていい刺激になるだろう。企画課の職員としての自覚をはじめ、ゼタにはいろいろ学んでほしい、という思いがクグにはあった。


 町を出て山のふもとの洞窟へ向かう。

「物資課がどんな仕事をしてるか知ってるか?」

「さあ? まったく」

 クグも基本的な仕事内容を聞きかじって知っている程度だが、簡単に説明しておいたほうがよいだろう。


「国家情報局勇者部物資課は、勇者の冒険に必要なものや有利になるものなど、物質の面からサポートする部署だ」

「例えば?」

「うちの課からの情報を元に、ダンジョン内に宝箱を置いたり、ギミックを解くヒントの立看板などを設置したりするんだ」

「へえー」

 あまりピンときていないようだ。説明したクグ自身も、具体的にどのような仕事なのかよくわかっていない。


 洞窟まで来た。物資課の人たちが洞窟内に物資を搬入中のようだ。洞窟の中は照明魔法がかけられ、分かれ道の手前のスペースにたくさんの物資が運び込まれている。

「ウッス」

「チッス」

「チャーッス」

 ゴリマッチョたちが洞窟内をせわしなく行き来している。物資課の方たちのようだ。

 クグたちを見かけると、気持ち悪いくらいのニカッとした笑顔で律儀に挨拶をしながら通りすぎていく。小麦色の肌に真っ白な歯がまぶしい。


 装備はホットパンツに、Tシャツかタンクトップだ。なかにはブーメランパンツ一丁の人もいる。しかし全員、支給品の兜とゴツいブーツだけは律儀に装備している。バランスがおかしい。

 女性も少ないがいるようだ。女性もムキムキマッチョでビキニアーマーだ。男性と同様に支給品の兜とブーツだけはきちんと装備している。

 クグは思った。防御力どうなってんだよ。冒険者の規範となる公務員らしい装備とは何なのか、価値観がゆらいだ。


 真ん中の広い通路に入ると、ひときわデカい男性ゴリマッチョが腕組みをして立っている。全体の作業の様子を見ているようだ。現場リーダーの方だろうか。

 もちろん装備は、タンクトップにホットパンツ姿。兜とブーツは他の人とおそろいだ。腰に派手な蛍光ピンクのウエストポーチ型道具袋をつけており、どこにいても目立つ。


 クグは企画課の者だと名乗ると、ハツラツとした声が返ってきた。

「なんの用だね? 自分は係長のマチョス。プロテインのことならなんでも聞きたまえ。ハッハッハッ」

「プロテインのことで聞きたいことなんてたくさんありすぎて、どれから聞いていいか迷うっす」

「いやプロテインのことは、どうでもいいんですけど」

 クグはゼタの言葉を遮って話をすすめる。

「そうなのかい。それは残念だ。それではなんの用かね? ハッハッハッ」

「仕事の様子を見学させていただきたいのですが。ついでに仕事の話も聞けたらと思いまして」

「ゼンゼン構わないぞ。ここでは見てのとおり、ダンジョン内に宝箱などを設置しているんだ。ハッハッハッ」


 白いTシャツを着て金属製のゴツい宝箱を肩に担いだゴリマッチョが、洞窟の奥へと向かって歩いている。

「あの方が担いでいるのがその宝箱でしょうか」

「そのとおりだ。ハッハッハッ」


 洞窟の奥から、騒がしいのは何事かという感じでアンゼンモグラが1体出てきた。

 アンゼンモグラは宝箱を担いでいる白Tマッチョを見つけると、ストーンショットを放った。

 白Tマッチョは冷静かつ笑顔で、肩に担いだ宝箱を「フンッ」といいながら全力で投げた。

 猛スピードで飛ぶ宝箱がストーンショットを粉々に砕き飛ばし、そのままアンゼンモグラにズゴォッという音をたてて炸裂。アンゼンモグラはふっ飛んでいった。

 白Tマッチョは何事もなかったように投げつけた宝箱をテキパキと拾い、洞窟の奥へと消えていった。


 宝箱は武器でも魔法で壊せないので、相当強力な防御魔法がかかっているのだろう。しかも宝箱ごと持っていかれないよう相当重いはずだ。

 魔法も武器もものともしない超重量級の宝箱が猛スピードで飛んできたら、投げつけられたモンスターはひとたまりもない。

 宝箱を担ぎながら武器を持つことはできないし、モンスターを倒す必要はないから、あの戦い方で間違ってはないのだろう。宝箱は武器でもあり盾でもあるようだ。

 などと簡単に納得できるわけもない。クグは率直に戦い方が特異すぎてキモイと思った。


「あのー。宝箱を投げる戦い方なのですが、独特といいますか。戦いにくくないですか?」

「自分はそんなこと考えたこともないぞ。これがうちの課の伝統的な戦い方なのだからな。ハッハッハッ」

 脳筋のお手本のようだ。


「あと、その装備で防御力は大丈夫なんですか?」

「もちろん大丈夫だ。鍛えた分だけ筋肉は応えてくれる。つまり筋肉アーマーだ。ハッハッハッ」

「筋肉アーマー、スゲーッす!」

 クグは言ってる意味が理解できない。そしてゼタよ、いちいち筋肉に反応するな。筋肉は素肌だ。アーマーにならないことぐらい気づけ。


「ここでは宝箱を設置するだけなんですか?」

「宝箱設置中に冒険者を見つけた場合、退去もさせるぞ。勇者の冒険の邪魔だからな。ハッハッハッ」


 きっと問答無用で宝箱を投げつけ、動けなくなったところを担ぎ上げて、強制退去させるのだろう。宝箱を設置し終えたら、情報課の人が入場制限をかけるという流れのようだ。

 これに関してはあまり詳しく聞かなくてもいいとクグは判断し、ほかの仕事について聞くことにした。


「ダンジョン以外で仕事はあるのですか?」

「町でも仕事はあるぞ。民家に忍び込み、タンスやツボにアイテムを隠すんだ。さらには、草むらや空き地の地面にも隠すぞ。ハッハッハ」

「地面にアイテムを隠して、勇者が見つけられるんすか?」

 ゼタにしては鋭い質問だ。


「その点は心配いらない。1回掘り返した地面は不自然に草が生えていなかったり、土の色が違っていたりしているだろ。こういったところは調べずにはいられない、という勇者特有の習性を利用しているのだ。ハッハッハ」

 勇者の悲しい《《さが》》だ。

 それにしても、こんなゴリマッチョたちが民家のタンスやツボにアイテムを仕込むということは、忍び込むというより無理矢理押し入るのだろうか。


「民家に忍び込むときも、その格好ですか?」

「いや。この格好では民家に忍び込まないぞ。ハッハッハッ」

「じゃあ、どんな装備をするんすか?」

 さすがに町では普通の装備をするはずだ。もしくは、闇夜に紛れられる装備か。


「唐草模様のテヌグイを、この兜の上からほっかむりするのだ。ハッハッハッ」

「それだけですか?」

「そうだ。唐草模様のテヌグイをほっかむりすれば、見つからないというシステムになっているぞ。ハッハッハッ」

「テヌグイほっかむりスゲーッす!」

 そんなわけあるか。クグは思った。こんな格好のゴリマッチョが、兜の上から布切れをほっかむりしてたら逆に目立って仕方がない。見つからないのではなく、怪しすぎて声をかけられないだけなのではないのか。そしてゼタよ、ほっかむりで姿は隠せん。気づけ。


 話題を変えたほうがよさそうだ。

「公開勇者審議会のときは、何をしていたのですか?」

 物資課ならではの役割があったはずだ。

「事前準備では、勇者認定賞品の準備。審議員が休憩中に食べるお弁当やお茶、お菓子の手配。勇者候補者から要望のあった、水瓶やゴム製のお子様用プールの準備だ。当日はマチョスタントだぞ。ハッハッハッ」


 備品の設置・回収、ぶどう酒の振る舞いなどは物資課の人たちだったようだ。情報課にマッチョな人がいなかったので、クグは日雇いマッチョなのかと思っていたところだ。

「マチョスタント以外の人は何をしてたんすか?」

「観覧のお客さんの入場整理などだ。ハッハッハッ」

 迷惑行為をする人は、担がれて強制退場になるのだろう。


「屋台は何を出したんですか?」

「イカの串焼きとパンチングマシンだ。ハッハッハッ」

「パンチングマシンはおもしろそうっす」

「パンチの強さに応じて景品が貰えるシステムだ。看板には『君も勇者だ。明日に向かってパンチパンチ!』だ。子どもより大人がムキになっていたそうだ。男性顔負けのパンチを繰り出す、ゴッツイ女性もいたと担当者から聞いたぞ。見てみたかった。ハッハッハッ」

 エンタメとして年齢問わずできる良い出店だ。それに引き換え、イカの串焼きは渋い選択だ。


「イカの串焼きにした理由は何ですか?」

「低カロリー高タンパク質なのはもちろんのこと、タウリンが筋肉疲労に良いという自分たちの好みで決めたぞ。ハッハッハッ」

「タウリンかーっ。盲点だったっす」

 クグは思った。商品選びの動機がおかしい。通常はお客さん目線で考えるものだ。そしてゼタよ、気づくのはそこではない。


「イカの串焼き以外に子どもが喜ぶものとか考えなかったのですか?」

「何事も深く考えたらいけないぞ。深く考えたところで、筋肉には1ミリも得にならないからな。ハッハッハッ」

「参考になるっす」

 クグは思った。参考にするな。考えろ。

 ゼタのためにも、もう少し汎用性の高いことを聞いたほうがよさそうだ。仕事の心構えなどはお手本になることもあるだろう。自分にも参考になるかもしれない。


「お仕事で気をつけていることは何ですか?」

「携帯している回復アイテムは、プロテインバーとプロテインドリンクだ! プロテインさえあれば何もいらないっ。ビバッ、プロテイン!」

「うおーっ、プロテインすげーっす!」

 クグは思った。気をつけている意味が違う。そしてゼタよ、プロテインでは回復はできん。いちいちプロテインに反応するな。


「さらにとっておきのモノは……」マチョスさんはウエストポーチ型道具袋から何やら取り出した。「コレだ! プロテイン入り回復ポーション、その名もプーション! 定期的に箱買いしているんだぞ。ハッハッハッ」

「うぉーっ、キターーー!」

 クグは思った。ゼタよ、落ち着け。

「筋肉とプロテインもいいが、魔法使いなんだから、もう少し頭を使って効果的に魔法をだな……」


 ゼタはマチョスさんとプロテイン談議を始め、クグの話など聞いていない。

 クグは思った。それにしてもオマエか。実家の道具屋でプーションを箱買いする変わった客というのは。でも、「いつもお買い上げありがとうございます」と少しだけ感謝の気持ちもわいた。


 クグがプロテイン談義にあきれていると、シャツは着ておらずホットパンツにサスペンダーのゴリマッチョが、大きな女神像を担いで通り過ぎていった。何に使うのだろうか。

 サスペンダーマッチョは女神像を振り回し、襲いかかってくるタタキバエをなぎ払いながら奥へと向かって行った。

「はい! しゅーりょー! ところで、あの女神像はどういったことに使われるのですか?」

 クグはプロテイン談義を強制終了させマチョスさんに聞いた。


「あれは『セーフティー女神ゾーン形成装置』だ。ハッハッハッ」

「それってナンすか?」

「台座の底にあるスイッチをオンにして設置すると、女神の加護によってモンスターが寄ってこなくなるセーフティーゾーンが形成されるというわけだ。ハッハッハッ」

「なくてもよさそうな気もするっすけど」

「自分たちにプロテイン休憩が必要なのと同じように、勇者もダンジョン探索中に休憩でお弁当タイムとか、おやつタイムがいるだろ。その昔、ラストダンジョンに置くのを忘れたことが1回あったらしく、そのときの勇者がブチ切れたそうだ。ハッハッハッ」

 笑って言える話ではない。


「テキトーに置いとけばいいんすか?」

「これはテキトーではいけないぞ。中央のルートの真ん中に置くと不自然だし、ボスモンスターの行動に影響が出てもいけない。中央のルートにある分かれ道の1つに小部屋みたいな空間があったので、そこに置くことが決まっているぞ。ハッハッハッ」

 そんな大事そうなものを振り回し、モンスターをなぎ払うのに使ってもいいのだろうか。宝箱と同じで壊れない仕様なのだろうか。クグは怖くてこれ以上は聞きたくない。


 自分たちの任務もあるし、仕事の邪魔になってもいけないので、あまり長居はできない。これで物資課の見学を切り上げることにする。マチョスさんにお礼の挨拶をし洞窟を後にした。


 物資課の仕事はクグが想像していたのと、ちょっと、いや、かなり違った。忍びのプロかと思っていたが、かなり力業な人たちだった。

 この課に配属されなくてよかったとクグは思った。ゴリマッチョになって宝箱をぶん投げる自分の姿を想像できない。


 一方、ゼタは満足そうだ。ちゃんと企画課の職員としてやる気になっているかどうかクグは心配になった。大丈夫だろうか。

「よーしっ。筋トレ頑張るっす!」

 ゼタはやる気になったようだ。筋トレを。これからも魔法に巻き込まれる。確実に大丈夫ではない。脳筋度合いが増してしまった。想定とは逆の効果になってしまったことに、クグは先が思いやられた。


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