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第10話 子どもたちとモンスター

 ゼタを先頭に進む。子どもたちを挟んでクグはしんがりを務める。

 行きはモンスターが出なかったので、帰りも出ないでくれとクグは願っていたが、こういうときにかぎって出てくる。

 タタキバエが1匹、前方から飛んできた。先頭のゼタがメイスで応戦だ。

 

 クグは子どもたちが怪我をしないよう3人の前に立ち、剣と盾を構え守りの態勢にはいる。攻撃の威力および状態異常になる確率を半減させる魔法『ハンゲルス』を盾にかけた。この魔法は人にじかにかけることはできず、鎧や盾に効果を付与する魔法だ。


 ゼタは子どもたちがいることを考えずに、いつもどおり派手な立ち回りで戦いだした。

 タタキバエが振り下ろしてきたハエたたきをメイスで受け止め、力で弾き返した。反動でタタキバエのハエたたきが宙に舞い、クグの方に勢いよく飛んできた。クグは落ち着いて剣で弾き落とした。よけていたら子どもたちに当たっていたかもしれない。危なかった。

 ゼタは武器をなくしひるんだタタキバエをメイスで鋭く突くと、タタキバエはすっ飛んでいった。


 続いてドデカコウモリが超音波を飛ばしながら飛んできた。ゼタは立ったままエビ反りになり超音波をよけた。

 ゼタがよけた超音波がクグのところに飛んできた。クグまでよけてしまったら、子どもたちに当たってしまう。クグは盾を正面に構える。ハンゲルスを付与した盾によって、威力が半減した超音波をくらった。少し頭痛がするがこの程度なら大丈夫だ。

 ゼタは上体を戻すと、ドデカコウモリめがけてメイスを右から横になぎ払った。メイスが翼と胴体にヒットした。翼を損傷したドデカコウモリは、ヨロヨロと飛び去っていった。


 クグは頭痛をこらえながら、子どもたちがおとなしくしているかチラと後ろを確認した。

 クグの数歩後ろで、カカバロ・ペペコラ・ポポルコの順で縦に並び、交互に左右から顔を覗かせてゼタの戦いに夢中で見入っている。クグが守っていることをわかっているようには見えない。むしろ、クグのことをただの壁としか思っていないようにクグには見えた。


 ドデカコウモリと入れ替わりで、ゼタの前にアンゼンモグラが安全確認をしながらやって来て、ストーンショットという石を飛ばす攻撃魔法を放ってきた。握りこぶし大の5、6個の石が、勢いよくゼタに向かって飛んでいく。ゼタはスレスレまでひきつけて左へ横っ飛びでかわした。

 ゼタがよけた魔法の石がクグのところに飛んできた。全部よけるな! クグは心の中でグチる。ゼタは盾を装備しない派だった。


 チクショウこれも盾でガードだ。クグは心の中でグチりながら、下・左・右と盾の位置を素早く調整して石をガードした。ハンゲルスの効果があるとはいえ、連続して石が盾に当たる衝撃を受け止めるのは、なかなかキツい。そして何より、あえて真正面で受けにいくのは、なかなかの恐怖だ。


 ゼタはよけた態勢から素早くステップして正面に戻り攻撃態勢を整えると、メイスをアンゼンモグラに振り下ろした。しかし、アンゼンモグラは安全確認済みで、バックステップでゼタのメイスをよけた。

 アンゼンモグラは間髪入れずに、またストーンショットを放ってきた。しかし今度は、先ほどよりも大きい石が1つだ。人の頭ほどもある石がゼタに向かって飛んでいく。ゼタは、今度は大きくよけず半身でかわした。


 石がクグの方に勢いよく飛んでくる。だから、よけるんじゃない! あんなのまともに受けていられるか、とクグは思ったが体はよけようとしない。後ろには子どもたちがいるからだ。クグにはよけるという選択肢が最初から与えられていない。

 クグは脇を締めて盾を構え、足を踏ん張り歯を食いしばる。石が勢いよく盾に当たり激しい音をたてた。衝撃で「グフッ」と声が漏れる。しかし、ハンゲルスで石の勢いが衰えた。「公務員シールド・プッシュバック!」と心の中で叫びながら一気に押し返すと、石はバラバラと崩れ落ちた。


 石をかわしたゼタはというと、今度は安全確認をさせる隙を与えず、アンゼンモグラのヘルメットをメイスでかっ飛ばした。ヘルメットを失い安全でなくなったアンゼンモグラは、飛んでいったヘルメットを追いかけるようにして逃げていった。


 モンスターが去り、子どもたちが無事で済んだことにクグは安堵した。少し左腕がしびれている。

 たかがバックラーでも、きちんと使えば攻撃は防げるのだ。スペック重視でムダに重いタワーシールドなど、うちの任務では不要なのだ。スペック重視でしか武具を選ばない愚かな冒険者どもには、公務員クオリティーを見習ってほしいものだ。これが任務に最適な防具の選び方なのだ。貸与された物だけど。クグは居もしない冒険者に対して心の中で勝ち誇った。


 子どもたちはというと、実際の戦いを間近で見て興奮ぎみだ。

「メイスってかっけーっ」

「そうだねメイスも悪くないね。上から3番目にしてもいいかな」

 カカバロとぺぺコラの話を聞いて、ゼタは必要以上に胸を張り、鼻高々で自慢気だ。

「それにひきかえ剣のおっさんは、ゼンゼン役に立ってなかったな」

「そうそう。ジャマで戦いが見づらいだけだったね」

 クグは思った。オイコラ。君たちの目は節穴か? ゼタの周りを考えない戦いの尻ぬぐいをしていたのだが。少しぐらい気づいてくれ。

「戦いは見づらかったけどぉ、剣のおじさんも頑張ってたよぉ。たぶん」

 クグは思った。ポポルコ、君はいい子だ。将来大物になるぞ。いや、なってくれ。そして地味なヤツの存在が重要だということを、世の中に広めてくれ。



 無事、入口近くの分かれ道が始まる場所まで戻ってきた。ここまで来れば大丈夫だろう。

「あっ、しまった! めっちゃだいじなこと忘れてた!」

 カカバロが急に声をあげた。

「どうしたんだ? 何か大事な物でも洞窟の中に忘れたのか?」

「パチモンだよ。パ・チ・モ・ン!」

「パチモン?」

「スマホゲームのパチクリモンスターのことっすか?」

「よく知ってるねメイスの兄ちゃん」

 カカバロがそう言うと、3人はリュックからスマホを取り出し、クグたちにわかりやすいよう見せてくれた。

「そういえば私も聞いたことがあるな。子ども向けのスマホ用ゲームで、パチモンとかいうモンスターを捕まえるとかなんとか」


 このゲームは、現実の世界がゲームのフィールドと連動しており、公園などにパチモンとやらが出るようだ。休みの日に親子連れが公園で、スマホをいじってパチモンを捕まえようと遊んでいる光景を最近よく見かける。

「捕まえたお気に入りパチモンを成長させるんだよ」

「成長させたパチモンをつかってぇ、対戦もできるんだよぉ」

 ぺぺコラとポポルコが続けて説明してくれた。

「へえ。ただ捕まえるだけではなくて、いろいろ遊べるようになっているのか」

「正式名称はぁ、マスター・オブ・パチクリモンスター~スーパー・レジェンダリー・ニュージェネレーション・ネクスト~なんだよぉ」

 ムダに仰々しいタイトルだ。最近のお子さんにはこれくらいがちょうどよいのだろうか。


「おいらが捕まえたお気に入りのパチモンは、モフゴレム!」

 カカバロがスマホの画面をクグとゼタに見せながら言った。3頭身にデフォルメされたキャラで、強そうというよりかはかわいげのあるキャラだ。全身がモフモフの白い毛で覆われており、頭だけ見ると白アフロヘアーのゴーレムだ。ゴーレム特有のいかつさが毛で軽減され、それほど強そうに見えない。肌触りがよさそうだ。

「モフイカツイっすね」

「苦労して捕まえたパチモンなんだぞ。毛の色が変わると属性が変わるんだぜ。ブチギレると毛が七色に光って、めっちゃ強くなるんだぞ」

 毛が七色に光るとなぜ強くなるのか原理はよくわからないが、とにかく強いのだろう。


「あたいのお気に入りのパチモンは、ハダカデバネウス。めっちゃカワイイでしょ」

 ぺぺコラが見せてくれたのは、出っ歯で毛のないネズミのキャラだ。まったくかわいげがない。デフォルメされていてもちゃんとブサイクだ。最近のお子さんは、こういうのをカワイイというのだろうか。

「ブサカワっすね」

「そうそう! このブッサイクなところが、たまんないの」

 ブサカワとはものは言いようだ。本人が気に入っているのならそれでいいのだが。クグにはブサカワの概念が理解できなかった。


「ボクのお気に入りはぁ、ミジンコキング」

 ポポルコが見せてくれたパチモンは、王冠をかぶったデカいミジンコだ。ミジンコはデフォルメしてもミジンコだ。体が透明なので内蔵がモロ見えでグロキモいキャラだ。強いのだろうか。

「ミジンコは最弱キャラだからぁ、一発で死んじゃうしぃ、成長させてもゼンゼン強くならないんだよぉ。でも100匹集めるとぉ、オニ進化合体してミジンコキングになるんだよぉ」

 最弱キャラを100匹集めるのは、地味な作業を通り越してもはや苦行だ。アメ玉の包み紙を集めるのも、これに近いようなものなのだろう。


「ミジンコが100匹もウジャウジャしてるとこを想像すると、ゲロキモいっすね」

「そういう夢を壊すようなことを言うのはよしなさい。で、パチモンと洞窟に何の関係があるんだ?」

「洞窟の奥に、レアパチモンがいるかもしれないじゃん」

 カカバロは無邪気に言った。

「そのレアパチモンとやらを捕まえるために、わざわざあんな危険な所まで行ったのか?」

「そうだよ。あたいたち、レアパチモンを捕まえるために来たんだよ。今から洞窟の奥まで戻れば、レアパチモンをゲットできるかも」

「ボクもレアパチモンほしいなぁ」

 クグは思った。最近のお子さんは、純粋な冒険ではなくスマホゲームのためにダンジョンへ来るのか。時代は変わったものだ。それにしてもあきれたものだ。あれだけ危険な目に遭っておきながら、この期に及んでまだレアパチモンだとのんきなことを言うとは。もとより、そんなことに付き合っていられない。大事な任務の途中なのだ。


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