意思疎通
広場を抜けてから1時間くらいたっただろうか。
俺はひたすら走り続けた。
やつらが異変に気付いて追ってくることも考えられるため、少しでも長く距離を稼いでおきたかった。
ただ、さすがに少し疲れてきた。
どこか休める場所はないだろうか。
休めそうな場所を探しながら走っていると、大きな木の下にちょうど良さそうな窪みがある。
ひとまずここで休むことにしよう。
窪みにつくと彼女をゆっくりと降ろし、地面に座る。
彼女は俺をしばらく見つめてから話を始めた。
表情や身振り手振りから、きっとお礼の言葉を言っているのだろうが、何を言っているのか理解が出来ない。何語なのかもさっぱり分からない。
ここは海外なのか?彼女の髪色は黒いし、佇まいも若干の日本人らしさがあるが、一方で日本人らしからぬ彫りの深さを感じる顔立ちをしている。
まあ、そもそもあんな化け物がいるのだから海外もくそもないかもしれないが…
彼女は俺に言葉が通じていないことを察したのか、ハッとした表情をすると、断りを入れるようなお辞儀をしてから、俺の方に手を向け、何やらぶつぶつと呟き始めた。
そして、徐々に彼女の手が光り出した。
内心とても驚いたが、それを表に出してしまうと何となく格好がつかない気がしたため、何とか心の中に抑えた。
「私の言葉、分かりますか?」
「あ、えっと、分かりますけど…いったいどうやって…」
「…?ああ、私の魔法でお互いの言語が通じるようにしました。」
どうやら、この世界には"魔法"があるらしい。
魔法なんて本やゲームの世界でしか聞いたことのない。ますます、この世界への謎が深まる。
「改めて、助けていただき、ありがとうございました。あなたは命の恩人です。何か恩返しをさせていただきたいのですが、見ての通り持ち合わせがなくて…」
そう言って、申し訳なさそうにしている。
「いや、見返りを求めていたわけではないので気にしないでください。」
「いえ、命を助けていただいたのにそういうわけには…」
しばらく、同じようなやりとりが続き、このままだと「この身を捧げます!」とか言い出しそうな勢いだったので、
「それならこの辺りのことについて教えてくれませんか?あまりこの辺りについて詳しくないもので。」
そう言うと、少し拍子抜けしたような表情をし、
「この辺り?ええ、もちろん構いませんが、もしかして旅の方ですか?」
「…あー、旅と言えば旅なのかもしれません。」