決死の救出劇
さて、助けるとは言ったものの、どうしたものか。
特にいい方法を思い付いたわけではない。
だからといって、正攻法で、あの化け物たちを倒して救うという手段も得策ではないだろう。
俺は軍隊の特殊部隊の出身でもなければ、映画に出てくるようなスーパーヒーローでもない。
ただの三十路の"お兄さん"である。
あれこれと考えた結果、1つの案を思い付いた。
先程、大木を押し倒したこの怪力を活かした作戦だ。
まず、茂みの中の木を押し倒す。
そして、その様子を不審に思った化け物が押し倒された木の様子を見に行く。
その間に俺が助けに行くという作戦だ。
逃げる方向と反対方向の木を倒すつもりなのだが、化け物が木が倒れたことに気付き、こちらに向かって来てくれないと、そもそも作戦が進まない。
木が倒れるというのは普通ではないことだと思うので、反応はしてくれると思うが…
懸念するべき点はいくつかあるが、急造の作戦だ、仕方がない。
自ら頬を叩き、気合を入れる。
そして、ありったけの力を込め、木を押す。
木がメキメキと音を立てる。
そして、大きな音を立てて木が倒れると同時に場所を移動する。
なるべく速く、そして静かに。
化け物の様子を伺うと、何やら話しをしているようだ。
しばらくすると、話がついたのか1体だけが移動を始めた。
この森の中での食物連鎖では、やつらは上の方にいるのだろう。
それならば、確かに1体だけが見に行けば事足りるかもしれない。
それならばと、逃げる方向と先程音を立てた場所の間の辺りの木をもう1本へし折った。
これならどうだと化け物の様子を伺うと、もう1体も音の方へ向かって歩き始めた。
よし、今のところ作戦は順調だ。
ただ、どれだけの時間が稼げるか分からない。
急いで捕まっている女性を助けに向かう。
女性はこちらに気付くと何かを必死に話している。
言葉は日本語ではなく、何と言っているか全く理解できない。
「助けてくれ」とでも言っているのだろうか。
俺が人指し指を口元にあてて「静かに。」のポーズをすると、やつらに声が聞こえたらまずいことに気付いたのか、何も話さなくなった。
繋がれている鎖を力づくで引き千切ると、彼女はひどく驚いた様子だったが、今は一刻も争う状況なので特に説明することなく、指で逃げる方向を伝え、走る動きを見せて、急いで逃げることを伝える。
彼女は頷くと、俺と一緒に走り出したが、すぐに転んでしまった。
苦悶の表情を浮かべながら、足を押さえている。
どうやら、足を怪我しているようだ。
それによく見ると顔つきもだいぶやつれている。
一体、どんな扱いを受けていたのか心配になる。
このままではまずいと思い、俺は彼女を背負って走り出した。
背負ったときに彼女が慌てて何かを言っていたが、そんなことを気にしている状況ではないので、一目散に逃げる。
何とか広場から茂みの中へ入り、なるべくその場所から離れるように走り続けた。
元々体力には自信があったが、人を1人背負ってここまで走れるほどではなかった。
やはり、俺の身体は何かがおかしいと再認識した。