囚われた人影
異形の存在を見た俺はその場から動けなくなった。
心臓の音がうるさい。
心拍数が速くなっているのを感じる。
身体中の全神経が危険信号を発している。
こんな感情は人生で初めてだ。
これが捕食される側の気持ちというやつだろうか。
捕食される側とは言っても、見つかったら食べられてしまうかどうかは分からない。
しかし、こちらが弱者なのは変わりないだろう。
それに、コミュニケーションがとれるとは到底感じられない。
あれとは関わらない方がいいと俺の直感が告げてくる。
一瞬が何時間にも感じるほど、とても長く感じた。
きっと、実際はたったの5分くらいだろうか。
異形の化け物が通り過ぎ、ようやく落ち着くことが出来た。
今でも生きた心地がしない。
やはり、この場所は普通ではない。
一刻も早く家に帰りたいと思い、再び森の中を歩き始めた。
行き先に宛てがあるわけではないが、先程の化け物が向かった方向と逆の方向に歩くことにした。
しばらく歩くと、広場のような場所が見えてきた。
広さとしては、小さな公園くらいの広さだろうか。
そして、その中央付近に見覚えのある影を見つけた。
そう、あの異形の化け物だ。
ここから確認できるだけで2体いる。
少し遠回りにはなるが、このまま茂みからは出ずに、迂回した方がよさそうだ。
化け物の様子を伺いながら歩いているときに、2体の他に人影があることに気付いた。
その人影は手を鎖で繋がれている。
どうやら、捕まっているようだ。
やはり、化け物たちには関わらないのが正解だったようだ。
俺は世間で言うところの"良い人"ではないと思う。
自分の身を危険に晒してまで、誰かを助けるべきだという考えは持ち合わせていない。
しかし、俺は見てしまった。
囚われている彼女が流す涙を。
「何を考えてるんだが…」
一度、迂回しようとした道を戻りながら、自分自身に呆れる。
ただ、見て見ぬふりをできない自分のことが、俺は案外嫌いではない。