未知との遭遇
穴から出た俺は地下鉄の入口のような階段を抜け、外に出ることが出来た。
そして、俺が見た景色は森だった。
時間帯は夜。とても綺麗な満月が見える。
穴の先から見えた光は、どうやら満月の光だったようだ。
あんなに、天井の高い空間から抜け出したのに地表に出てきたということは、先程の空間は地下にあったらしい。
高い場所から見ればここがどこなのか分かるかもしれないという期待は裏切られたが、とりあえず外に出ることが出来たので良しとしよう。
ただ、外に出ることが出来たが、やはりこの場所には見覚えがない。
ここは一体どこだという疑問と夜の森の中に一人きりという不安がつきまとう。
幽霊などの心霊現象を信じているわけではないが、暗闇というものはどうしても不安を感じさせてくる。
しかし、立ち止まっていても仕方がないと自分を奮い立たせ、歩き始めた。
歩きながら、先程の跳躍力のことについて考えた。
もちろん、今も視力は良いままだし、体も軽い気がする。
身体能力が上がったのなら、跳躍力以外も伸びているのでは?という疑問が湧き、試しに近くの木を相撲の立ち合いのように勢いをつけて押してみた。
さすがにこんな大木は無理か、と思いながらも思い切り木を押してみると、木は音を立てながら、折れた。
そして、地響きのような物凄い音を立てて地面に木が倒れると、鳥が鳴き声をあげながら、逃げていった。
心の中で、鳥たちに謝罪の言葉を言いながらも、自分の力に驚きを隠せない。
「この力は一体…」
思春期に言ってしまいそうな恥ずかしい台詞を言ってしまったが、そんな恥ずかしい台詞を言ってしまうくらい頭の思考が追いつかない。
自分の身体の変化については今すぐに答えが出そうにない。
それに、この力はあまり人前で使わないほうがよさそうだ。
やはり、この場所についての情報を得るのが先だ。
しばらく、歩いていると人の気配がした。
しかし、何故か反射的に身を隠してしまった。
目を覚ましてから初めて人に会ったのだから、情報を得るためには人から聞くのが一番早い。
そうは言っても夜の森の中で大人の男が「ここはどこですか?」なんて聞いてきたら、相手は俺のことを確実に不審者だと思うだろう。俺ならそう思う。
そう考え、草陰に身を隠しながら様子を伺うことにした。この時点で、どこからどう見ても不審者の仲間入りだ。
人影が近づくにつれて会話が聞こえてきた。
どうやら日本語ではない言語を話している。
英語でもない。一体、どこの国の言葉なんだろうか。
松明を持った後ろ姿が見えるが、どこか違和感がある。
今の時代に松明を持って森の中を歩く人がいるだろうか?
それに、明らかに身長が高い。
高いというよりは大きいという方がしっくりくるような体格をしている。
身体の幅が普通の人の倍くらいはありそうだ。
そして、その人影がこちらを振り向いたとき、俺は心臓が止まりそうになった。
そこには見たことのない異形の姿があった。