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存在しない記憶

「それにしても、よくぞこの場所に辿り着くことができたものじゃ。上手く隠れているつもりじゃったが。」


「それが何回迂回しても滝の近くに戻されてしまって、初めはどうなることかと思いましたよ。」


「…?いや、わしはそんな仕掛けをしたつもりはないがの…」


アントニオが訝しげな顔をする。


「どういうことだかさっぱりじゃが。気を付けておくにこしたことはない。これを持っていきなさい。」


「これは?」


アントニオは、コンパスのような見た目をした物を俺に差し出した。


「これは対になっているものを指し示す物じゃ。もう片方はこの場所に保管してある。つまり、その矢印が指し示す方向と反対に進めば森の外に出られるはずじゃ。」


「何から何まで、ありがとうございます。」


「気にせんでよい。気を付けるのじゃぞ。」


アントニオと共に研究所の出口に向かう途中に、やけに気になる部屋を見つけた。


「…」


「どうかしたかの?」


「この部屋は?」


「…ああ、この部屋はどうやっても入ることが出来なくてな。何か気になるか?」


上手く表現出来ないが、何かがある。そんな気がした。


「少し調べてみてもいいですか?」


「ああ、構わんよ。」


アントニオに許可をもらい、扉に触れてみる。


「ッ!?」


「ゼン!?どうしたのじゃ!?」


扉に触れた瞬間、頭に猛烈な痛みを感じた。

頭が割れそうだ。


そして、頭の中に覚えのない映像が映りだす。


『ひッ!死にたくない!』


『お、俺たちは指示に従っただけなんだ!何も知らなかったんだ!』


『頼む!い、命だけは…』


目の前で命乞いをしている人間が見える。

随分と背が低い。

いや、俺の目線が高いのか?


俺は容赦なくその者たちの頭を刎ねた。


何故そうしたのかは分からない。

何も感じない。


逃げ惑う人間を片っ端から殺戮していく。


俺は何故こんなことをしているのだろうか。


俺とは反対方向に逃げていく中、立ち止まってこちらを見つめている人影が一つ。


「…ルシア」


俺の口から自然と声が漏れた。


そして、そこで謎の映像は途切れた。


息が苦しい。胸の鼓動がとてつもなくうるさい。


何故ルシアの名を?


「ゼン!?大丈夫か!?」


「はい…少し目眩がしただけですから。」


俺が触れた扉は開くことはなかった。


その後も何度か扉に触れたが、先ほどのようなことはなく、何も起こらなかった。


そのまま、俺達は外へ出た。


「身体はもう平気か?」


「はい、ご心配をおかけしました。」


「それでは、達者でな。」


アントニオと別れようとしたとき、見知らぬ人影が現れた。


二人組だ。一人は背の高い男。もう一人は、フードを被っていて様子が分からない。


「…また貴様らか。」


「例の件について、考えていただけましたか?」


「確かに断ったはずじゃが。」


「そういうわけにもいかないんですよ。上から命令されているもので。」


「得体のしれないものに協力するつもりはない。帰ってくれ。」


「困ったなあ…次、断られたら無理やり連れてこいって言われてるんだよな…ごめんよ。」


「ッ!何をするんじゃ!」


「ちょっと来てもらうだけだよ。」


男はアントニオとの距離を一気に詰めて、彼を米俵のように抱えた。


俺はすかさず、背の高い男との距離を詰める。


「…おいおい、邪魔しないでくれ。俺は争いごとが嫌いなんだよ。」


「争いが嫌い者が、人さらいとは物騒な話だな。」


「…あー、まあ、大義の為ならしょうがないこともあるさ。」


「持論だが、大義を掲げ、そればかりを理由に動く奴には大抵ろくな奴がいないんだよ。」


「おうおう、そうかいそうかい…ちなみに俺は無駄なお喋りも嫌いだ。」


どうやら、穏便に事を済ませることは難しそうだ。


会話が一段落すると、音もなく、フードの者が俺の側面に回り、脚を振り上げた。


「ッ!?」


俺はそれを事も無げにいなす。


男が間髪入れずに、俺の頭部目掛けて拳を振ってきたが、それも先程と同じように受け流した。


「…あれまあ、これはなかなかまずいね。」


「争いが嫌いなんじゃなかったのか?」


「物事は柔軟に考えないとね。ケースバイケースってやつ?」


「フッ!」


フードの方は蹴り技主体、男はどちらもバランスよく使って攻撃してくる。


実力的にはフードの者よりも男の方が上だろうか。だが、これまで魔族を相手にしてきた俺にとっては、どちらも大して脅威にはならない。


「…おいおい。あんたいったい何者だよ。今からでも俺たちの仲間になったりしない?」


「お前たちの目的は知らんが、知人に手を出されて黙っていられるほど、俺は薄情者ではないんでな。」


「じゃあ、俺達の目的を話すからそれに賛同してくれたら、一緒に付いてきてくれよ。」


「シン!」


「リン、口を挟むな。」


「お仲間はその意見に反対みたいだぞ。それに、お喋りは嫌いなんだろ?」


「その話はよしてくれ。取るに足らない冗談だ。」


シンと呼ばれた男の雰囲気が先程までの軽薄な様子から打って変わり、真面目な雰囲気になった。


「正直、俺達じゃお前、いや、あなたには勝てない。それならば目的の為に手段を選んではいられない。」


「俺達はこの世の全ての魔族を滅ぼしたい。」


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