謎の手記
アントニオの後に続いて入った部屋には、たくさんの本が棚に並んでいた。
「わしには何と書いてあるか分からんが、おぬしなら読めるかもしれんと思ってな。」
アントニオから本を受け取ると、俺は本を開いた。
本の中には見慣れたアルファベット文字が書かれている。
しかし、残念ながら俺の英語力では、細かな部分まで読み解くことができない。
他に読める物がないか探していると日本語で書かれているものを見つけた。
『8月4日』
実験が成功した!
ついに私たちの、いや、私の理論が正しいと証明される時が来たのだ!
見ていろ、私のことを散々馬鹿にした奴らを見返してやる。
『8月5日』
実験の成功については、まだ私以外は知らない。
成果を横取りされたら、たまったものではないからだ。
然るべきときまで暖めておくべきなのは分かっているが、今すぐ公表したい欲にかられる。
『8月6日』
最近、やたらと私の研究室に人が出入りする。
今日だけで5人も人が来た。
いつもは誰も来やしないのにだ。
何かを勘付かれたか?
『8月7日』
やはり、おかしい。
研究のサポートに人員を補充すると通達があった。
情報が漏れている。
別の場所に移る準備を始めなければ。
『8月8日』
今日、別の研究機関の人間と接触した。
どうやら、私の受け入れの準備が完了したようだ。
カモフラージュのために別の実験データを渡す約束をした。
私の「あの研究」のことは念のために伏せておこう。
『8月9日』
今日で、ここともおさらばだ。
最後になれば後ろ髪を引かれる思いが出てくるかと思ったが、そんなことはなかった。
『8月10日』
なぜだ!なぜばれた!
ふざけるな!
あれは私のものだ!
返せ!返せ!
『8月11日』『8月12日』のページは破られている。
『8月13日』のページは断片的に残っている。そこに書かれているのはただ一言。
"だれにもわたさない"
と、なぜか平仮名で記されていた。
これは誰かの日記だろう。
研究の成果を横取りされた、恨み辛みが書かれている。
読んでいて気持ちのいいものではない。
「どうじゃ?読めたかの?」
「はい、確かに元の世界で使われていた言葉で書かれています。」
「そうか…問題なのはその本がなぜここにあるのかということじゃ。」
「つまり…」
「…ああ、お前さんのいた世界と、この世界が繋がっている。もしくは、同じ世界だということじゃ。」
確かに思い当たるフシはあった。
文化などは違えど、地名など、共通するものもある。
しかし、文字や魔族など、全く違うものもあるということから、世界が繋がっているだけで、2つの世界が同じ世界だとは考えづらい。
「他の本も見ていいですか?」
「ああ、好きなだけ見るといい。」
他の本を物色してわかったことは、この本を書いている人物は、英語と日本語を使い分けている。
数値などが入った実験データなどは英語でまとめられているが、日常的な日記などは日本語で書かれている。
その日記の大半が、その日にしたことを記録し、それについてどう思ったかが簡単に書かれているという内容だ。
先ほどのページでは、若干荒んだ印象を受けたが、初めの頃はそんなこともなかったようだ。
いろいろな本を手に取ったが、今すぐ役に立ちそうな情報は見つからなかった。
特に研究の内容に関する記述が見つかればと思ったが、情報の漏洩を恐れてか、見つけることは出来なかった。
「…そろそろかの。」
「はい、お世話になりました。」
「おぬしが強いとはいえ、誰彼構わず敵に回してはいけんぞ。特に魔族の中でも変わった名前を持つものとは戦ってはならん。」
「変わった名前?」
「魔族の中にも位があるのは知っておるじゃろ?その中でも最上位の者には変わった名前が与えられるそうじゃ。まあ、与えると言っても誰が与えるのか、それとも勝手に名乗っておるのか分からんがな。」
変わった名前がどんなものかは分からないが、覚えておくとしよう。
「ありがとうございます。アントニオさんは、これからもここで研究を続けられるんですか?」
「ああ、そのつもりじゃ。」
「では、また仲間と合流したら会いに来ますね。」
「フォッフォッフォッ…楽しみにしておるよ。」




