身体の異変
天井に人が通れそうな穴が空いている。
老朽化によって、穴が空いてしまったというよりは、人工的に作られたような綺麗な円形になっている。
しかし、問題は穴までの距離だ。
少なく見積もっても10mはありそうだ。
壁を登ろうにも、壁はもちろん垂直に上に伸びているし、穴に向かう前に90度を超えるような角度になっているところもある。まるでねずみ返しだ。
これはいよいよまずいと感じ始めたところである異変に気付く。
そういえば寝る前にコンタクトを外したよな?
何で眼鏡も掛けていないのに遠くまで見えるんだ?
俺は眼が悪い。しかも、コンタクトや眼鏡がないと近くの人の顔もぼやけて見えてしまうほどだ。
それなのに、距離が10m以上はありそうな穴の形まで見えるなんておかしいのだ。
昔に観た映画でそんなシーンがあったことを思い出した。
手から糸を出して、戦うヒーローの映画である。
もしかしてと思い手を突き出して、ポーズをとったり、掛け声を出してみたりしたが、もちろん何も起きない。
ただ恥ずかしい気持ちになっただけである。
今の姿を誰にも見られていなかったことに安心しながらも、もう少し真面目に考えようと思い直した。
確かあのヒーローは身体能力も強化されていたことを思い出し、何気なくジャンプをしてみる。
その直後、頭に鈍痛が走った。
「え?何?痛い…え?なにこれ?」
パニックである。それもそのはず、頭をぶつけるはずがない状況で、頭に何かがぶつかった痛みがあったのだから、何がなんだか分からない。
もしかして、天井に頭がぶつかった?
…いやー、ないない。10m以上もジャンプできる人間がこの世界のどこにいるだろうか。
さっき、人間を辞めないとここから出られないとは言ったが、それが出来たらいよいよ本当に人間を辞めている。
半信半疑でもう一度軽くジャンプしてみると、今度は天井には届かなかったが、それでもあり得ない高さまでジャンプすることが出来た。
あー、これは人間辞めてるわ。
起きたら知らない場所にいるわ、視力が良くなるわ、ジャンプしたら天井に頭をぶつけるわで、あり得ない状況が信じられない気持ちと、映画のヒーローのようなことが出来ている高揚感が混じった感情を抱きながら、何度かジャンプの位置と高さを調節して何とか穴を抜け出すことに成功した。