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虎穴に入らずんば虎子を得ず

森の中へと足を踏み入れ、しばらく歩いたが、やはり危険な気配はしない。


危険な気配どころか、生き物の気配がしないと言った方が正しいかもしれない。


頬を撫でる風が心地よい。


とはいえ、状況が状況なだけに急がなければならない。


そんなことを考えながら歩いていると、遠くの方で水が流れる音が聞こえてきた。


川だろうか?いや、これは水が落下する音だ。

滝の音のように聞こえる。


ソフィアの助言によれば、滝には近付くべきではないらしい。大人しく迂回すべきだろう。


俺は音の方角を避けて、さらに森の奥へ進んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


おかしい。滝の音を避けて森の奥へ進んでいるはずなのに、滝の音が遠くに離れていかない。


しかも、気のせいでなければ同じ場所を何度も通っている気がする。まあ、森の中の景色なんて似たようなものではあるが。


俺は方向音痴ではない。

最近は、スマホアプリの道案内に頼りっきりになっているとはいえ、ここまでの間違いは起こさないはずだ。

ましてや、俺は以前よりも感覚が強化されているため何度も同じ場所を通ることは考えにくい。


必ず滝を通らなければ、先へは進めないように仕組まれているのだろうか。


何者かの意思を感じる。


明らかに罠ではあるが、今回はあえてその罠にはまってやるとしよう。


滝の音に近付いていく。段々と音が大きくなってきた。


しばらく歩くと密集した木々の隙間から滝が見えてきた。


滝の高さは30mほどだろうか。

それなりに水量が多く、迫力がある。


そして、予想通り滝の裏側に道が続いている。


俺は周囲への警戒を怠らないようにしながら、洞窟の中を進んでいく。


洞窟の中は薄暗く、何か光源がなければ進めないかと思ったが、段々と目が慣れてきたのか、夜目が効くようになっているのか、暗闇に困ることはなかった。


しばらく歩くと、広い空間に出た。

広間の中央に所謂ゴーレムのような物体が座っている。


今にも動き出しそうな気配がしているが、横を通り過ぎても動き出すことはなく、胸を撫で下ろした。


広間の奥に扉を見つけたが、扉の材質に違和感を覚える。


SF映画などで出てくる金属かなにかでできている自動扉のような見た目をしている。


しかし、こういった扉は電気などで作動するはずなので開きそうな気配はない。


どうしたものかと、とりあえず扉に触れてみると、扉の中央から蜘蛛の巣のように波紋が扉の全体に広がった。


「ッ!」


突然の反応に、驚いて体がビクッとしてしまったが、幸い誰も見ていない。


そして、機械音と共に扉が開いた。

どうやら、通ることを許されたようだ。


この世界に釣り合わない扉を抜け、再び歩き出す。


あれは、テレビ?いや、モニターか?


歩きながら周囲を見渡すと、現代の日本で見慣れた物が数多く見つかった。


どれも電源がつかなかったり、壊れて使い物にならなかったりしたが、自分の知っている物を見つけ、そこまで時間が経っている訳ではないのに、懐かしい気持ちになった。


家族は元気だろうか。

時間軸が同じであれば、無断欠勤をしてしまっている仕事も気になる。 


一番奥に明かりがついている部屋を見つけた。


誰か、いや、人間とは限らない。

何かがいる。


神経を研ぎ澄ませ、静かに扉を開ける。


そこには、1人の老人がいた。


「ふむ、よくぞ、ここまで辿り着いたな。番人を倒せる者を送り込むとは…奴らめ、いよいよ、わしを本気で消しに来たか…」


「え、いや、消すとかそんな物騒な…」


「…いや、もうよい。やるなら一思いにやってくれ。年長者からのせめてもの願いじゃ。」


「いや、だから消すとかじゃなくて…」


「皆の思い、叶えることが出来なかった…すまぬ…」


「だから、消しませんって。」


「え、消さんの?わしのこと。」


「はい、消さないです。」


「…なんで?」


「なんでと言われても…まず、私はあなたのことを知りません。」


「…わしのこと知らんの?」


「はい、知りません。私はこの森の外に出るためにここを通り抜けようとしているだけです。」


「面白いことを言う若者じゃ。わしを消す目的以外で、この森に入る者がいるわけないじゃろ。」


「えっと、ここにいますけど…」


「…」


「…」


「…茶でも飲むか?」


「あ、お気遣いありがとうございます。」


唐突なお茶会が始まった。


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