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別れの時

「ゼンさん、とりあえずこれを…」


「ありがとうございます…」


パブロが俺に大きめの布を渡してくれた。


「ゼン、先程までの姿は…」


「俺にも分かりません。ただ、一つ確実なのは俺はこれからも皆さんの味方でありたいと思っています。」


あえて、俺は『人間だ』ということは言わなかった。いや、言えなかった。

なぜなら、俺自身も俺が人間であるという自信が持てなくなったからだ。


「そうか…替えの服を準備させよう。」


「ありがとうございます。」


ソフィアに礼を言い、地面に横たわる魔族を見る。


にわかに信じがたいが、俺がこいつを倒したらしい。


正直、いつもの俺では歯が立たなかった。


そう、あの謎の変身をするまでは。


あの禍々しい姿はいったい何だったのか。


こいつが言った俺が魔族という発言も気になる。


俺は自分が人間であるという認識している。


元の世界ではもちろん人として生まれ、人として平凡に生きてきた。


心当たりが全くない。


それに、鏡の中にいた『俺の味方』とやらの存在も謎だ。


自分自身も状況が掴めない中、得体の知れない存在である俺を、ソフィア達は信じてくれるというのだ。


ありがたい話だが、もう少し警戒した方が良いのではないかと、いらぬ心配をしてしまう。


「どこか痛むところはないか?」


「はい、問題ありません。」


「だいぶ激しい戦闘だったのだが…まあ、大きな怪我がなくて何よりだ。聞きたいことは山程あるが、まずは今後についての話をしなければな。」


ソフィアの後に続いて砦の中に入っていく。


「仲間のところに行くのだったな?」


「はい、お世話になりました。」


「いや、世話になったのは我々の方だ。ありがとう。」


そう言うと、ソフィアが深々と頭を下げた。


「頭を上げてください。『働かざる者食うべからず』ってやつですよ。」


「…?働か…なんだって?」


「…いえ、何でもないです。」


つい癖で、またしても馴染みのないことわざを言ってしまった。


「確かフクオカに向かうと言っていたな?フクオカはここから北へ向かうといい。ただ、ここから北へ向かうと大罪の森にぶつかる。まあ…多少時間がかかっても迂回するのが無難だろう。」


「森を突っ切るというのは、どうでしょう?」


「…勧めはしない。何があるか分からん場所だからな。ただ、ゼンならどんなことが起きても大丈夫そうではあるが…」


「魔族の一匹や二匹、蹴散らしてやりますよ。」


「フッ、頼もしいものだ。それならば止めはしない。しかし、私の知っている情報は伝えさせてくれ。」


「ありがとうございます。」


「まあ、情報と言ってもただの言い伝えなのだが…」


ソフィア曰く、

『滝には近づくな、戻れなくなる。』という言葉が伝わっているらしい。


滝の近くに危険があるということだろうか。

ただ、戻れなくなるのに何故それが伝わっているのかと、ツッコミを入れたくなる。


とにかく、肝に銘じて進むとしよう。


その後、身支度をし、みんなに見送られながら砦を後にした。


こうやって一人になるのは久しぶりだ。


一人で出掛けることは嫌いではない。

しかし、一人映画や一人ラーメンと知らない世界で一人で行動することは、わけが違う。


しばらく、歩くと森の入口が見えてきた。

入口といっても、門などがあるわけではないが、ふとソフィア達と出会ったときのことを思い出した。


今思えば、散々な出会い方だったな。


『またいつか会えるさ』


そう自分に言い聞かせ、森の中へと向かう。

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