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表裏一体

ここはどこだ?

気付くと、俺は何も無い白い空間にいた。


俺はさっきまで魔族と…


いや、魔族?何だそれは?


違う、俺は誕生日で30歳になって…


自分の記憶のはずなのに自分が体験したことではないような感覚に陥る。


とにかく、この白い空間がどこなのか。それを確かめねばならない。


そんなことを考えていると、突然、背後に気配を感じた。


咄嗟に後ろを振り向くと、先程までは何も無かったはずの空間に鏡が現れている。


警戒しながら近づいていく。


そして、鏡の前に立ち、鏡を観察してみる。


鏡の枠は石の様な材質で出来ていて、凝った文様が彫刻されている。


しかし、しばらく経っても何も起きる様子がない。


ヒントになりそうもないと思い、踵を返そうとしたそのとき、


「やあ、元気?」


突如、鏡の中から声がした。


鏡が喋る訳がないのだが、確かに声が聞こえる。


なんと、鏡の中の俺が俺に話しかけている。

何を言っているのか分からないと思うが、言葉通りの意味だ。


「お前は誰だ?」


「僕?僕は君だよ。」


「いや、"もう一人の僕"みたいな設定はいらん。」


「少しは信じてくれたっていいのに…まあ、正解。僕は君ではない。今は鏡に映る君の姿を借りて、話しかけているだけだよ。」


「質問の答えとしては不十分だ。お前が俺でないことは分かっている。もう一度聞く、お前は誰だ?」


「誰って言われると難しいけど…まあ、君の味方とだけ伝えておこうかな。」


「結局、名前は明かさないんだな。」


「明かさないというよりは、ないと言ったほうが近いかな。」


名前がないというのはどういうことなのだろうか。

釈然としないが、敵意は感じないため話を聞いてみるのも悪くはない。


「それで、俺の味方さんは、どういったご用件でしょうか?」


「なんか歓迎されていないね…君のピンチをせっかく助けてあげようと思ったのに。」


「ピンチ…?」


「あれ?覚えてないの?じゃあ、思い出させてあげるよ。」


そう言うと、俺の姿を借りたそいつは、指をパチンと鳴らした。


その音を聞くと同時に、俺の頭の中に先程までの出来事がフラッシュバックする。


「…お喋りに付き合っている場合じゃなかったみたいだ。じゃあな。」


「ちょっと、ちょっと。話は最後まで聞かないと。」


まあまあ、と言った仕草で俺を宥めてくるが、一刻を争う状況だ。

悠長に話を聞いている場合ではない。


「今、このまま意識が戻ったら、君は死ぬよ。」


現実の俺は、青い魔族に胸を貫かれている。


「じゃあ、何か方法があるのか?」


「あるよ、でもまあ…少し賭けになるかな。」


「何もしなければ、どうせ失う命だ。どうすればいい?」


どうせ死にかけの命だ。これ以上失うものはない。


「君の中に眠る力を解放するんだよ。」


「抽象的な言い方はやめろ。俺は何をどうすればいい?」


「自分の本能に身を任せればいいんだよ。自分でも気付いてるでしょ?」


「…どういうことだ。」


「壊したいんでしょ?全部。」


「残念ながら、俺にそんな願望はない。」


「人っていうのはさ、見たくないものから目を背けるんだよね。」


そう言うと、鏡の中の俺が遠くを眺めるように目を細める。


そして、こちらをじっと見つめる。


「今の君みたいにね。」


「…何のことだか、さっぱりだな。」


「まあ、見たくないものと向き合うっていうのは簡単なことじゃないよね。でも、自分の心と向き合わないと、この状況は打開できないよ。」


言われる言葉の一つ一つに苛立ちを覚えてしまう。

それは奴の言葉が図星だからなのだろうか。


「おっと、助言ができるのはここまでみたいだ。あとは君次第だよ。期待してるよ〜」


手をひらひらと振りながら鏡の中の俺が消えていく。


「全部壊したい…か。」


俺の本当にしたいこととは、いったい何なのか。


正直よく分からないが、俺は理屈っぽすぎるところがあるので、たまには本能に身を任せるのは悪くないかもしれない。


鏡には先程までとは違い、正真正銘、俺が映っている。


今の自分も嫌いではない。

しかし、進化するためには今の自分を覆っている殻を破らなければいけない。


自分らしくないこともしてみるべきかもしれないな。


手始めに目の前の鏡に向かって、軽く右手を振り下ろす。


鏡は案外頑丈に出来ており、傷一つつかない。


鏡は何も悪くないのだが、無性に腹が立ってきた。


急に知らない世界に連れてこられたこと、戦いたくもないのに戦いを強いられている状況、そして、魔族に敗れた自分。


全てに腹が立つ。


その怒りをこめて、鏡を思い切り殴る。


何度も、何度も。


手が切れ、血が出ているがそんなことは気にしない。


ひたすら鏡を殴り続けた。


「ハァ…ハァ…」


しばらく、一心不乱に殴り続けた結果、肩で息をするくらい息が切れた。


鏡は、さすがにボロボロにはなったが、まだ完全に壊れているとはいえない状態だ。


「俺は何がしたい…いや…お前は何がしたい!」


割れた鏡の中の自分に問いかける。


「…ゼンブ、コワセ。」


鏡の中から確かに聞こえた。


いいだろう、やってやる。


渾身の力を込めて鏡を殴りつける。


鏡は音を立てて、崩れ落ち、目の前が真っ暗になっていった。


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