同族嫌悪
「んぅー!もう服なんてどうでもいい!君の絶望する顔が見たい!」
完全に俺が標的となったようだ。
非常に不愉快だが、ソフィア達が逃げる時間を稼ぐには好都合だ。
「俺に夢中になってくれて光栄だ。じゃあ、最後まで付き合えよ!」
昔やったゲームや観たアニメを思い出しながら、それっぽい剣技を繰り出していく。
正直、剣技と呼べるかは分からないが、我ながら様になっていると思う。
「小細工したって無駄だよ。まあ、いろいろと頑張ってくれた方が絶望が…フッ、フフフ…」
また何かを想像してニヤニヤしている。
何度でも言おう、非常に気色悪い。
「で、でも、も、もう…耐えられない!!」
そう言うと、視界から奴が消えた。
「ぐッ!」
奴が消えたと思った瞬間、俺の身体は砦の壁に埋まっていた。
既視感のある光景だ。この世界に来てから、何度も経験した。
赤い魔族、紫眼の魔族、青眼の魔族、そして今回。
物語の主人公なら、こういった場面で謎のパワーアップイベントが起こるのだろうが、俺には一切そんなことは起きてこなかった。
しかし、ここまで何とか生き残ってこれた。よくやったと自分を褒めてやろう。
だが、さすがにそろそろ潮時か。
「さあ、どんな顔を…」
そう言いながら奴が俺に近付いてくる。
「…ねえ!?なんで絶望した顔をしてくれないのさ!?ねえ!?」
「お?そうか?自分では、かなり絶望しているつもりなんだが…。まだケツを拭き終わってないのに、トイレットペーパーがなくなっちまうくらいにさ。経験あるだろ?」
「…ああ、そういうことか。どうりで僕が興奮出来ないわけだ。」
『計画変更!』と奴が呟く。
「この砦中の人間を全員殺す!男は撲殺!女は火あぶりだ!」
「おいおい、俺だけを見てくれるんじゃなかったのか?」
「声が震えているね。焦ってきた?でも、ごめんね。やっぱり僕、君じゃ興奮できない。」
「俺の何が気に食わないんだ?ポーカーフェイス過ぎるってか?」
「え?」
奴は首を傾げると、呆れたように、
「だって君、魔族だもん。」
「…は?」
俺が魔族?いや、あり得ない。そもそも俺は違う世界から来たのだから、元の世界にいない魔族であるはずがない。
「君、魔族だよね?初めは見た目から人間かと思ってたけど、近くで目を見て分かったよ。」
「おいおい、何を言ってるんだ。俺は、生まれてからずっと人間だ。」
「えー、そんなこと言われても…でもまあ、どっちでもいいや。僕、同族殺しは趣味じゃないから!じゃあね!」
「おい!待て!」
「ち、ちょっと!離してよ!今から一人残らず虐殺するんだから邪魔しないでよ!」
「それを聞いて、『はい、そうですか。』なんて引き下がれるわけないだろ!」
「んもー、面倒くさいな!あまり気が進まないけど、しょうがないか。」
「ッ!!」
奴の腕が俺の胸を貫いた。
「君が悪いんだよ?せっかく見逃してあげようと思ったのに。」
そして、奴は躊躇無く腕を抜き取る。
痛みは一瞬だった。
既に指先の感覚が無い。
視界には歩き去ろうとしている奴の姿、俺の胸から溢れ出ている赤黒い血、そして、空には黒い積乱雲が見える。
『ああ、俺、死ぬんだ。』
もっと、恐怖で堪らなくなるものだと思っていたが、『案外穏やかだな。』と、どこか他人事のように感じてしまう。
起きたら元の世界に戻れるといいな。
いや、戻ったところで…
もう疲れた、少し休もう。
そう思い、俺は静かに瞼を閉じた。




