奪う者
「おーい、邪魔するなよ。君には用ないからさ。」
「あいにく、俺には強盗犯を見逃す趣味はない。」
「おー!言葉通じるじゃん!って強盗犯?なんで?」
「お前の目的は、あの服だろ?人の服を盗るなんて強盗じゃないか?」
「人間の服を貰うのがなんで強盗なの?別にいいじゃん、人間のだし。」
「そうか。お前達はそういう奴らだったな。」
やはり、魔族とは価値観が合わない。
価値観が合わないというよりは、人間を種として下に見ているが故の考え方なのかもしれない。
『人間の物をどうしようが自由だ。』
ということなのだろう。
例えそれが"命"だとしても。
「じゃあ、服を渡せば大人しく立ち去ってくれるのか?」
「うーん、それはちょっとなー。だって、そもそも大事な服を台無しにしたのはそっちだし。」
確かにそれは一理ある。
勘違いとはいえ、先に攻撃を仕掛けたのはこちら側だ。
しかし、手応えとして以前の魔族達よりも交渉の余地がありそうだ。
「あの時は、砦を守るために魔族と戦闘中だった。そのときにお前が戦場の真ん中に空から降ってきた。誰がどう考えたって襲撃しに来たと思うんじゃないか?」
「はあー…こっちは別に力ずくでその人ごと奪っていったっていいんだよ?話を聞いてあげてるだけ、ありがたく思ってほしいくらいだよ。」
言葉の節々に苛立ちが感じ取れる。
建前上、話を聞いてやっているが、譲歩するつもりはないということだろうか。
「…分かった。では、どうすればいい?何が条件だ?」
「そうだなー。じゃあ…」
いったい、どんな要求をしてくる?
まあ…パンツ一丁にまでならなってやってもいいか。
俺の辱めでみんなの命が助かるなら安いもんだ。
そんないつものおふざけを脳内で行っていると、奴の結論が出たようだ。
「この場にいる、あの服を着ている女以外を全員殺して。そうすれば、君とあの女の二人とも助けてあげる。」
…なぜ、そうなる?
最初はきっとソフィアだけが狙いだったはずだよな?
「…確認だが俺達にとって条件が悪くなっていないか?」
「え?うん。だって、時間が経ってイライラさせられたし…それに…」
奴の雰囲気が少し変わった。
「…僕って、人間の血の匂いが大好きなんだよね…エヘヘへへ…」
やはり、魔族というのはどいつもこいつも頭がおかしいらしい。
「みんな、少し下がっていてくれ。」
「あ、ああ。」
ソフィアが耳元で呟く。
「…ゼン、すまない。」
「いえ、まあ初めからこうなるんじゃないかって覚悟してたので。」
やはり、対話で何とかなんていう理想論はこの世界では捨てるべきだ。
背中に担いだ大剣に腕を伸ばし、両手で構える。
構えるとは言ったものの、そんな大層なものではない。
あくまでも我流だ。
素人の俺には、今の自分の姿勢が構えと呼べるものになっているかどうかの判断もつかない。
「え、何?僕と戦うの?やめておいた方がいいんじゃない?」
「あいにく、俺には嫌がっている女の服を脱がせる趣味はないんだ。」
「まあ、どっちでもいいけど。少しは暇潰しに付き合ってよね!」
「ぐッ!!」
奴の拳と大剣がぶつかる度に、周囲に金属音が鳴り響く。
「おいおい、最近の魔族はステンレス製なのか?野菜が上手に切れそうだな。」
「よく分からないけど、挑発のつもり?僕…余裕ぶった顔が、絶望する顔に変わっていくのが、たまらなく好きなんだよねぇ〜!」
何故かまた興奮している。実に気持ちが悪い。
しかし、気持ち悪がってばかりもいられない。
態度こそただの変態だが、奴の力は本物だ。
あの青眼の魔族ほどではないが、それに迫る強さだと感じる。
「うーん、なかなかしぶといね。でも、このままじゃ君の負けだよ?」
「そうでもないぞ。お前の攻撃パターンはだいたい分かってきたからな。」
「強がらなくたっていいよ!ほら!そろそろ絶望しなッ!?ぐッ!」
「ほら。読めてきたって言ったろ?」
「…へえー。ハッタリじゃなかったんだ。」
…いや、実はハッタリだ。
戦闘の最初に気付いたことがある。
俺と奴のスピードは、ほぼ互角だ。
しかし、俺はあえて80%くらいのスピードで動いていた。
そうすることで、奴は俺の80%を100%と勘違いし、そのスピードに合わせて攻撃を重ねてきていた。
そして、今、俺が急に100%のスピードで動いたため、先を読まれたように錯覚しただけの話だ。
これで、少しは奴に動揺が生まれればいいのだが。
「じゃあ、こっちも心置きなく本気が出せるねぇ!」
…どうやらあっちも本気じゃなかったっぽい。
「ほらほら!攻撃が読めてきたんでしょ!?攻撃し返してきなよ!」
本気じゃなかったと言うのはハッタリではないらしい。
体感として2割ほど速くなった気がする。
つまり、120%というわけだ。どこの波動砲だよ。
「あぁー♡段々といい表情になってきたねぇ〜♡その調子だよ♡」
何故か奴の語尾に『♡』が付いているように聞こえるのは気のせいだろうか。
非常に気色悪い。
まあ、それだけ俺の表情が曇ってきているということだろう。
実際、今のところ勝ち目は薄い。
この魔族の反感を買ったとしても、俺が負けた場合のことも想定しておくべきだ。
「ソフィア!全員を連れてここから離れろ!」
「!?あ、ああ、分かった!」
「え?行かせるわけないじゃん。僕の大事な服なんだから。」
そう言うと、青い魔族はソフィア達の退却を邪魔しようとしたが、俺が立ちはだかることで何とか時間を稼ぐ。
「おいおい。今は俺以外を見ている余裕なんてないだろ、妬けるぜ。」
「自分はどうなっても、仲間だけは何とか助けたいって?…でも、死の直前になれば『だ、誰か!誰か助けてぇー!』って情けない声で叫ぶんだろうなぁ…フッ、フフフ、フフフフッ…」
…もう俺から敢えてコメントすることはない。




