とんぼ返り
突如現れた青い魔族を見る。
一瞬、転移ポータルで共に飛ばされた、あの筋骨隆々の青眼の魔族かと思ったが、見た目が全く違う。
どちらかと言えば、『ヴィオラ』と呼ばれていた紫眼の魔族の見た目に近い。
「青!?そ、そんな…」
青い魔族の姿を見た兵士達に動揺が走る。
「狼狽えるな!撃てぇー!」
直ぐに攻撃すべきだと判断したソフィアの号令と同時に、青い魔族に向けて大砲が放たれた。
「目標に着弾を確認!」
「やったか…?」
ソフィアが創作物では絶対に言ってはいけないフラグを立てる言葉を口にしてしまった。これはまずい。
「もー、折角の服が台無しだよー。この服気に入ってたのになー。」
「なっ!?」
自分の身体についた埃を払いながら、悪態をついている。
見たところ全くダメージが通っていない。
これには、さすがのソフィアも固まってしまっている。
「火薬の匂いって好きじゃないんだよねー。せっかくの血の匂いが薄まっちゃうし。」
不穏な台詞を言い、笑みを浮かべる。
「まあ、いっか。さっさと終わらせて着替えを探そっと。」
そう言い終わると、ソフィアに向かって再び跳躍した。
「くっ!」
まずい。青い魔族のあまりのスピードにソフィアの周りの護衛達は態勢を整えることが出来ていない。
『間に合わない。このままではソフィアを死なせてしまう。』
そう思ったが、青い魔族はソフィアの横を通り過ぎて、そのまま去っていった。
「…は?」
「…え?どういうことだ?」
兵士達が混乱している。
もちろん、師団長達や、命の危険を感じたソフィア自身も困惑した表情だ。
俺にもさっぱりな状況だが、考えられる仮説としては、
①そもそも、青い魔族の目的はこの砦ではない。
②緑の魔族と青い魔族には部下や上官のような繋がりはなく、自然界のような力関係のみが存在している。
まあ、そもそも青い魔族にとって人間など取るに足らない存在なのだろう。
暇ならまだしも、あの魔族は何か急ぎの目的がありそうだった。
そんな中、人間の存在など、本当にどうでもよかったのだろう。
逆に言うと気まぐれで命を奪われることもあるかもしれないが。
その後、防衛戦は無事に終わった。
怪我をした者はいたが、幸いにも死亡者は1人も出なかった。
「おい、ゼン!大活躍だったな!あんな凄いコントロールはどこで身に付けたんだ?」
第2部隊の部隊長エンソが声を掛けてきた。
「いやー、昔からスポーツは得意だったので。」
「スポーツ…?何だそれ?食いもんか?」
どうやら、この世界にはスポーツがないらしい。
まあ、生きるか死ぬかの世界だ。
元の世界では娯楽の一つでもあるスポーツがないのは当たり前だろう。
それにスポーツがなくとも格闘技などで身体を動かす習慣があるのだから、わざわざ健康のために動く必要もなさそうだ。
「…あー、武芸みたいなものですかね?」
「なるほどな!どうりですげえわけだ!また今度コツを教えてくれよな!」
「はい、喜んで。」
そう言葉を交わすと、エンソは上機嫌でソフィア達の方へ歩いていった。
よく見てみると、他の部隊長達もソフィアの元へ集まっている。
きっと、青い魔族についての話し合いだろう。
奴の目的や次に遭遇したときの対処法など、色々話さなければいけないことがあるはずだ。
話し合ったところで、どうにか出来るかは分からない。
しかし、どうにもならないからと言ってやらなくていい理由にはならない。
そういえば、せっかくソフィアに用意してもらった、この大剣を使う機会はなかったな。
これからも使う機会がないといいのだが、そんな甘い世界ではないだろう。
「ッ!?」
「ねえ、その服ってどこでもらえるの?」
ソフィアと部隊長達の集まりの中に、先ほどの青い魔族が再び降ってきた。
「な!?貴様!ど、どうやって!?」
「その服ってどこに行けばもらえるの?」
「くッ!団長!こちらへ!ここは我々が!」
「あれ?言葉、通じない?おかしいなー?あの服ってどこに行けばある?」
「俺達で少しでも時間を稼ぐぞ!!」
「だーかーらー、あの服って…あ、そうか。そのまま貰っちゃえばいいのか!」
そう呟くと、ソフィアに向かって一気に近付く。
今回はソフィアの横を通り過ぎるのではなく、確実にソフィアがターゲットだ。
話の内容から察するに目的はソフィアではなく、ソフィアの着ている服かもしれないが。
砦中に金属の衝突音が響き渡る。
「ッ!ゼ、ゼン…」
『俺は2度同じミスはしない』
…ように心掛けている。
あくまで心掛けているだけだ。
でも、今回は間に合った。
貰った武器分の働きはしないとな。




