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おもてなし

砦の中は、思っていたよりも広かった。

町というには手狭かもしれないが、それでも充分な広さがあるように見える。

すれ違う人は、屈強な男性もいれば、年老いた老婆や小さな子供の姿もある。


「フッ、この砦がそんなに珍しいか?」


「いや、まあ、砦にしては生活感があるなと。」


「砦と言ってはいるが、ここは我々の家だからな。」


そのまま奥へ進んでいくと、扉の前でソフィアの足が止まった。


「すまないが、夕食までもう少し時間がある。この部屋は自由に使って構わないから、ゆっくりしていてくれ。」


「お気遣い、感謝します。」


それではまた後でな、と言ってソフィアは行ってしまった。

団長と呼ばれていたし、それなりの立場の人間なのだろう。忙しいのも仕方がない。


部屋は豪華とまではいかないが、それなりの広さがあり、くつろぐには問題なさそうだ。


とはいえ、ただ待っているのも暇でしょうがない。


部屋の中を見渡すと棚に本が並べてある。


自由に使って構わないと言っていたし、触っても問題ないだろうと判断し、本を手に取る。


中を見てみるが、やはり文字は読めない。


しばらく、何とか読めないものかとページを捲っていると、何かが本の間から落ちた。


拾ってみると、小さな女の子と男性が笑顔で写っている写真だった。


見ているこちらまで笑顔になるような、幸せそうな表情をしている。


女の子は、どことなくソフィアに似ている。この写真に写っているのは、ソフィアとソフィアのお父さんだろうか。


きっと、大事なものだと判断し、元に戻す。


もしかしたら、ここにはソフィアの大切なものがたくさん置かれているのかもしれない。

そんな場所を使っていいと言ってくれたのは、いきなり俺に攻撃してしまった罪悪感からだろうか。


椅子に座り、これまでの状況を整理する。


やはり、ルシアとミゲルの安否が気になる。

二人は無事なのだろうか?

青眼の魔族の行方は?


それに、この場所がどこなのかを確認する必要がある。 

ソフィアに後で聞いてみよう。


そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ。」


「失礼します。」


ノックの音に返事をすると、先ほどの男がやってきた。

確かパブロという名前だったか。


「先ほどは誠に失礼いたしました。」


「いえ、魔族ではないと分かってもらえたので、もう大丈夫です。」


心底申し訳なさそうな表情をしている。上官がいつもあの様子だと、ついていく方は気苦労が絶えないだろう。


「それにしても、人があの森から出てくるのはそこまでおかしいことなんですか?」


「そうですね…私の知る限りでは大罪の森から出てきた人はいません。」


「それは、あの森に何か危険なものがあるからですか?」


「いえ、具体的に何があるのかというのは私も…なにせこの砦には森に入ったことがある人間がいないもので…」


「つまり、危険な場所かどうかも定かではないと?」


「定かではありませんが、森に入って出てきた者がいないという点と、魔族の出入りがあるという点から入ることはおすすめしかねます。」


厳しい口調ではないが、強い意志を感じる。きっと、正義感が強いのだろう。


「じゃあ、私が生還者第一号ですね。」


空気が重くなってしまったので、少し冗談めかして言ってみた。


「本当に森から出てこられたんですよね…?」


そこから、パブロに森の中の様子を伝えた。

俺も全てを探索したわけではないが、そこまで危険な場所という印象はなかった。


「特に危険なものは見当たらなかったと…うーん…」


パブロは俺の話を聞いて真剣な顔をして悩み始めてしまった。


「貴重なお話、ありがとうございます。今後の活動に生かします。」


「お役に立てて、光栄です。」


話の最中にノックもせずにソフィアが入ってきた。


「食事の準備が整った…ぞ。なんだお前もいたのか。」


「ゼンさんに、森についてお話を伺っておりました。」


「なるほど、その話は後ほど我にも聞かせてもらいたい。さあ、ついて来い。食事にしよう。」


後をついていくと、食堂に通された。

ウォールナットのような一枚板の大きなテーブルがある。木目がとても綺麗だ。


「さあ、掛けてくれ。遠慮せずに食べるといい。」


一番奥の席に団長のソフィア、その手前にパブロ、そしてその向かい側に俺が座った。


席順を見ると、どうにも社会人になりたての頃を思い出す。

あのときは、席順にいちいち頭を悩ませたものだ。


食事はコース料理のようなものではなく、大皿に盛り付けられているものを取り分けて食べるスタイルだった。

角煮のようなものや、サラダのようなもの、グラタンのようなものもあるが、見た目は似ていても、俺の想像通りの料理とは限らない。


「ん?どうした?食べないのか?毒など入っていないぞ。」

ソフィアがもぐもぐ食べながら料理を勧めてくる。


「あ、それでは遠慮なく。」

その言葉に甘えて、俺も箸を進める。とは言っても、今使っているのは箸ではなく、フォークだ。箸が恋しい。


料理を食べ進めるが、やはり腹にたまる感覚がない。フードファイターにでもなろうかと思えてしまうほどだ。


「味はどうだ?」


「とても美味しいです。一人で全部食べてしまいそうなくらい。」


「さすがにこの量を一人で食べられるわけ…本当に食べられそうだな…」


止め時が分からず、結構な量を食べてしまったのでそろそろ止めておこう。


これは、いよいよ本格的にフードファイターへの転職を考えた方がいいかもしれない。


「さて、答えたくない質問に答えろとは言わんが、我はお前の素性が気になる。いくつか質問をさせてもらいたいが構わんか?」


「ええ、どうぞ。」


「ではまず、お前は何者だ。」


「それは先程も答えたように人間です。」


「いや、我が聞きたいのはそういうことではない。何か特殊な鍛錬をしたのか?」


「いえ、普通に働いていました。」


「…そんなわけがないだろう。一般人に魔族が倒せるわけがない。生まれつき体が強かったとか、とてつもない武術の才があったとか…」


「確かに運動は得意でしたが、一般常識の範囲内かと。」


「…ゼン、お前は何の武器の使い手だ?」


「武器ですか?使ったことないです。」


「…は?使ったことがない?」


「はい。」


「使ったことがないってどういう意味だ?」


「いや、そのままの意味ですが…」


「……」


「……」


『何を言っているんだこいつは』とでも言いたげなソフィアと数秒間見つめ合ってしまった。

その綺麗な青い眼に吸い込まれそうになる。少し気恥ずかしい。


「つまり、お前は特別な訓練を受けず、武器も使わずに魔族を倒した…そういうことか?」


「そういうことになります。」


「…パブロ、我は何かおかしなことを言っているか?」


「いえ、団長の心中お察しします。」


「…改めてもう一度聞く。お前は人間か?」


この質問はこれからもされるかもしれない。

だが、何度聞かれようが答えは変わらない。


「はい、人間です。」

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