啓示
…ここはどこだ?
辺り一面を見渡したが、何も無い。
ひたすら白い景色が続いている。
しばらく、歩いてみるが何も起こらないし、何も見つからない。
ゴールのないマラソンを走らされている気分だ。
確か俺は、30歳の誕生日を迎えて…いや、違う。
目覚めたら違う世界に…?いや、それは漫画の話だったか?
いまいち思考がはっきりしない。
頭の中にモヤがかかっているような感覚だ。
歩いていると何も起きていないのに、様々な感情が浮かんでは消えていく。
怒り、悲しみ、そして謎の多幸感。
コロコロと感情が変わるため、まるで、自分の感情ではないような錯覚に陥る。
そして、俺は歩くのを止めた。
『もうどうでもいい、どうにでもなれ。』
そんなことを思っていると、どこからか声が聞こえてきた。
『君が終わらせるんだよ。』
「…?終わらせる?いったい何を?」
『君が全てを終わらせるんだ。』
「だから、いったい何を…」
『君が終わらせるんだ。この……を…』
「おい!大事なところが聞こえないって!」
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「おい!だか…ら、あれ?」
自分の大きな声に驚き、我に返る。
俺は確かに先程まで真っ白な空間にいたはずだ。
しかし、今、俺がいるのは木々が生い茂る森の中だ。
空の明るさからして、昼間であることは間違いない。
ポータルに乗った時間からそれほど長く経ってはいないだろう。
妙なことに、あの怪物じみた強さをした青眼の魔族の姿が見当たらない。
同じポータルに乗ったのだから、同じ場所に飛ばされてるものだと思ったが、周囲の気配を探っても近くに危険な気配は感じない。
それに魔族がいると、ポータルが発動しないはずなのだが、今回は何故かポータルが動いてくれた。
理屈は分からないが、助かった。
しかし、問題はここがどこか分からないということと、ルシア達と離れてしまったことだ。
非常にまずいのは、未だに俺がこの世界の地形や常識をよく知らないことだ。
その辺のことはルシアに任せっきりになっていたため、皆目見当もつかない。
とりあえず、ここがどこなのかを確かめよう。
どうするかを決めるのはそれからだ。
まずは森を抜けるために近くにある一番高い木に登る。
木登りは子供の頃以来だが、この身体のおかげで難なく登ることが出来そうだ。
それにしても、この木…大きすぎやしないか?
登りながら下を見ると、少なく見積もっても50mはありそうだ。
きっと、タワーマンションから見る景色はこんな感じなんだろう。
まあ、眼下に見えるのはビル群ではなく、森なのだが。
頂上付近に辿り着き、周りを見渡す。
しばらくは森が続いているが、開けている土地が見える。
とりあえずはそこを目指すことにしよう。
木から降り、ひたすら走る。
1時間ほど経っただろうか。
走っていても、全く疲れない身体に改めて違和感を感じる。
それに汗をかかないのも妙だ。いくら疲れていないとはいえ、運動をしているのだから体温が上がり、汗をかくはずだ。
そのおかげなのか、シャワーを浴びずとも匂いが気にならない…きっと臭くはないはずだ。
走り続けて、森を抜けた先には、平原が広がっていた。
草花が風に吹かれ、ゆらゆらと揺れている。
こんな状況だが、少し気持ちが晴れやかになる。
しばらく景色を眺めていると、遠くから複数の影が近づいてくるのが見えた。
あれは…馬?ダチョウか?…いや、ラクダにも見える。
そして、その動物の上に人が乗っている。
敵か味方かは分からないが、情報が必要な以上、隠れてやり過ごすのは賢明ではない。
もし敵意を向けて襲ってきたら、そのときは返り討ちにするだけだが、なるべくは穏便に済ませて、情報を得たい。
とりあえず、こちらに敵意がないことを示すために両手を挙げて、声を掛けてみた。
「こんにちはー!おーい!こっちこっち!」
「………!……………!」
何を叫んでいるが、まだ遠くにいるため何を言っているか分からない。
だんだんと近付いてきたため、徐々に何を言っているか聞こえてきた。
「魔族め!父の仇!この場で殺してやる!」
…えー、俺、人間なんだけど。




