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紫眼

「ッ!!」


あまりのスピードに反応が遅れた。

間一髪のところで二人を抱えて後ろに飛び退く。


「うわ、今の避けれるの?」


「ルシア、ミゲルを連れて逃げろ。」


「…分かりました。ミゲル、行きましょう。」


ミゲルは相変わらずひどく怯えた表情のままだが、ルシアが引っ張るようにして逃げていく。


「…?何で逃げられると思ったの?」


二人が逃げた先に奴が向かう。


「お前の相手は俺だ。」


奴の肩を掴み、投げ飛ばす。

しかし、奴は難なく宙返りをし、着地する。


「お前、何かムカつくな。お前から消してやる。」


そう言うと、俺めがけて攻撃を始める。


一瞬で俺との間合いを詰め、こちらへ掴みかかってくる。

捕まったらどうなるか分からないので、その手を避けながら攻撃をする。

しかし、こちらの攻撃も当たらない。


しばらく、膠着状態が続いた。

痺れを切らしたのか、奴の攻撃の手が止んだ。


「あのさー、お前本当に人間?」


紫色の目で、俺の全身を舐めるように観察してくる。

昨日、ルシアに言われた事を思い出すが今はそれどころではない。


「ああ、生まれてこの方、ずっと人間だ。なぜ、お前達魔族は人間を殺す?」


「え?人間を殺すのに意味なんて必要?」


「ああ、殺されるにしても納得がいかないだろ。」


会話をして、二人が逃げる時間を稼ぐ。


「うーん、そうだなあ…お前は虫を殺すのに理由なんて考えてるの?」


「…虫?」


「そうそう、殺したいと思ったら殺す。ただそれだけ。深い意味なんてないよ。」


言葉が通じる分、話し合いで何とかなるかもしれないと考えた俺が甘かった。

奴は俺を殺そうとしている。殺そうとしている相手に会話など通じるわけがないのだ。


それに魔族にとって人間は虫ぐらいの認識らしい。

人間も自分の家に鬱陶しい虫がいたら退治する、魔族にとっても、その程度の認識なのだろう。


「じゃあ、お喋りはこの辺にしてと。そろそろ終わりにするねッ!」


「!?」


…何が起きた?


気が付くと、俺は教会の中にいた。

見上げると、昨日見つけた謎の像が見える。


どうやら、奴に受けた攻撃で教会内まで吹き飛ばされ、一瞬意識を失っていたらしい。


「あれー?まだ生きてるの?手加減したつもりはないけどなー」


気だるそうにこちらへ向かって歩いてくる奴に向かって、虚勢を張る。


「その程度か?魔族も大した事ないな。」


「…あー、そういうのいいよ。ここまで差があるとムカつきもしないし。」


どうやら、挑発して平常心を乱す作戦も効かないようだ。


それもそうか。俺だって虫に煽られても別に腹は立たない。


「まあ、人間にしては強かったよ。でも、所詮は人間だね。これで本当に終わりだよ。」


そう言うと、奴が拳を構える。


『ああ、俺の人生もここまでか。』

昨日の赤い魔族との戦いでも死を覚悟したが、何とか乗り越えることが出来た。


しかし、昨日の今日でまた命の危機である。


いったい俺が何をしたと言うんだ。


こんな目に遭わなければいけないような事をしたのか。


なぜ訳も分からないまま命を奪われないといけないのか。


そう考えていると、目の前の魔族に対して無性に腹が立ってきた。


「虫と人間が同じ大きさだったらどっちの方が強いと思う?」


「ん?虫?急に何言ってるの?」


「虫を甘く見てると痛い目に遭うってことだよッ!」


怒りと共に身体の芯から力が溢れてくる力を、全て右の拳に集めるような意識で右ストレートを放つ。


「ぐはッ!?」


奴は手負いの俺の攻撃など喰らっても大したことがないと思っていたのだろう。特に防御するような様子もなかった。


「人間が…よくも…絶対殺してやる!」


「大人しく殺されてやる訳ないだろ。」


先程よりも、奴の攻撃のスピードが上がっている。


だが、俺も集中出来ているせいか攻撃が見える。

というよりは予測が出来ていると言った方が正しいのかもしれない


怒りで攻撃が単調になっている。

紆余曲折あったが、作戦成功だ。


「くそ!ちょこまかと!」


「虫は虫らしく動かないとな。」


しかし、避けているだけでは勝ち目がない。

先程は奴が俺の力を甘く見ていたからこそ、こちらの攻撃が当たったが、今度はそうもいかないだろう。


現に奴の攻撃も捌くことが出来ているが、こちらも有効打を与えることが出来ていない。


「本当は使いたくなかったけど、見せてあげるよ!」


奴が手を上へかざすと、視界の端が光った。


「ぐッ!!」


全身に電流が走ったような経験はあるが、本当に全身に電流が走ることがあるとは思わなかった。


「雷の力はどう?気に入ってくれた?」


ニヤニヤしながらこちらを見てくる。


「…ああ、気持ち良すぎてマッサージかと思ったよ。もっと強めでもいいぞ。」


「減らず口を…いつまでその余裕が続くかなッ!」


「ッ!!」


おいおい、雷を使うなんて反則だろ。


全身が痺れて上手く身体が動かせない。


自分の皮膚が焼け焦げる匂いがする。


このままだとまずい。雷の力に限界があるかどうかは分からないが、力が使えなくなるまで耐えるというのは現実的ではない。


考えろ、考えなければ死ぬ。


攻撃を喰らいながら周りを見る。


ふと、教会に祀られている像が目に入った。


神様だか何だか知らないが、今だけは信じてやるから力を貸してもらおう。


俺は像の方へ走り出す。


「どうしたのー?今さら逃げられないよ!」


向かう最中にも雷は止まない。いくら速くなったといえど、雷の速さには勝てない。


「ぐッ!…あんたが何者か知らないが、祟ったりしないでくれよ。」


俺は像を力づくで引っこ抜き、奴に正対する。


「はあ?今さらそんなの使ってどうするの?」


「分かってないな。信じる者は救われるんだよッ!」


俺は像を奴の方へ思いっきり投げる。


そして、その投げた像の後ろについて走り出す。

我ながらイカれた発想だ。


「!?な、何で雷が当たらないんだよ!」


「ちゃんと、お勉強しておくべきだった…なッ!」


「ぶへぁ!?」


俺の最大限のスピードと体重を載せた一撃を喰らって、奴は変な声を出しながら吹き飛び、壁にめり込んだ。


砕け散った像のかけらを見る。

予想通り、像は何かの金属で出来ていた。これが木材で出来ていたら作戦は上手くいっていなかっただろう。


壁にめり込んだ魔族に近付く。


「気分はどうだ?」


「殺してやる…殺してやる…」


「残念だが、死ぬのはお前だ。」


魔族が虚ろな目で、こちらを見る。


「お前の目…そうか…ふふふ…そういうことか…」


「俺の目がどうした?」


「ふふふ…そうか…ふふふ…」


そして、紫色の目をした魔族は謎の笑みを残しながら息を引き取った。




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