帰還
これは、転移ポータルだよな?
この世界の"どこでもドア"こと、転移ポータルが目の前にある。
まあ、どこでもドアと違って一方通行だし、行き先は決まっているようだが…
見たところ埃を被っておらず、つい最近まで使われていたような印象を受ける。
ただ、今すぐに乗るわけにはいかない。
町で待っている二人を置いていくわけにはいかないし、身体もボロボロだ。
まずは、町に戻って二人と合流するのが先だろう。
広間を出る際に、もう一度赤い魔族を見る。
殴られた瞬間、正直もう駄目だと思った。
だが、死がすくそこまで迫ったときに実感した。
俺はまだ死にたくない。
俺には『やらなければいけないこと』があるという強い使命感を感じた。
その、『やらなければいけないこと』は具体的にはよく分からないが、これが生存本能というものだろうか。
何にせよ、俺は生き残った。
今ある命に感謝しつつ、その場を後にする。
薄暗い階段を抜け、礼拝堂に戻る。
礼拝堂は特に変わった様子はない。
結局、ここがどういった目的で作られた建物かは分からなかった。
壁に描かれた模様、祀られている神様、赤い魔族。
謎が深まるばかりで何一つ解決していないことに少し苛立ちを覚えるが、とにかくまずは二人の待つ町へ帰らなければ。
しばらく、来た道を走り抜ける。
相変わらず脇腹の辺りが痛むが先程よりも痛みが和らいできた気がする。
アドレナリンか何かが出て痛みを感じにくくしてくれているのかもしれない。
そして、町へと戻ってきた。
家へと近づいて行くと、家の前でルシアが薪割りをしているのが見えた。ルシアもこちらに気付いたようで、
「…あ、ゼンさん!おかえりなさい!」
と、こちらを見て手を振っている。
「ただいま。ミゲルは部屋の中か?」
「はい、今までの疲れが出たみたいで部屋で寝てます。多分、ずっと気を張り続けていたみたいで…」
「それもそうだよな…今はゆっくり寝かせてあげよう。」
確かにミゲルの目の下にはクマがあった。一人取り残された不安から熟睡出来なかったのだろう。
「何か手掛かりは見つかりましたか?」
「山の上に教会のような建物があったんだが、その地下に転移ポータルがあったんだ。」
「地下に転移ポータル?そんな話聞いたことがないです…転移ポータルは、結界が張られた町の中にあるのが普通なので。」
うーん、と唸りながら考え込んでいる。
「それと、魔族にもあった。」
「…ん?え、えぇー!大丈夫なんですか!?それって、ついでみたいに言うことじゃないでしょ!」
「あ、ご、ごめん。」
怒り気味にツッコまれたせいで、思わず謝ってしまった。
「あ、別に怒ってるわけじゃなくて…ただ心配で…」
今度は少ししょんぼりしてしまった。きっと、本当に怒っている訳ではなくて心配してくれていたんだろう。
「心配してくれて、ありがとう。」
「い、いえ!こちらこそ、無事に戻ってきてくれてありがとうございます!」
お互いに、感謝を伝え合うよく分からない状況になってしまった。
でも、『ごめんなさい』よりも『ありがとう』を伝え合う方が心がスッキリするな。
そこで会った魔族について話をした。
どうやら、魔族には種類があるらしい。
しかし、種類と言っても姿や形ではなく、色によって区別されているようだ。
つまり、緑色にも人型に近いものもいれば、動物に近いものもいるということだ。
そして、強さの序列は下から緑、赤、青の順で強力になるそうだ。
古くからの言い伝えには他の色も出てくるようだが、おとぎ話のようなものらしい。
「それにしても、赤い魔族と対峙してよく逃げてこられましたね。しかも、大怪我もせずに…本当に良かったです。」
「え、いや、倒してきたけど。」
「…え、倒してきた?何を?」
「赤い魔族。」
「…ゼンさん、あなた本当に人間ですか…?」
「え、人間のはずだけど…」
「赤い魔族を倒したという話は聞いたことがありません。緑の魔族だけでも撃退するのに苦労するのに…」
確かに緑の魔族に町を襲撃されていたときも、人々は逃げ惑っていた。
しかし、魔法なんて便利なものもあるくらいだし、もう少し魔族に対抗できる人間がいてもいいのではないかという気もする。
「そういえば、赤い魔族って人間の言葉が分かるのか?」
「うーん、絵本とかでは魔族が話している場面とかはありますけど、実際に見たことはないので何とも言えないですね。」
赤い魔族は人間の言葉が以外にも、何かを呟いていた。あれが魔族の言葉なのか?
「魔族は人間を恨んでいるのか?」
「人間は魔族を恨んでいる人も多いと思いますが、魔族が人間を恨んでいるとは考えづらいですね。だって、魔族にとって人間なんて…」
そこまで言うと、口をつぐんでしまった。
魔族が発した『ニンゲンコロス』というあの言葉が、どうにも引っかかる。
魔族にとっては人間は取るに足らない存在のはず。
しかし、あの場で感じたのは人間に対する明確な敵意。
いや、憎悪のようなものを感じた。
何にせよあの場を切り抜け、またこうして二人のもとへ戻ることが出来て良かった。
暗くなってしまった雰囲気を払拭するために話題を変える。
「変なことを聞いて悪かったな。今日の夕飯はどうする?」
「今日はですね!私の十八番の料理を振る舞っちゃいますよ!」
ルシアも俺の意図を汲み取ってくれたのか、明るく返事を返してくれた。




