戦闘開始
「魔族!?いったいどういうことだ!?」
「俺にもよく分からねえ!けど、みんなが逃げろって!」
エドワードと客が言い争っている。
「おい、今日は店じまいだ!」
エドワードがそう言うと、他の客たちは慌てて店を出始めた。
「ルシア!ゼン!悪いが、今日はこれで店じまいだ!お前らも早く避難しろ!」
エドワードはそう言うと店の奥へ行ってしまった。
「ゼンさん、私たちも!」
「ああ、行こう。」
店の外に出ると、町の中心部に向かって人の波が出来ていた。
「門が破壊された!魔族が侵入してくるぞ!門から離れるんだ!」
兵隊のような格好をした男性が怒鳴るように叫んでいる。
「そんな!この町の門まで…魔族は入ってこられないはずなのに…」
同じ状況に陥った自分たちの村のことを思い出しているのか、表情がよくない。
「細かい話は後だ。とにかく逃げるぞ。」
そう伝え、走り出そうとした瞬間、視界の先に奴が見えた。
"魔族"だ。
この場所は、門からそこまで離れた場所ではないがこんなに早く遭遇するとは思わなかった。
そして、奴の近くには逃げ惑う人々が見える。
「どけ!クソガキ!」
「いやだ!死にたくない!」
「邪魔よ!道を開けなさい!」
誰もが我先に逃げようと必死だった。そんな中、小さな人影がうずくまっているのが見える。
「母さん!早く逃げなきゃ!」
「いいから!早く逃げなさい!」
「いやだ!母さんと一緒じゃなきゃいやだ!」
「言うことを聞きなさい!」
どうやら母親の足が瓦礫に挟まってしまい逃げることが出来ないようだ。
「ルシア、先に避難してくれ。」
「…ゼンさん!」
その光景を見た瞬間、俺の体は動いていた。
俺には、この町にいる全員の命を助けることは出来ない。
もしかしたら、違う場所でも同じようなことが起きているかもしれない。
その全てに手を差し伸ばさずに、この親子だけを助けて何の意味があるだろうか。
ましてや、今、最も優先するべきことはルシアと俺の安全確保だ。
だが、目の前の親子をどうしても見捨てることが出来ない。
「…!おじさん!助けて!母さんが出られないんだ!」
「私のことはいいから!息子を連れて早く逃げて!お願いだから!」
「少し離れててくれ。」
瓦礫を持ち、思い切り力を込める。何とか持ち上げられそうだ。そのまま、瓦礫を退かし、母親を救助したところでルシアが来た。
「ルシア!なぜ逃げなかった?」
「ゼンさんを置いて逃げられるわけないじゃないですか!それに私だって助けたい気持ちは同じです!」
「とにかく逃げるぞ。君、自分の足で走れるな?」
「う、うん!大丈夫!」
「お母さんは私の背中に乗ってください。」
「ありがとうございます…何とお礼を言ったらいいやら…」
「お礼を言うのは助かってからにしましょう。」
そして、逃げようとしたそのとき、前方から悲鳴が聞こえてきた。
この状況はまずい。進もうとしている方向にも魔族。後ろにも魔族。つまり、前後を挟まれてしまった。
この前みたいに跳んで逃げるか?
いや、今回はルシアに子ども、そして怪我をした母親もいる。さすがに三人を抱えて跳ぶことは難しい。
頭を使い、様々な方法を考えたが逃げる手段が思いつかない。
もう戦わざるを得ない。覚悟を決めろ。
「俺があいつらを引き付ける。その間に二人を連れて逃げてくれ。」
「そんな!いくらゼンさんでも魔族と戦うなんて自殺行為です!きっと他に方法があるはずです!」
「残念ながら他に方法が思い付かないんだ。それに戦うんじゃなくて囮になるだけだ。二人のことは頼んだぞ。」
後ろの方でゼンさん!と呼ぶ声がしたが後ろは振り向かない。もうやると決めたのだから。
「おーい!馬鹿魔族ー!こっちだぞー!ほれほれ!悔しかったら、捕まえてみろ!」
言葉が通じているかは分からないが、精一杯煽り倒した。
慣れていないのでどうにも不自然だが、やらないよりはマシだろう。
前方の魔族の注意が俺に向いた。
その隙に、ルシアは二人を連れて無事に避難していった。
とりあえず、何とかなった。そう思った。
しかし、考えが甘かった。
俺は前方にいる魔族がなぜこいつらだけだと思ったのか。いや、思い込みたかったのかもしれない。
「キャー!」
ルシアたちの前に別の魔族が現れた。
「ルシア!」
全速力で走った。いや、跳んだ。そして、その勢いのまま魔族に体当たりをした。
「ゼンさん!」
全身が痛い。コンクリートの壁に思いっきり激突したような痛みだ。
激突した魔族は、難なく起き上がる。特にダメージはなさそうだ。
そのまま魔族と正対する。
身長は2mはゆうに超えている。さっき、エドワードを魔族と見間違えそうと言ったが、とんでもない。
やはり、本物の魔族は一回りも二回りも大きい。
心臓の鼓動が速い。息苦しい。逃げ出してしまいたい。だが、俺達が生きるにはこいつを倒すしかない。
先に動いたのは魔族だった。
右腕を大きく振り上げこちらに振り下ろしてきた。それを避けると、左も同じように振り回してくる。
そして、その後も同じ様な行動を繰り返し行ってくる。
動きがやけに単調だ。これならいける。
そう思い、攻撃の隙を見計らって脇腹に軽く右フックをお見舞した。
「グフゥ!?」
魔族が変な声を出して後ずさった。
ダメージもちゃんと通ることを確認し、次は渾身の力を込めてストレートを打つと、
「グファ!!」
とうめき声をあげ、魔族は倒れた。
あと、2体。
囲まれないように魔族が直線になるような位置取りをし、1対1の状況を作り、残りも倒すことに成功した。
「すごい…人間が素手で魔族を倒すなんて…」
「おい!ボーっとしてないで行くぞ!」
信じられないものをみたような顔をする三人に喝を入れる。
その後も、どうしても避けられない場面が何度かあったが幸いなことに対複数の戦いは最初だけで、あとは1対1の戦いだった。




