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目覚め

夢を見た。


夢といえば、大体は突拍子もない出来事が連なった内容ばかりだが、今回の夢は至って普通の内容だった。


いつも通りに出勤し、日中は働き、そして帰宅する。

そんな内容だったため、特に違和感を感じることもなかった。


ただ、あまりにも平凡な内容だったためぼんやりとしか覚えていない。


しかも、夢というのは起きた直後は覚えているものの起き上がった途端に、ほとんど忘れてしまう。


そんな経験が誰しもあるのではないだろうか。


まあ、そんなものだろうと気持ちを切り替えてベッドから腰を上げる。


どうやら、この世界にも時間という概念があるようで、窓の近くに時計がある。

元の世界と同じように12個の数字が並んだ時計だ。


時刻は丁度、3時を指している。


この世界の生活習慣が分からないが、きっと早起きではないだろう。


そんなことを考えていると、扉がノックされた。


「ゼンさん、起きてますか?」


と、ルシアの声が聞こえてきた。


用心のためにかけておいた鍵を外し、扉を開けると、


「おはようございま…って、うわ!目のクマがすごいですよ…大丈夫ですか?」


「いや、問題ない。よく眠れたよ。」


どうやら、目のクマがすごいらしい。

自分の体感としては、ぐっすりと寝ることができたつもりだったが、いろいろなことがあったせいなのか顔色に出てしまっているようだ。


ルシアは、俺よりも少し早く起きて情報を集めていたようで、集まった情報としては、


①ルシアの村が襲撃にあったことが伝わっている。

②ルシアの村からこの町に避難してきた人はいない。

③今のところ、村の奪還作戦のようなものは計画されていない。

④この町の警備隊の動きが活発になっている。


ということだった。


「俺ばかりゆっくり寝てしまって悪いな。」


「いえ、いいんです!私もちゃんと眠れましたから!」


きっと、家族のことが心配でいてもたってもいられなかったんだろう。

あえて気丈に振る舞っているように感じる。


しかし、その思いも虚しく、特に欲しい情報は得られなかったのは残念だ。


「そういえば、まだご飯を食べてないですよね?ご飯でも食べましょうか!」


「それもそうだな。」


そこで初めて、この世界に来てから食事をとっていないことに気付いた。トイレにも行っていないし、風呂はおろかシャワーすら浴びていない。


匂いは大丈夫だろうかと不安になるが、とりあえず食事をとることにした。


宿の食堂は時間が決まっているらしく、今は食事を提供してもらえないらしい。


仕方がないので町に出かけることにした。


町の様子は至って普通だった。そこそこ活気があり、栄えている印象を受ける。


ルシアの案内で店に入る。


店内には壁にメニューのような物が書かれているが、全く読めない。

アルファベットのような漢字のような…

とにかく読めない。


俺が怪訝な顔でメニューらしきものを眺めていると、ルシアが、


「私のおすすめのメニューでいいですか?頼んでしまいますね。」

と、気を利かせてくれた。文字が読めないことを察してくれたのだろう。


出てきた料理は、ステーキのような肉料理とチャーハンのような米料理だった。

しかし、不思議なのは食欲をそそられる見た目、匂いだと感じるのに腹がすいていると感じないことだ。


「さあ、食べましょうか。」


「うまそうだな。いただきます。」

そう言って、いつもの癖で手を合わせるポーズをとる。

それを見たルシアが驚いた表情をする。


「その、いただきます?というのは食事のあいさつですか?」


「そうだが、ここら辺の人はしないのか?」


「はい、手を合わせるというのは見たことがないですね。どういう意味なんですか?」


「この食材の命をいただくという意味と、作ってくれた人に対する敬意を表すために使う言葉だよ。」


「なるほど、そういう文化があるんですね。」


そう言うと、ルシアは納得した様子で食事を取り始めた。

続いて俺も食事を取り始める。


しかし、食事を食べ進める中で違和感を感じる。

食事を美味しいと感じるのに、食べているという感覚がしないのだ。正確には胃に溜まっていく感覚がないという方が正しいかもしれない。


違和感を感じながらも食べ進めていくと、少しガラの悪い連中が声を掛けてきた。


「おい、そこのねえちゃん。そんな男よりも俺たちと一緒に酒でも飲まねえか?」


「結構です。」


創作物でありがちな展開と、それをあまりにもキッパリと断るルシアに笑いがもれそうになるのを抑える。


「おいおい、俺の誘いは断らないほうがいいぜ!近頃は物騒で近くの村が魔族に襲われたって話もあるぐらいだ。そんな弱そうな男よりも俺みたいに強い男といる方があんたのためだぞ?」


「結構です。」


あまりに冷たく言い放ったせいで、周りもしーんとしてしまった。

そして、その雰囲気に耐えられず誰かが笑いを吹き出してしまったところで、先程までヘラヘラしていた相手の態度が急変した。


「こいつ…こっちが下手に出てりゃ、生意気言いやがって!」

そういってルシアに掴みかかろうとした。


俺は咄嗟に間に入り、その手を掴んだ。


「あ?なんだ?俺とやろうっての…か…い、痛い!お、おい!離せ!」


「相手にされないからと言って手を出すのは違うんじゃないか?」

そう言って、そいつの腕を強く握る。 


「分かった!分かったから離せって!」


その言葉を聞いて、俺は手を離す。


「アニキ!!」

「てめえ、アニキに手を出してタダで済むと思ってんのか!!」


「おい、そこまでにしときな。」

店の奥から大きな声ではないが、威圧感を感じる声がした。

声のした方を向くと、一瞬魔族と疑うくらいの巨体の男がいた。

「俺の店でトラブルを起こすやつは客だろうが、容赦しねえぞ。」


それを聞いたチンピラは、

「わ、悪かったよ!お前ら行くぞ!」


「え、でも、アニキ!!」


「うるせえ!行くぞ!」


そう言って店を出ていった。


そして、店主がこちらへ近付いてきた。

あー、これは俺も怒られるやつかなと内心ドキドキしていると、


「相変わらずだな。親父に似て、肝が据わってやがる。」


「エドワード!お久しぶりです!」


「お前もなかなかイカしてたぞ。」


「あ、どうも。」


「ルシア、今日はルーカスと一緒じゃねえのか?」


「それが…」


ルシアは、この店の店主であり、ルシアのお父さんとも知り合いであるエドワードにこれまでの事情を話した。


「村が襲われたっていう噂は流れてきてたが、お前らの村だったのか…」

「だが、ルーカスはこんなところでくたばるような男じゃねえよ。また何か情報があれば教えてやる。」


「ありがとうございます…」


「ところで、こいつは誰だ?お前のボーイフレンドか?」


しんみりした空気を嫌ったのか、さっきまでの神妙な面持ちとはうってかわって、こちらをニヤニヤしながら見てくる。


「ち、違います!ゼンさんとはそんなんじゃないです!」


「ガッハッハッハ!!冗談だよ!何をそんなに焦ってんだ!」


上手くだしにされた気がするが、雰囲気も明るくなったし、よしとしよう。


「ゼンって言ったか?こいつは親父に似てしっかり者に見えるが、意外と抜けてるところがあるんだ。支えてやってくれ。」


「善処します。」


「ゼンが善処…ガッハッハ!!面白えこと言うじゃねえか!」


どうやら親父ギャグは世界共通らしい。


そんな他愛のない話をしていると、店の外が騒がしくなってきた。


「あん?何の騒ぎだ?祭りでもあるまいし…」


そして、扉が勢いよく開かれ、客が入ってきた。


「魔族だ!早く逃げろ!」

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