プランB
「ルシア!」
「え?ゼンさん!?どうしてここに!?」
俺がここにいることに心底驚いた表情をしている。
「その話は後にしよう。俺に何か手伝えることはないか?」
ルシアは、えーっと、えーっと、どうしよう…とオロオロしながらも、
「まずは結界を何とかしないと!魔族の侵入が止まりません!」
「結界を元に戻すにはどうすればいい?」
「村の中央にある結界の台座に魔法石をはめて結界魔法を発動すれば、元に戻るはずです!」
「魔法石は持っているのか?」
「はい!これが魔法石です!」
そう言って、拳ほどの大きさの赤く光る宝石のようなものを取り出した。
「よし、それじゃ後は台座にはめるだけだな。」
「ただ村の入口はあの門か裏の門だけなんです…目の前の門は魔族がいて近づけないし、裏まで走っていく時間もない…」
「…俺に掴まれ。絶対に離すなよ。」
「え?離すなって何が?…って、うわぁぁぁー!!!」
俺はルシアを担ぐと、思い切り助走をつけ、全力でジャンプした。
思った通り、この世界に来てから得た謎のスーパーパワーのおかげで、とんでもなく長い距離を跳躍できている。もはや、跳躍なのか飛行しているのか分からないレベルである。
とんでもない悲鳴を上げているルシアの声は無視しつつ、下を見ると魔族が少しずつ村へ侵入している様子が見えた。
しかし、村人の姿はなく、あらかた避難が完了しているようだ。
そして、そろそろ着地だと思った頃に、ふと疑問が浮かんだ。
「あれ、俺、これちゃんと着地出来るよね…?」
一抹の不安を覚えつつも覚悟を決め、両足に力を込める。
そして、物凄い音と地響きを立てて、何とか着地をすることに成功した。
「よし、着いたぞ。」
「ふぇ?わ、ワタシマダイキテマスカ?」
変に片言になりながら、ルシアが自分の生存確認をしている。
「急げ、早く台座に魔法石を入れるんだ。」
「は、はい!…え!?どうして…」
「どうした?」
「台座が…壊れてる…」
絶望した顔でこちらを見るルシア。
「そんな…この台座は代々私のご先祖様が守り抜いてきた台座なんです…そんな簡単に壊れるものじゃないのに…」
「つまり、今、結界を元に戻すのは無理ってことだな?」
「は、はい。今すぐには不可能かと…」
「逃げるぞ。」
「…え?どこに?」
「どこでもいい。とにかく安全なところに逃げるんだ。」
そこからはとにかく必死だった。
ひたすら、来た方向とは逆方向に走った。
不思議なことに魔族たちは、そこまで追い立ててくる様子ではなく、逃げることは容易だった。
人を襲うことが目的ではなく、まるでこの村に入ること自体が目的だったかのような動きだ。
逃げる途中にルシアの家にも行ってみたが家族の姿はなかった。
既に避難した後なのだろうか。
くまなく探している時間もないため、そう願うほかない。
そして、結局村から出るまで誰にも会うことはなかった。まるで、この村には初めから誰一人としていなかったかのようで、不気味さを感じた。
「きっと、みんな逃げることができたんだと思います!」
うんうん、そうに決まってる!と敢えて明るく振る舞っている。
笑顔を見せてはいるが、不安なのだろう。
その不安な気持ちに気付いてしまうと、最悪な事態を想定をしてしまい、不安と恐怖で前へ進めなくなるから考えないようにしているのだ。
だから、俺もそこには触れない。
大丈夫だと慰めるだけが優しさではない。
気付かないふりをするのも優しさだと俺は思う。
「そうだな。俺たちも安全な場所まで行こう。この辺りだと、どこに避難すればいい?」
「うーん、この辺りだと東の方に町があります。もし、村のみんなが避難するとすればそこの可能性が高いです。」
「よし、目的地も決まったし、とりあえず、ここから離れるぞ。」
そして、しばらく移動をし、何とか目的の町が見えてきたが、さすがに少し疲れてきた。
「ゼンさん、顔色がよくありませんが大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない。それよりルシアの方こそ平気か?」
「私ですか?私は全然大丈夫です。魔法の修行で三日三晩寝なかったこともあるので!」
ルシアは、えっへん!という効果音がつきそうな自信満々の表情で答えた。
そうこうしている内に、町の門まで辿り着いた。
村の門と形は似ているが、一回り大きい。
身元がはっきりしない俺が入れるか心配だったが、難なく通過できた。
近くの村が襲撃されたという知らせはまだ届いていないのだろうか。
「前に父と泊まったことがある宿があるので、そこに行きましょう。」
宿はファンタジー物で出てきそうな宿だった。
一階が受付兼食堂のような広間になっており、二階が宿泊部屋になっているようだ。
さすがに一緒に部屋で寝るわけにはいかないので、部屋を二部屋とってもらった。
この世界の通貨は持ち合わせていないので、宿の代金はもちろんルシアに払ってもらった。
いつか必ず返す、と心に決めてベッドに入る。
一日のことを思い返すが、衝撃的すぎて考えがまとまらない。
いったいここはどこなんだ。
そんなことを考えながら、俺は夢の世界へと旅立った。




