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ハリス公爵のプロポーズ  作者: 玖遠
1. 「発覚」の春 〜Side:王太子妃〜
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巣蜜は犬も食わない

「……面白いって。よくそんな軽口が叩けるわね」

「軽口が叩ける状況ですからね。そんなに深刻なすれ違いではないですし」


リザベラの咎めるような視線を、ウォルトは意に介す様子もなく受け流す。彼の視線はすでに手元に戻り、書類作業を続けている。


「黒百合様のせいで、ここ最近は四六時中気が張り詰めているんです。そんなピリピリした日々のなかで、いい歳した男女がもだもだしてるのを眺めて楽しむくらいの娯楽は許してほしいものです」

「私は二人を心配してあなたに相談をしにきたのよ」


リザベラは口を尖らせた。

非難混じりの声に、ウォルトは顔を上げてリザベラと視線を合わせる。彼の顔には、「意外だ」という表情が浮かんでいた。


「リザベラ様は、お優しいですね」

「何よ、嫌味?」

「いいえ、そんなつもりは。僕もアーノルド殿下も面白がるだけだったので、リザベラ様の反応が少し新鮮だっただけです。そこまで深刻な状況ではないので、心配しなくても大丈夫ですよ」


唐突に夫の名前が出てきて、リザベラは双眸をぱちぱちと瞬かせた。


「え、なに。アーノルドも気付いていたって言うの」

「そうですね、結構前から。閣下は姉上にやたらと贈り物を見繕うし無意識に惚気ることも多い割に姉上のことを『良き友人だ』と表現することに、殿下は違和感を覚えられたみたいで」

「ふーん、『良き友人』ねー……」


リザベラは、数日前の弟の会話を思い出す。

マカロンのお礼とシャーロットが喜んでいたことを伝えると、クリストファーは嬉しそうに相好を崩して『それは良かった』と笑っていた。


アーノルドとクリストファーは、王太子と側近の宰相という関係だが、学園時代からの友人でもある。

夫婦関係について雑談をすることもあるだろうし、そのときのクリストファーはきっと、数日前のように顔を綻ばせていたことだろう。そんな彼から『良き友人』という言葉が出てくるのは、確かに違和感だ。


「これは姉上と閣下の両方から聞いたんですけど、結婚した日の夜、『政略結婚だけど友好的な関係を築いていこう』という会話をしたらしくて。それでもって、あの二人ってどちらも善人じゃないですか。だから、当然のように相手を喜ばせるための気遣いとか贈り物をするし、受け取った善意には真摯に応える。そしてお互い、相手がそういう人柄だと知っている。そういうわけで、閣下の愛情表現も姉上には『気遣い』として伝わっているみたいなんですよね」


それは、リザベラの見解と同じだった。


「シャーロットちゃんとのお茶会、毎月クリスが、シャーロットちゃん好みのお茶菓子を用意しているんだけど……それをシャーロットちゃんに伝えたら、少しはクリスの気持ちが伝わるかしら?」

「伝えたとて、じゃないですか?」ウォルトは首をひねった。


「『義姉であるリザベラ様との関係を慮ってくださるなんて、なんて優しいお方なのだろう』って思われておしまいだと思いますよ」


シャーロットのその反応は、リザベラにも容易に想像できた。

リザベラは、思わず嘆く。


「瞳の色を模した宝石を贈って、お菓子を喜んでくれただけであんなに嬉しそうに笑って……それなのに、愛情には気付いてもらえずお友達のままだなんて。我が弟ながら、不憫だわ。シャーロットちゃんが気付いてくれれば、二人ともすぐに幸せになれるのに!」

「不憫……ですかねぇ……」


リザベラとは温度差がある様子のウォルトは、天井を見上げて思案顔を浮かべた。


「閣下が姉上からの愛情を求めていたら、おそらく今の状況は不憫でしょうけど……ご自分の恋心もまだ自覚されていないようですし、姉上を喜ばせることでただただ満たされているご様子ですよ」


リザベラは、巣蜜を丸ごと頬張ったときのような表情をしてウォルトを見上げた。


「え、あの子、あの感じで自覚ないの?」

「そうですよ。だから、殿下も僕も面白がっているんです」

「……あれだけ溺愛してて、自分の気持ちに気付いてないなんてある?」


リザベラの脳内には、数日前に見た弟の嬉しそうな相貌と、灰色の宝石を耳元に揺らしてマカロンを頬張る義妹の笑顔が思い浮かぶ。


ウォルトは、遠い目をして執務室のドアを見つめた。


「微笑ましいですよね。僕の姉も大概ですが、権謀術数はびこる貴族社会に揉まれて生きてきたとは思えないくらい純真で」

「シャーロットちゃんもねー……あれだけ溺愛されてて、気付かないなんてある?」

「……あるから、いまこんな状態になってるんですよ」


ウォルトは手元の書類をひとつにまとめて執務机の脇に置いた。作業に一区切りついたらしい。


「まぁ、拗れそうになったら僕が二人に横槍入れればすぐに解決する話ですし、リザベラ様もそんな深刻に捉えないで、僕と殿下と一緒に、二人のことを見守りましょうよ」

「……そうね」


にっこりと笑うウォルトに、毒気を抜かれた心地がしてリザベラはソファに沈み込んだ。

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