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ハリス公爵のプロポーズ  作者: 玖遠
1. 「発覚」の春 〜Side:王太子妃〜
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王太子妃と公爵夫人

王太子妃のリザベラは、ハリス公爵家の出身である。

1年前に弟が結婚して、可愛い義妹ができて毎日が楽しい。


今日は月に1回開催しているお茶会の日だ。王宮に義妹を招き、王太子妃と公爵夫人としてではなく、義姉と義妹として世間話に花を咲かす。笑顔を張り付けながら御令嬢や家臣たちと腹の探り合いをする日々を送るなかで、リザベラにとってこのお茶会は肩の力を抜くことのできる、貴重な憩いの時間だった。


リザベラはずっと、妹がほしいと思っていた。


小さいころは弟に女の子の格好をさせておままごとのようなお茶会をしていたが、とてもうんざりした顔をする弟を相手にするのはつまらなくなってしまい、父親にたしなめられたこともあって控えるようになった。その代わり、いつか弟にお嫁さまができたら、絶対その子を可愛がるのだと心に決めていたのだ——その数年後、兄が結婚したタイミングで「お嫁さま」が自分より年下とは限らないと気づいたのだが。


兄嫁は兄よりも数個年上で、我儘で自分本位で思いやりがあるとは決して言えない女性で、率直にいうと仲良くなれないタイプだった。まさか、あれほどの迷惑を被られるとは思わなかったが。王家からの「お願い」がなければ、兄もあんな女性は選ばなかっただろう。


「王弟殿下の野心」については、リザベラも把握している。

王太子妃教育の一環で説明されたし、そもそもリザベラ自身の婚約が、王家と筆頭公爵家の結びつきを強めて国王派の勢力を盤石にするための政略的なものだった。


貴族の結婚とは、そういうものだ。政治的な側面が強く、自分たちで好きな婚約者を選ぶことも難しい。とはいえ、弟の花嫁は年下の仲良くなれそうな令嬢だと嬉しいな、とは心の片隅で思っていた。


そういう意味で、リザベラは弟の結婚をとても歓迎している。結婚に至る経緯を考えるとはらわたが煮えくり返るほど腹立たしいが、可愛い義妹ができたこともまた事実なのである。




厳しい冬も終わり屋外でも過ごしやすくなったので、今回のお茶会は庭園に据えられたガゼボで実施することにした。


椅子に座り、義妹を待ちながら庭園を眺める。

リザベラから向かって左側の花壇には、ネモフィラとアネモネが交互にならび、そよ風に花弁を揺らしている。鮮やかなブルーのネモフィラと、中心に向かって淡く色づくアネモネの対比がとても美しい。

反対側の花壇では、規則正しく並んだチューリップがつぼみを膨らませている。あと一月もすれば、色とりどりの花を咲かせることだろう。来月のお茶会もこの場所がいいかもしれないと、リザベラは今から考えを巡らせた。


ちょうど時間になったころ、義妹のシャーロット・ハリスが、メイドに案内されて姿を現した。彼女の後ろには、彼女の専属メイドと護衛騎士が控えている——エミリーとアントンだ。リザベラが王太子妃になる前から、ハリス家に仕えている二人だ。エミリーは、シャーロットからの手土産が入ったバスケットをリザベラのメイドに渡した。


シャーロットはガゼボの手前で立ち止まり、カーテシーをする。


「リザベラ様、ご機嫌麗しゅう。本日もお招きくださり、ありがとうございます」

「シャーロットちゃん、今日も来てくれてありがとう。さぁ、こちらに座ってくださいな」


挨拶を交わし、シャーロットは席につく。

メイドや護衛騎士は、ガゼボから少し離れたところに控えている。


可愛い義妹は亜麻色の髪をリボンでハーフアップにし、耳元にはグレーダイヤモンドをワンポイントにあしらったイヤリングをつけていた。そういえば、ハリス家にいたころから懇意にしている商会の会長が、最近クリストファーのためにグレーの宝石を買い集めていると言っていた。グレーの宝石はもともとあまり需要がなく、上位貴族が身に付けても差し障りない高品質なものとなると、なかなか入手するのが困難らしい。


絹のクロスがかけられたテーブルにはティーセットとお茶菓子が並んでいる。リザベラが用意したのはマカロンだ。弟のクリストファーが贈ってきたもので、つるんとした表面が愛らしい。挟まれたクリームの側面にはアラザンが散りばめられ、宝石箱のような華やかさを放っていた。『シャーロットちゃんは最近、王立劇場で公開されたばかりの演劇が気になっているみたい』と前回のお茶会で仕入れた情報を教えてあげたら、そのお礼にもらったのだ。


シャーロットが最近気になっているものや好みのものをお茶会で聞き出して、それを弟に教えてあげると、お茶会の開催に合わせてお茶菓子が贈られてくる。弟はからかわれると嫌がるだろうが、この永久機関は大変微笑ましい。

たしか、半年ほど前にお節介でシャーロットの好きなものを教えてあげたら「お礼をする」と言われたので、「それじゃあシャーロットちゃんと食べるからケーキがいい」と答えたのがはじまりだったか。


シャーロットは、テーブルの上に並ぶマカロンを見て「あ」と目を輝かせた。


「シュガー・シェフのマカロンですね。最近王都にできたばかりのお店らしくて、エミリーがおつかいで街に出たときに見つけて、すごく人が並んでいたみたいなんです。それからずっと気になっていて……さすがはリザベラ様、お菓子選び一つをとっても、流行の最先端にいらっしゃいますわね」


情報収集能力の高いあなたの旦那様のおかげよ、と思ったが、リザベラはにっこり笑うにとどめた。それを言うのは野暮である。

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