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ハリス公爵のプロポーズ  作者: 玖遠
2. 「静観」の夏 〜Side:公爵家秘書官〜
10/17

姉とアサガオ

2023/06/12:ウォルトとクリストファーのやりとりを少しだけ改変しました。

翌朝、身支度を整えてロビーに出ると姉のシャーロットと鉢合わせた。

シャーロットは外出用のドレスに身を包み、長い髪をアップにしてパールの髪飾りを纏っている。


「姉上、おはようございます。今日はお出かけの予定ですか?」

「あ。ウォルトおはよう」


シャーロットは、弟のウォルトですら感嘆するほど上品に微笑んだ。


「そうなの。王宮のお庭にあるグリーンカーテンが東洋のお花でできているらしいのだけど、朝方に花が咲くから一緒にお散歩しましょうとリザベラ様に誘われて」

「あぁ……あの、東側にある噴水の近くの。たしかにあそこは、午前中が一番綺麗ですね」


ウォルトの脳裏に、丸くて大きな1枚の花弁を持つ青い花が思い浮かんだ。

書類を運ぶときにたまにその近くを通るが、たしかに日も高くなると花弁はほとんど萎んでしまっている。


それにしてもリザベラ様は、随分と姉のことを気に入っているようだ。

姉は公爵夫人にふさわしい気品と教養は持っているし、ジョセフィーヌ・ダドリーのような強欲さがあるわけでもない。もともと妹が欲しかったらしいリザベラ様にとっては、理想の弟嫁なのだろう。


「ウォルトがそう言うなら、ますます楽しみになってきたわ。あ、馬車の用意ができたみたい。それじゃあウォルト、お仕事がんばってね」

「お気をつけて」


王太子妃の暮らすエリアと、宰相の執務室は離れている。

普通に過ごしていたら、すれ違うことは滅多にないだろう。


(……もしかするとリザベラ様が、姉上を連れて宰相室にやってくるのかもしれない)

あれからリザベラ様は、閣下と姉上の仲をなんとか進展できないかとさりげないお節介を焼くことが少なくない。

おそらく来るとしたらお昼時だろう。その時間帯にキリ良く仕事が終わるよう計らっておこうか。


「ウォルト様、我々も失礼いたします」

「お二人も、お気をつけて」


シャーロットの専属メイドであるエミリーと護衛騎士のアントンが、ウォルトに一礼をする。

ウォルトが片手を上げて二人を見送ると、彼らはシャーロットの後を追って屋敷を出ていった。


クリストファーとウォルトはいつも、一緒の馬車に乗って王宮へ参向する。

主人を待たせないようウォルトはいつも早めに準備を済ませているので、クリストファーがやってくるのはもう少し後になるだろう。



◇ ◇ ◇



王宮に到着し、馬車から降りて執務室へ向かう道すがら、遠目にシャーロットの言っていたグリーンカーテンが目に入った。人がいる様子はない。今頃はまだ、室内で談笑をしているのかもしれない。


同じものを視界に入れたらしいクリストファーが、ウォルトに話しかける。


「そういえば朝食のときにシャーロットが、アサガオを見に行くと言っていたな」

「そうらしいですね。僕も朝、王宮へ向かう前の姉上と会いました」

「1週間ぶりに姉さんに会えると嬉しそうだったな」


クリストファーは、少しだけ遠い目をして言った。

苦労人気質のこの上司はリザベラに振り回されることが多く、彼女について語るときは無意識にこの表情を浮かべることが多い。


クリストファーは晴天の空に見上げて、眩しそうに目を細めた。


「今日は日差しも強いし、ここは北部よりも暑いから体調を崩してしまわないと良いのだが。このあいだプレゼントしたサマードレスは着てくれているかな。あれは、今日みたいな日にはきっとうってつけだ」

「大丈夫でしょう。エミリーもついていますし、まだ涼しい時間帯ですし、姉上はそこまでやわじゃないですよ。サマードレスは……どうでしたかね。今朝会いましたが、あいにく覚えていません」


そのサマードレスは、ウォルトも色選びでアドバイスをしたので知っている。涼しげな淡い青色で、社交パーティーというよりは街へお出かけするのに適したデザインのものだ。


「ウォルトくんでも、覚えていないことがあるんだね」

「覚えようとしていませんからね」


ウォルトの正直な返事に、クリストファーは「はは」と快活に笑った。


「確かに私も、姉さんの服装をいちいち覚えようとはしないな。姉弟というのはどこも似たようなものなのかもしれない」

「……そうですね」


これまで何度かクリストファーとリザベラのやりとりを見てきたが、ウォルトの姉はリザベラほどわがままではない。

ウォルトは「あなたほど気苦労は多くないですけどね」と思ったが、言葉を飲み込んだ。


——クリストファーと一緒にいると自分も振り回されるのだと思い知ったのは、その半刻後のことである。




「クリス、暇かしら? シャーロットちゃんとグリーンカーテンへ涼みに行きましょう!」


突然執務室のドアが開いたかと思うと、意気揚々とリザベラが現れた。

リザベラの後ろで、シャーロットが申し訳なさそうな顔をしてこちらを覗いている。


ウォルトはドアを振り返ってリザベラの姿に気づいて、思わず「うわ」と声が漏れた。

クリストファーも同様にドアに目を向けて、眉間に深いしわが刻まれる。

しかしその直後、後ろにいるシャーロットを見つけたらしく困ったような嬉しいような微笑を浮かべた。

シャーロットは、青いサマードレスに身を包んでいた。


弟の手のひらを返すような表情の変化に目敏く気づいたリザベラが、角砂糖を口いっぱいに詰め込まれた顔をして目線でウォルトに訴えかける。

リザベラの言いたいことはわかるが、こちらを見られても困るのでウォルトはその視線を無視した。

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