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うちの大公妃は肥満専攻です  作者: ariya


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77 祝賀会

 皇太子誕生を祝うパーティーにて、貴族たちは列を為しお祝いの品を持参し皇帝夫妻と皇太子に祝辞を述べていた。

 ルドヴィカ、ジャンルイジ大公は比較的早い順番であり、到着したと同時に前の列へと案内された。

 ジャンルイジ大公のエスコートで登場したルドヴィカを人々はじろじろと視線を向けた。

 この貴族たちの中で鼠色の髪をした者はルドヴィカ以外にはいない。

 珍し気に眺め、嘲笑しようとする者もいた。同時にルドヴィカが身に着けるドレスと装飾品に目を奪われる夫人もいた。


 帝都にはないタイプのデザインで、素材も遠目からでもわかる程の艶やかな一級品であった。

 ワインレッドをベースにし、黒のレースと薔薇の刺繍が見事であった。

 鼠色の髪は編み込み結い上げられ、薔薇の髪飾りにより彩られた。

 忌み嫌われた鼠色の髪がドレスと髪飾りの色合いによくマッチしており、華やかに見える。

 あれは誰がデザインしたものだと羨望のまなざしが感じられた。


 ジャンルイジ大公が色々と注文し完成されたデザインであった。

 正直、自分よりもセンスがあって驚きである。そういえば、薔薇の髪飾りは彼が特注で作らせたものだったと思い出した。

 ルドヴィカはエスコートするジャンルイジ大公に改めてお礼を言った。


「ありがとうございます」

「何がだ?」

「ジジの選んだドレスと装飾品のおかげで私は見栄えがよくなったようです」

「お前は元々綺麗なんだから堂々とすればいい」


 何という褒め言葉を言うようになったのだろうか。

 あの初心なジジはどこへやら。


 視線を合わせないのはまだ恥ずかしさを感じているからだとわかり安心した。


「ジジの衣装も素敵です。似合っていますよ」


 ルドヴィカはこそっと褒め返した。

 ジャンルイジ大公の正装姿はルドヴィカと合わせたワインレッドをポイントにしている。ワインレッドはアンジェロ大公家のカラーであった。

 センスがなければ悪目立ちしやすい色であるが、ジャンルイジ大公のおかげでそんなことは微塵も感じない華やかでいて癖の強さを感じないものとなっていた。


 案内された列の中へとルドヴィカたちは通される。

 ふたつ前の方にルドヴィカの父母の姿があった。

 母親がちらりと後ろを見やるが、眉をひそめてふいっと前へ向いた。

 今まではあんなにちくりと痛んでいたが、今はそんなもの感じられない。

 ジャンルイジ大公がルドヴィカの傍にいてくれるおかげである。

 そういえば、こういった祝いの場ではルドヴィカはいつも孤立していた。エスコートすべき当時の婚約者は忙しさを理由にルドヴィカを一人で登場させるのを強いた。

 そして周りからの痛い視線と屈辱、それでもルドヴィカは未来の皇后として曇った表情を出さないように虚勢を張っていた。それがかえって可愛げがなく、怒っているように見え、評判はかえってよくなかったように思える。


 自分の順番に近づくところでルドヴィカは皇帝夫妻、皇太子をみやった。

 あれから数年経ち、随分と大人びた姿の二人がいた。

 アリアンヌは二人の子供を出産したが、それを感じさせない程の色気を放っていた。体型も維持できており、華やかで愛くるしい笑顔は人々を魅了した。

 出産て結構たいへんだと思うけど。

 ルドヴィカは内心感心した。彼女のことで色々あったが、彼女なりに努力しているのだろう。

 アリアンヌが大事に抱えているのは生まれて数か月の皇太子であった。

 今はすやすやと眠りについていて大人しい。

 ぱっと見た感じ微笑ましい皇帝一家である。

 そういえば、もう一人アリアンヌは子を出産していたはずだ。一人足りない。

 確か5年前に生まれたカプリアナ皇女がいたはずだ。

 生まれた時から虚弱体質と聞いていた為、参加できていないのかもしれない。


「ようこそ、いらっしゃいました。お姉様! ……大公殿下も」


 ルドヴィカの順番になったときに明るいアリアンヌの声が響いた。そして一瞬でルドヴィカの隣にいる男を見やった。


 ジジ、大丈夫かしら。


 ルドヴィカは隣のジャンルイジ大公のことを案じた。彼の表情を確認したいが、今皇帝夫妻から顔を逸らせば失礼にあたる。

 二人で礼をし、祝辞を述べる。そしてお祝いの品を披露した。

 アンジェロ大公領で採れる宝石、ピジョンブラッドである。

 かなりの大粒の品で、帝都でもなかなか手に入るのは苦労するであろう。

 そして、別の箱には皇帝夫妻を祝い、紳士用、婦人用の装飾品が入っていた。婦人用のは首飾りであった。ピジョンブラッドが使用されてある。


「アンジェロ大公夫妻、遠路はるばるご苦労であった」


 カリスト皇帝は定型的な礼をして、下がらせた。少しばかり苛立っている様子であった。

 忌み嫌っていたルドヴィカを目の前にしているからか。

 それとも陥れたくてたまらないアンジェロ大公が平然と出席しているからか。


 ジャンルイジ大公の望みとしては皇帝家とこのまま対立するのは避けたいところだが、今の様子では厳しいかもしれない。

 会場に響いたゆるやかな荘厳とした音楽からリズミカルなものへと変わる。

 まだ皇太子への祝辞の列は続いているが、メインになる貴族と異国の賓客の挨拶が終わりダンスが始まったのだ。

 一度、祝辞の列は中断され、皇帝夫妻が中央へと移動する。

 今更ながら二人の衣装はかなり豪華なものであった。

 内心ルドヴィカは自分の衣装が豪華すぎるのではないかと心配であった。

 主役一家より目立つのではと。

 二人の姿をみて杞憂と感じた。


 光に照らされて光その衣装には小さなダイヤモンドがふんだんちりばめられていた。その上で、金の帯など至るものが贅を凝らしていた。

 アリアンヌが頭につけているのは新調した黄金のティアラである。それにはピンクダイヤモンドが綺麗に輝きを放っていた。


「何と美しい二人だ」


 貴族たちは皇帝夫妻を誉めそやした。

 確かにその通りである。

 二人は美しい。それは間違いなかった。

 自分があのまま皇后になれたとして、人々の称賛を集められたか自信がない。

 結婚しても皇帝のルドヴィカを蔑む感情は変わることはなかっただろう。

 みじめな皇后として後世まで語り継がれたに違いない。


 しんみりとした気分になっていた間に曲目が終わっていた。

 皇帝夫妻は感謝の言葉を述べて、先ほどの祝辞の列へ戻っていた。

 新しい曲が流れていく。

 周りの貴族たちはダンスに参加するため中央へと進んでいった。


「ルカ」


 ジャンルイジ大公が声をかけて、ルドヴィカに手を差し伸べる。


「私と一緒に踊って欲しい」

「え」

「え、とはなんだ」


 折角の誘いをくじかれたとジャンルイジ大公は一瞬くちびるを尖らせた。


「いえ、私……ダンス下手ですよ」


 正直言えば、あまり踊った経験がなかった。


「それでもいい。さすがに大公夫妻が一曲も踊らないのは変に思われるだろう」

「足を踏んじゃうかもしれません」


 それこそ大公夫妻の恥になるのではないか。


「私はよけるのがうまいから問題ない」


 ルドヴィカはくすりと笑った。


「後で文句は受け付けませんよ」


 二人はダンスの輪へと入っていく。お互いを見合わせて、ルドヴィカは手をジャンルイジ大公の肩へと回し、ジャンルイジ大公はルドヴィカの背中を支えるように手を回した。

 ダンスのリズムに合わせて、足を動かす。

 あまり良い思い出がないパーティー会場で、ルドヴィカは少しだけ気分が晴れやかになった。

 ダンスがこれほど楽しいとは思わなかった。


 ジャンルイジ大公の腕前のおかげであろう。

 彼はルドヴィカをうまくリードしてくれて、踊りやすかった。

 過去に必死に学んだ足とりが自然と思い出される。


 一曲終わった後に端の方で飲み物を飲みながら休憩した。

 ルドヴィカは少し息を切らしていたが、ジャンルイジ大公は特にその様子はない。

 5年前から本当に成長したのだなと何度目かのしんみりをルドヴィカは感じた。


「随分うまいのですね」

「フランたちに鍛えられたからな」


 げっそりとした表情でジャンルイジ大公は呟いた。

 この場で別の女の名を言っているのは普通はもやつくであろうが、相手がフランチェスカなのでまぁいいやとルドヴィカは感じた。


「あいつは、途中からダンスというより格闘技になってしまって苦労した」

「見てみたいですね」

「二度とごめんだ」


 ルドヴィカはくすりと笑った。


「ジジのおかげで楽しいダンスでした」

「またしてみるか」

「いえ、もう体力が……」


 この日の為にダンスの練習をすべきだったが、執務に追われていて時間がとれなかった。


「ビアンカ公女の誕生日……パーティーを開こうと思っている」


 そういえば、そろそろビアンカ公女も13歳。デビュタントの時期であろう。

 可能であれば、帝都でデビュタントを迎えた方がいいが何が起きるかわからないので大公領で迎えさせる予定であった。


「そこでまた踊ろう」

「はい。でもビアンカ公女のエスコートをされるから彼女の次ですね」

「いや、ビアンカのエスコートは既に決まってある。だから私はお前のエスコートをする」


 ジャンルイジ大公の言葉にルドヴィカは驚いた。

 彼女のエスコートを誰がするのだろうか。公女派閥の騎士と思われるが、良い印象を持てる騎士が思い出せない。投獄された件もあったからだろうが、ジャンルイジ大公が許した相手なら良いのだろう。


「知らないのか……」


 ジャンルイジ大公はじっとルドヴィカを見つめた。


「え、何なに」

「オリンドだ」


 予想外の名にルドヴィカは驚いた。


「オリンド、でもオリンドは」


 ルドヴィカの従僕であるが、彼には継ぐ爵位もない。

 エスコートは荷が重たいのではないか。


「あいつの実家の男爵位を復活させる予定だ。詳しい話は大公領へ帰った後だ」


 帰宅まで待てない。ルドヴィカは心の底から驚いてしまった。

 いつの間に二人はそんな関係になったのだ。

 思い出せない。

 どうして言ってくれたのだ。二人とも水臭い。

 ルドヴィカは拗ねてジュースを飲みほした。

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