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うちの大公妃は肥満専攻です  作者: ariya


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72 ある女の回顧(5)

 そうして回想は終わる。


 アン、いや、ソフィアは動揺した。

 まさかルドヴィカが自分を認識していたとは思わなかった。

 いつも公爵家では疲れて生気のない目をしていて、使用人のことなど気にかけていないと思っていた。


「やっぱりというのは私だと気づいていたのですか」

「アリアンヌが大公家へ行く前にあなたのことも調べていたことがあったの」


 あの時の立ち居振る舞いから妙に期待してしまい、ルドヴィカは彼女の身辺調査をした。

 タッソ卿、父の騎士の娘であった。継母との折り合いが悪く、母親は不幸の事故でなくなった。

 このあたりが引っかかりさらに調べてみると、自分と同じ鼠色の髪であったことが判明した。

 同時に遠縁の叔母であることも知った。

 船の中でアンの話、事件後のルフィーノの話を聞いたときにすぐにソフィア・タッソの名を思い浮かべた。

 一部のことを除いて参考になればとルフィーノに情報を提供している。

 その一部がソフィアの母の自殺であった。理由はおそらくは予想がつく。


「わかった上で、私に声をかけたのですか」

「あなたが私に執着しているのであればお茶を淹れにきてくれると思ったわ」

「立場が逆転になったからといっていい気にならないでくれません!?」


 ソフィアはルドヴィカを怒鳴った。


「けほっ、ごほ!」


 反動でソフィアは苦し気にせき込んだ。ひゅーとした声が聞こえた。

 魔法を封じたチョーカーの影響である。はじめは強いめまいや不快感を伴うものであるが、繰り返し使うと血流に作用し心臓を傷めつける。

 今のはずみで心臓の負担がまし、心不全を引き起こしたようである。


「すぐにフランチェスカ嬢が来るわ。少し座って安静にしなさい」


 ルドヴィカはソフィアへ手を差し伸ばした。


「良い気にならないで!」


 ソフィアはルドヴィカの手を払いのける。


「私を嘲笑えばいいでしょう。このまま苦しみながら死ぬのを眺めておけばいいでしょう」

「苦しいのは嫌だわ」


 ルドヴィカはぽつりとつぶやいた。


「はぁはぁ、アリアンヌ嬢は苦しんで死ぬ様子をみるのを好んでいましたよ」


 ソフィアはくすっと笑った。

 池に放り込んだ死体の中にはただ殺されるだけではなく、アリアンヌの好みで苦しんで死んでいったものもいた。

 アリアンヌは幼児的な残虐性を持っており、使用人を苦しんで死ぬ様子をみて興奮を覚えていた。


「それは、聞きたくない情報だったわ」


 ルドヴィカは眉をひそめた。妹の残酷な嗜好を聞かされるとは思わなかった。

 とはいえ、耳を覆ってはならない問題である。

 何故アリアンヌはああなってしまったか理解に苦しむが、今はそんなことよりもソフィアのことを優先しなければならない。


「あなたを道連れにすればと思ったのに……ほんと、ざんねん」


 ルドヴィカが求めたアップルティーの中には毒を盛っていた。

 どうせ自分は死ぬのだし、何かをもってルドヴィカに危害を加えたいと思った。

 そこでルドヴィカの目にとまりあっさりと彼女に近づける。彼女の口につきそうなものに手をつけれる。

 そう思ってしまった。

 冷静に考えれば罠だとわかるのに、それだけ今のソフィアには余裕がなくなっていた。


「いいわよ。もう、私はたくさん人を殺したもの。これは罰ね」

「罰を勝手に決めないで」


 ルドヴィカはソフィアを叱咤した。


「あなたは生きて、事実を白日のもとにさらすのよ。あなたの手によって葬られた人たちの名誉を挽回させるの。その上で、裁判で決められた刑を受けなさい」

「どうせ死ぬのは一緒でしょ……」


 ソフィアは目を細めてルドヴィカを見つめた。

 忌々しい鼠色の髪、母と同じ綺麗な髪。

 どうして母はあんな惨めな最期だったのに、この人は堂々とできるのだろう。


 フランチェスカが部屋を訪れたときにはもう彼女の手に余る状況であった。

 どれだけ自分を痛めつけながらも魔法を行使し続けたのだろう。

 ルフィーノの魔法封じのチョーカーの負荷がどんどん大きくなっていくのに、そのはずみで彼女に与えられた突然死の呪いも発動してしまった。


 ソフィア・タッソは名前すら忘れた状態で最期を迎えるはずであった。

 ルドヴィカが彼女のことを覚えていた為、墓石には彼女の名前が刻まれることとなる。


「殿下、私の我儘を聞いてくれてありがとうございました」


 ルドヴィカは葬儀を終えた後、ジャンルイジ大公にお礼を言った。

 簡単な葬儀であった。

 それでも、一連の事件の犯人であったソフィアの葬儀としては破格なものであっただろう。


「適当に代理をたててすませてもよかったのだろう」

「いいえ、一応私の親戚のようですし」


 そういわれればジャンルイジ大公は何も言えない。

 ただ、ソフィアの墓は大公城からずっと離れた場所にするようにと指定した。人里離れた寂しい場所である。


「それで、お前の部屋に関しては本当に移動はしなくてもいいのか?」

「女主人の部屋ですよ。それとも殿下は私が隣室にいるのは嫌なのですか?」

「いや、そういうわけでは……」


 一応暗殺者が死んだ場所だし、不吉だと部屋を移りたいと思うかもしれないと思っての言葉であった。


「それよりも、またお前は私に怒られることをしたのだからそこに座れ」


 ジャンルイジ大公はパルドンが用意した椅子にルドヴィカを座らせた。


「お前はまた危険な目に遭おうとしたな」


 ジャンルイジ大公が怒っていること。それは誰にも言わずに逃亡中のアン、ソフィアを部屋へ招き入れたことだ。


「遭おうだなんて……外には騎士たちもいたし、何かあればすぐに大声出すつもりだったし。フランチェスカ嬢もすぐ来る予定だったし」

「犯罪者を自室に招くあほがどこにいる!」


 ジャンルイジ大公はがみがみとルドヴィカに説教をした。

 フランチェスカが仲裁に入る2時間、ルドヴィカは耳が痛くなるまでジャンルイジ大公の説教を聞き続ける羽目になった。

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