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うちの大公妃は肥満専攻です  作者: ariya


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51 脱引きこもり計画再挑戦

 ルルとオリンド、護衛のガヴァス卿を連れてジャンルイジ大公の部屋へと訪れた。

 既に外出の準備は済ませており、秋用に新しくしつらえた紳士服を着こんでいた。

 まだふっくらとした顔立ちであるが、随分とスマートにみえてくる。

 ルフィーノの計測ではまだ130kg程であるというが、ここまでよくこれたものだとルドヴィカは彼の頑張りを心から褒めた。あと30kg減量できれば、ついに体重計で測定可能になる。来年の春には100kg切れたらいいな。


「それでは出発しますが、大丈夫ですか?」


 ルドヴィカは本日のジャンルイジ大公の体調を確認した。


「体調は悪くない。今日は外へ出たい気分だから、早くいこう」


 それでも拳をぎゅっと握りしめていた。顔色は隠しているが、どこかで不安はぬぐい切れていないようだ。


「私は何をしましょうか?」

「車いすを押してくれ」


 いつもは騎士やパルドンがしていることである。ルドヴィカも時々車いすを押すことはあったので特に問題はないとルドヴィカはジャンルイジ大公の後ろにいるパルドンと交代した。


「じゃあ、いきますよ」


 ルドヴィカは声をかけてころころと音をたてながら車いすを押した。

 扉の方へ近づくたびに心配になりジャンルイジ大公の方へ見つめる。

 拳は変わらずだが、いつもと変わらない様子を維持していた。


(大丈夫、よね)


 はじめて扉を出た時のことを思い出す。

 かなりのパニック状態に陥っていたがまた起きないか不安になった。

 もしそうなってもまた戻ればいい。

 今日は一緒に部屋で過ごしてオリンドに摘んでもらったダリアを眺めればいいのだ。


 ルドヴィカはようやく部屋と廊下の狭間を飛び越えた。

 ほんの少し揺れますよと声をかけて、ガコっと小さく揺れると同時にジャンルイジ大公とルドヴィカは部屋を出た。


「殿下、大丈夫ですか?」


 廊下に出た後にルドヴィカはパルドンに後ろを任せて、彼の前に出た。

 彼はじっとルドヴィカを見つめて、拳を広げた。車いすの手すりに手をつけていたルドヴィカの手に触れた。

 汗がにじんでいてひやりと冷たかった。

 平静を装っても不安が強かったようだ。

 ルドヴィカはじぃっとジャンルイジ大公の顔を見つめた。彼の視線から目を離さないように。

 しばらくしてようやくジャンルイジ大公は声を出した。


「大丈夫、そうだ。お前が作ったエレベーターの方へいこう」


 その声は落ち着いており、ルドヴィカは周囲の様子を見つめた。

 みな、心配そうであるがとりあえず先へ進んでみようと頷いて見せた。


 ようやくエレベーターが使われる時がきた。

 ジャンルイジ大公の車いすについていた固定具で、エレベーターにくくりつけて騎士は1階の方へ降りて行った。


「大公妃、エレベーターの同乗は俺がします」


 エレベーターは車いすの固定の後ろ側にスペースが開いていた。体格の良い騎士が同乗するのは厳しいが、女子供であれば入れるスペースである。

 オリンドの提案にルドヴィカは首を横に振った。

 いざとなれば魔法を使えるオリンドが傍にいた方が心強いだろう。だが、エレベーターに乗った時に再度ジャンルイジ大公の手に触れた時、ルドヴィカは自分が傍にいた方がいいと思った。

 自分には大した魔力もなければ魔法も満足に使えないのだが、それでも彼の傍にいようと思った。


「大丈夫よ。オリンド、大変と思うけどいざとなったらお願いね」


 ルドヴィカはにこりと微笑み、ジャンルイジ大公の傍にいることを望んだ。

 エレベーターが動く。揺れの大きさはだいぶ改善されたと思うが、それでも不安になる揺れであった。ルドヴィカは思わず、ジャンルイジ大公の後ろから手を伸ばし彼にしがみついた。

 固定具のおかげで彼の身は安定しているので大丈夫だが、揺れに不安になり思わず出た行動だった。

 エレベーターは無事に、1階まで降りて来た。

 ルドヴィカはジャンルイジ大公に声をかけた。


「大丈夫ですか?」

「そう思うのであれば少し離れてくれ」


 彼の表情は青ざめるどころではなく、耳まで真っ赤になるほど赤くなっていた。


「ね、熱が……」


 やはり部屋へ戻った方がいいとルドヴィカは狼狽したが、それよりも前にジャンルイジ大公が理由を言い放った。


「お前が、胸を頭に押し付けたからだ」


 ようやくルドヴィカは先程の体勢のまずさに気づいた。揺れが気になり、知らずうちに押し当ててしまったようだ。

 またセクハラと思われてしまった。


 ぶふぉっと噴出される音がした。エレベーターー操縦に手をかけていたガヴァス卿が肩を震わせており、ジャンルイジ大公はぎろっと睨みつけた。

 トヴィア卿が気づき、ガヴァス卿の足に蹴りをいれてようやくガヴァス卿は普段のきりっとした表情に戻った。


 こほんとジャンルイジ大公は心を落ち着かせるように咳払いを繰り返した。

 ようやく顔の赤みが引いたところで出発をするように言う。 

 はじめての部屋からの脱出、脱引きこもり計画はとりあえず1階まで問題なく終了することができた。

 その後はスムーズに西の庭園まで進むことができた。

 パルドンが事前の調整により、通りかかる使用人たちには金髪の女性はいなかった。

 皆、ジャンルイジ大公の姿を珍しく感じながらも恭しく礼を尽くした。

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