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死体屋が死体袋を転がす。

 死体屋が死体袋を転がす。

 ニクスイ=ハカリの首が、死体袋の口からはみ出ている。


「これで最後かしらね?」


 死体屋がそう言うと、皇帝はケンシ家当主に視線を送る。

 ケンシ家当主は代貨証を取り出すと金額を書き入れずに裏書をし、死体屋に渡す。


 あの代貨証には元から金額が書き込まれていたのか、或いは……。

 俺の隣で、指揮官殿が殺気を漏らす。

 皇帝の前と言う事もあり幾分か控え目で、しかし並みの人間であれば威圧するに過分なまでの殺気。


 そんな物騒な指揮官殿に、この場の誰もが気を払わない。

 殺気を感じ取れない訳では無い。

 単に気にしていないだけだ。

 否、皇室警備兵の方々だけは若干剣呑な雰囲気を放っているか。


「ご苦労様。これでごたごたが片付いたよ」


 皇帝が、覇気の無い声でそうおっしゃられた。

 一見するとどこにでも居そうな青年だが、先の聖国との戦争では最前線で指揮を振るった御方でもある。

 肉片が飛び散る最前線で顔色一つ変えずに帝国軍を指揮した逸話は聖国内ですら有名だ。


 聖国軍曰く、真に死を恐れない男。


「それはどうも」


 そんな皇帝に対して、妙に素っ気無い態度の死体屋が一礼した。

 帝国式と封国式が混ざったみょうちきりんなその礼に、皇室警備兵が若干厳しい視線を向ける。

 死体屋はそれら全てをどこ吹く風と受け流している。

 当の本人よりも、見ているこちらの方が緊張して胃がきりきりする。


 そして、そんな過分な緊張に晒されている奇術師が視界の端で顔面を引きつらせている。


 銀芯の獣追いヤグラ。どこに居ても目立つ大男である。


「銀芯の獣追いもありがとね。後始末で手を貸してくれたみたいで」


 皇帝が気安く声を掛ける。

 事前に示し合わされていない発言だったのか、フワケ家当主が頬を引きつらせたのが見えた。


「いえ……やれる事をしたまでで」


 ニクスイ=ハカリの引き起こした大騒ぎで、帝国民の死者はいない。

 市中で破裂した二人の軍人は、緩衝区で全滅したとされていた小隊所属の者達だった。

 どちらも聖国軍との交戦が確認されていた小隊で、散らばった死体からも破裂した時には死んでいた事が確認されている。


 ニクスイ=ハカリが何故今更指揮官殿を襲撃したのかは不明だが、結局の所我々は事態の収束に寄与する事に失敗した。

 ニクスイ=ハカリを確保したのは死体屋だし、混乱する市中にて帝国民の保護の為に尽力したのは封国お抱えの奇術師である。


「あーそうそう、カワソギ家の処遇だけど、取り敢えず今のままでよろしく」


 物凄く軽い口調でそう言われたが、この決定自体は事前に伝えられていた事だ。

 我々は汚名返上の機会を逃したが、処刑からは逃れる事が出来た。

 騒動の大きさの割に死者が出なかった事が幸いしたのだろう。


 ただ、皇帝のこの発言もまた予定に無かった様で、ケンシ家当主が若干視線を泳がせていた。


「じゃあ、後はよろしく」


 皇帝がそう言って玉座から立ち上がる。

 その場に居た者達、私も指揮官殿も二等爵当主も銀芯の獣追いヤグラですら、慌てて跪く。

 例外はその後に付き従う一部の皇室警備兵。

 そして、死体屋がみょうちきりんな敬礼をしていた。


 皇帝が去って行くと、どこか弛緩した空気に満たされる。

 隣で指揮官殿が殺気を膨らませるのを感じながら、私はふとした疑問に思い至った。


 市中でニクスイ=ハカリに飛び掛かった時、私を蹴り飛ばした背負子の男。

 あれはいったいどこの誰だったのだろうか?

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