「この展開って、最近流行ってんの?」
「この展開って、最近流行ってんの?」
乾燥した頭髪をがしがしと掻き乱しながら、私は呟いた。
足元には死体袋に収められた死体が二つ。
この二つの死体は、元はアシワライ家の当主とその夫人だった。
そして壁際にも七つの死体袋。
この七つの死体は、アシワライ家の血族と一部の関係者。
それにしたって、爵位等と言う死体に続かない肩書きに拘って、何の意味があるのだろうか?
「流行っていると申しますと、悪役令嬢の事ですかな?」
声がした方に視線を向ける。
音も気配も無く佇むのはフワケ家の人間。
フワケ家の中でもそこそこの地位と役職を持っているらしいが、詳しくは知らないし興味も無い。
しばらくは死体にならなさそうな男だから。
「そうそう。ウデキシミ家ニクスイ家に続いてアシワライ家もでしょ? まーた脚本とか戯曲とか増えるんじゃない?」
最近は娯楽小説が多く書かれている様ですなと流行の最先端を教えてくれるフワケ家の男に、文才があればそっち方面でも儲けられるのになと嘯いてみる。
そうは言ってみるものの、空想から死体が生まれて来る事は無いのだからやっぱりそこまで興味が湧かない。
まあ、帝国貴族同士が潰し合って死体が増えるのは良い事だけど。
……そうでもないか。
貴族家の死体の外側は高く売れるけど、中身は取り扱いが面倒で旨味が無い。
よっこらせと掛け声を掛けながら、アシワライ家当主夫妻の死体を担ぐ。
さっさと中身を抜いて皮を薬液に浸さなければならない。
中身の使える部分は適当な薬に、外側は帝国がアシワライ家断絶の証として買い取る。
人は総じて死体になるが、その価値は生前の行いによって変わる。
アシワライ家夫妻の死体は、少なくともその外側には他に無い価値を見出された。
中身は他の血族関係者の一部といっしょくたにされて処理されるが。
不思議な話で、死体屋にとって外側はそれ程重要では無い。
しかしながら、権力者にとって中身はそれ程重要では無い。
同じ死体を扱っていると言うのに、どうしてこうも奇妙な認知の差が生まれるのか。
しかしまあ、私は公認死体屋なのだ。
封国が木槌を与え、聖国が認定し、帝国が任命した、比較的まともな死体屋なのだ。
世の習いに従うのは仕方の無い事だ。
……それでも、出来る事なら。
「生前の無い死体が欲しいわ」
私が溜息を吐きながらそう呟くと、フワケ家の男が何かを言いたそうな視線を向けて来た。




