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「成程、確かにわたくし、悪役令嬢」

「成程、確かにわたくし、悪役令嬢」

「何で片言?」


 牢に繋がれたわたくしの前で、陛下が面白そうに笑って首を傾げました。

 牢の中に入って来る事自体をおよしになる様強く言いましたのに、陛下は朗らかに笑いながらあろう事か汚れた床に座ってしまわれましたわ。

 皇室警備兵の方々は陛下のこの様な言動に慣れていらっしゃるのか、はたまた感情を表に出さない様訓練されていらっしゃるのか、眉一つ動かしませんでしたが。


「色々と追い付いていないだけですわ」


 久々の口調がむず痒いのですけれど、しかしとても心地良いですわ。

 死体屋稼業や逃亡生活も楽しかったのですけれど、わたくしの根源はどうなっても貴族の令嬢でしたのね。


 貴族社会の裏事情に比べたら、緩衝区の酷く生温い事。


「それにしても陛下もお人が悪い。先に申して下さいましたら、わたくしもっと帝国に貢献出来ましてよ?」

「ははは、悪かった悪かった。当代の四等爵は生温い輩が多くてさ。帝国の為に家を取り潰すって言ったら叛乱起こす様な無能ばかりでね」


 種明かしされてしまえば納得出来る事ですわ。

 ハラサバキ=モドリとアシワライ=ツナギに、直接他人を害する気概等ありませんでしたものねぇ。

 全ては絵空事、悪役令嬢は物語の中にしか存在し得ない架空の令嬢。

 悪役令嬢は減った国民の規模に合わせて貴族を間引きする為の道具であり、国民に与える娯楽の種でしたのね。

 普段逆らえない貴族を公然と見下せる、国民にとってとても便利な偶像ですわ。

 あら? そう言った意味ではわたくしこそ唯一本物の悪役令嬢と言えるのではなくて?

 ちょっと誇らしい気分ですわ。


「お父様もお母様も貴族としては二流の凡人でしたもの、仕方の無い事ですわ」

「ははは、そうだね。結局三等爵以下で取り潰しに同意したのはホネハギ家だけだったよ。今は名を変えて商人として帝国に貢献して貰っているよ。無等爵は元から軍属みたいなものだし、これですっきりした」


 ホネハギ家は帝国貴族の中では唯一武功以外で身を立てた家でしたわね。聖国との小競り合いが絶え無いとは言え、他の貴族が揃いも揃って戦争しか見ていない状況はわたくしも気になってはいましたわ。

 我がニクスイ家に至ってはカワソギ家ごときに良い様にやられてしまう有様でしたし。


「貴族たる者帝国の事を一番に考えなくてはなりませんものね」

「そうだねー。戦争も大事だけど、もうちょっと経済も考えてくれないと。貯め込むばかりじゃお金が腐る」


 陛下は肩を竦めてそうおっしゃると、わたくしを拘束する枷を外してしまわれました。

 鍵ではなく、曲げた針金で。

 ……これは、そう言う事でしょうか?


「まあ、こんな事しなくてももう死んだ事になっているんだけどね? でもほら、あの死体屋は知っている事だから一応ね?」


 あの死体屋……何者でしょうか? 手も足も出ませんでしたわ……。

 まるでわたくしの考えを読んでいらっしゃるかの様に全ての手立てが封じられてしまいましたわ。正直もう二度と相手にしたくありませんの。


「君の新しい名前と地位はもう準備してあるんだ」


 そうおっしゃいながら、陛下は茶目っ気たっぷりな表情でウインクをされました。

 ウデキシミ=ミナシ辺りなら黄色い声を上げて失神しそうな仕草ですけれど、わたくしはただただ気怠いだけですわ。


「わたくしは何をすればよろしくて?」


 諦観の念からわたくしがそう尋ねると、陛下の後ろに控えていた皇室警備兵の一人が前に出て来ましたわ。

 ええ、気が付いておりましたわ。見知ったと言うよりは見飽きた顔でしたもの。


「貴方がわたくしの上司になりますの? ミレン」

「改めて自己紹介しよう。私の名前はケンシ=ミレンだ」


 予想より大物でしたわね……。令嬢時代には名前もお顔も拝見した事はございませんでしたので、暗部等と呼ばれる方々でしょうか?

 私に死体屋の技術を教えて下さった師匠もきっとケンシ家の方なのでしょうね。


「それでは陛下。わたくしは帝国の為に何をすればよろしくて?」


 わたくしがそう言うと、陛下はうんうんと頷いて最初の司令を下さいました。


「あの死体屋を監視して欲しいな。あれは相当厄介だよ……思わず謁見を途中で切り上げちゃった」


 心底嫌そうな顔でそうおっしゃる陛下に、わたくしは表情を隠せている自信が御座いませんわ。

 ……陛下ぁ、それはちょっと身に余りますわ?

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