表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

帝国内でユブネと出会ってから二日経った。

 帝国内でユブネと出会ってから二日経った。

 明後日封国に向かうと言うユブネの言葉は的確だった訳だ。


「お前の心臓はいったい何で出来ているんだ?」


 帝国領を抜けた先の荒野。俺とユブネ以外の気配が無い事を何度も確認してから、俺はユブネにそう聞いた。

 ユブネは簡潔に血と肉とだけ答えたが、そう言う意味じゃ無い。

 思わずため息を吐く。


 全く、封国の依頼は何故こうも最終的な報酬と苦労が釣り合うのだろうか。

 そしてユブネは、この死体屋は今回の二重依頼でどれだけの報酬を手にしたのだろうか。


「帝国では儲かったのか?」


 単純な興味から聞いてみると、ユブネは不満を隠さない表情で唸った。


「んー……。帝国の貴族てね、中身は今一だったのよね。聖国とは違った意味で弄りまくってて、ちゃんとした死体の部分が少なくてね……最後に至っては死体じゃ無いし……」


 死ぬ前から半分位死体なのよと、最終的にユブネはそう評した。

 俺は軍人令嬢の事を思い出して、ああと納得の声を溢した。

 帝国貴族の生態なんぞ知っている者の方が稀だ。

 俺は封国から事前情報としてある程度の話は聞いていたが、実際目の当たりにすると異質としか言い様が無い。


 加工した死体を怪我の治療や欠損部位の補填に用いる事はままあるが、元より存在しない部位を埋め込むのは帝国だけが行う手法だ。

 聖国との小競り合いもそれが原因だ。聖国曰く人に許された理を逸脱するのだそうだ。

 まあ、帝国からすれば聖国が認可する薬物類の一部は人の尊厳を破壊するらしいが。


 俺から言わせればどっちもどっちだが。


「で、帝国の内情はどんなもんだったんだ? 聖国と同じ位弱体化していたのか?」


 今回、俺とユブネに齎された依頼は帝国の調査だ。

 散華の一月以降、各国の国力は大幅に減退した。だが、どの程度減退したのかは不透明だ。

 封国は聖国と帝国の国力を調べ、大陸の趨勢が大幅に変化しない様に介入したいらしい。

 封国の国力も同様に減退している今、無駄な介入を行う余力は無いと言う事だ。


「ああ、帝国ならどこよりも早く立て直したね。あの皇帝相当曲者だよ。封国の係長と同じ人種」


 ユブネが何の気負いも無い口調でそう答えた。

 俺は一瞬、その言葉の意味を理解出来なかった。

 理解が及ぶと同時にただただ驚愕だけが湧き出した。


「いや、待て。帝国も相当散った筈だぞ? 軍人も最低でも半減した筈だし、何より国民の不安がこの短期間で払拭出来る筈も無い」


 散華の一月が大陸に齎した負債は大きく分けて二つ。

 一つは人口の減少とそれに伴う生産力と消費力の低下。

 もう一つは、蔓延する不安と恐怖から来る情勢不安。


「あれのせい、悪役令嬢。と言うかね、全部あの皇帝の仕込だと思うよ? 減った国民に対して過剰な分の貴族減らして、同時に国民に娯楽を提供したのよ。処刑された家は令嬢以外も自分本位で傲慢な連中が多かったし。見所のある奴等は軍部に押し込んだみたいね。貴族って死体になると微妙だけど、軍人としては優秀みたい」


 ユブネの物言いに、しばし呆然としてしまう。

 散華の一月以降、各国の治安が悪化している一方で国家間のごたごたは沈静化する方向にあると思っていたが……。

 帝国が一早く国力を取り戻したとなると、封国は聖国に肩入れするのだろう。

 否、帝国もそれに気付いていると思った方が良い。

 俺達への不自然な謁見は封国への政治的な牽制か? 全く厄介な……。


 しかし、それはそうと――。


「悪役令嬢って何だ?」


 色々と気になるユブネの話だが、一つだけ全く意味の分からない単語について尋ねてみる。

 悪役の令嬢?

 役を降りれば悪ではなくなるのか?


「あー……? なんて言うか、うーん? 文化って説明難しいな……」


 ユブネが珍しく煮え切らない感じで、赤毛をがしがしと掻き毟った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ