第四話 囚われの 中編
まさかの三部構成
長いのでぶった切っただけと言えばそれまでです。
目が覚めると、再び知らない天井。
またかと毒づくも、周囲を見てそう言ってられない状況であることに気が付く。
両手両足が縛られ、テーブルに縛り付けられているのだ。
周囲には四体の魔物。まもなく、少年はディナーになるのだろう。
「オレガツレテキタ! ダカラ、オレカラクウ!」
「イイヤ、リーダーノオレガサキダ!」
「イツカラオマエガリーダーニナッタンダ!」
「イチバンツヨイノハオレダ!」
どうやら、誰が最初に食べるかで揉めているらしい。おかげで今も生きているのだが。
一先ずは、息を殺し、脱出のチャンスを探す。縄は固く結ばれており、このままでは解けそうにない。切断できそうなものは、奴らが手に持っている武器ぐらいか。
さらにぐるりと視界を回していると、隣のテーブルのドクロと目が合った。
なんとなく、髪や服が先程犠牲になった青年に似ているなと思ったところで、強烈な吐き気に襲われた。
「おえっ」
「「「「アア?」」」」
彼の嗚咽に奴らが反応する。
「あのぉ、食べるのもう少し待ってもらえませんかねぇ」
使い慣れない敬語で命乞いするも、
「イイヤ、オレガマズクウ!」
一体の魔物が一切聞かずに襲い掛かる。
万事休すかと思われたその時、
「アオーン!」
遠くから、大きな遠吠えが聞こえた。
間違いなく、ガルルのものだ。
「ナンダ⁉」
奴らは揃って、その声の方へと向かう。
ドタドタと大きな足音が消えて、僅かな静寂の間。心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。チャンスかもしれないが、脱出する手段がない。
どうしたものかと悩む中、拘束していた縄の圧力が緩んだ。
「あれ?」
机から降り、振り返る。
すると、机の下から黒い毛むくじゃらの物体がひょっこりと現れた。
「ん?」
そちらに近づくと、その物体は、刀身が青白く光る剣を引きずるように差し出す。
「君は、まさか!」
その毛むくじゃらの物体は、岩山で出会った、若いボスザルだった。
「そんな、どうしてここが?」
剣を受け取りながら、尋ねると、ガルルが匂いを辿って先導し、サルの群れを引き連れてきたのだそうだ。
「そうだったのか。ありがとう! 助けてくれて!」
彼から剣を受け取る。鞘はなかったが、今は構わないだろう。
自分も隣に転がる残骸にならぬよう、早くここを抜けなくてはならない。
だが、ここに魔物が数多くいる以上、下手なことをしてはすぐにまた捕まるか、その場で殺されるかの二択だ。どのみち死ぬから、どちらも終わりを意味する。
「ねぇ、群れで来たんだよね? 他のみんなは何処に行ったの?」
尋ねると、どうやらあの洞窟に捕まっていた子ザル達は、またも奴らに連れ去られたらしく、群れでこの村内を探しているようだ。
サル達の数の暴力は強い。だが、魔物達を殺せるほどかと言えば疑問が残る。間違いなく、多大な犠牲が出るだろう。
「いや、それより脱出だ。案内お願いできるか?」
「キィ!」
任せておけと、先を歩く。
彼に偵察もしてもらいながら、建物から脱出を図っていく。
拘束されていた個室から抜け、慎重な足取りで通路を進み、大広間へと出る。
恐らくここは、この村の集会所であろう。
先の遠吠えに釣られたのか、そこには誰もいなかった。
「今がチャンスだ!」
飛び出し、駆け抜ける。
あと少しで出口というところで、その足は止まった。
「アア? ナンデオマエ、ココニイル」
一体だけ、魔物が戻ってきたのだ。
奴はこん棒を振り上げ、こちらへと迫る。
躱さなくては、間違いなく死ぬ。
身構えるチャペだったが、大きく戦況が変わる。
「ナ、ナンダ⁉」
奴の身体を獣が駆け上り、顔に張り付いたのだ。
「やああああ!」
剣を振りかざし、その胴体を切り裂く。
その一撃で魔物は沈み、暫く悶え、やがて動きが止まった。
彼の咄嗟の動きに助けられ、「ありがとう!」と伝えると、こちらを一瞥しただけで、前へ進み始める。
そのクールな佇まいに、後ろをついて歩く少年の眼は輝いていた。
(かっこいい! 俺もああなりたい!)
「そうだ、君のことなんて呼んだらいいかな?」
それに対してボスザルはキョトンとした顔をする。
「じゃあ、ヤマビコってのはどう?」
ジッと止まって話を聞くボスザル。
「俺の思いに応えてくれた。だから、ヤマビコ! ダメかな?」
少しの間の後、勝手にしろと歩き出す。
「じゃあ、勝手にするさ!」
二人は。扉を開けた。
外は開けた広場になっており、魔物達が闊歩していた。その数は数十。
周囲の民家を荒らし、暴虐の限りを尽くす姿に、怒りが滲んでくる。
「キィ」
その様子を感じ取ったヤマビコが、今はそれどころではないと宥める。
「うん、わかった。この数を俺らでは対処しきれないと思う」
集会所の陰に隠れ、作戦を練る。
ヤマビコは連れ去られた仲間を探し、チャペは地下牢のメンバーを脱出させる。
「準備ができ次第、またここに集まろう」
お互いの意思の確認ができ、外の様子を伺った後、作戦開始した。
作戦開始後。まずは周囲の調査。
集会所を出て右の建物へ向かう。
背が高く、集会所と同等の大きさがありそうな建物からは、香しいものを感じる。
そっと裏口から中を覗くと、中はどうやら家畜小屋のようで、様々な動物たちが飼われていた。
壁沿いに動物の部屋が並び、中央の通路を魔物が二体、巡回している。
部屋数に対して、動物の数が少ないことを見るに、恐らく餌として食べられてしまったのだろう。また、動物たちから恐怖の声がいくつかあがっている。
裏口から見て入り口付近には、鳥小屋が置かれ、下は鶏、上は鳩の小屋があることも見えた。
「アア、ニンゲンニアキタカラヨ、ソコノトリグライナラタベテモイイヨナ?」
「バカヤロウ! ボスニミツカッタラドウスルノダ!」
「イッピキグライイイダロ?」
「オマエノセイデ、オレモクイタクナッタ!」
奴らは、鳩小屋の扉を開け、両手を突っ込み、それぞれ一羽ずつ掴み、片方へ渡す。
「ウマソウダ。ヘヘヘ」
そう言って、丸呑みにしようとする魔物。
だが、そのとき、大きな羽ばたき音と共に、小屋から数羽の鳩が飛び出す。
そして、驚く魔物達へ群がり、手を放せと攻撃する。
たとえ、力の適わぬ相手だとしても、自分が死ぬかもしれないと思っていても、立ち向かう。全ては仲間の為に。
その姿は、彼自身にも繋がるものを感じさせ、想いが身体の奥底から燃え上がる。
「うらああああ!」
裏口から飛び出し、通路を全速力で駆け抜ける。
「ヤバイ、バレ||」
驚いて動けない奴らは、手から獲物を滑り落とす。
小さな勇者は強く光る刀身を、敵の懐目掛け振りかざし、体重を乗せて切り裂く。
「ガアアアア」
切られた魔物は倒れるが、床に伏すまでに間に返しの一太刀をもう一体へ切り上げる。
断末魔を上げることもなく、もう一体も沈み、鳩の救出に成功した。
「はぁ……はぁ……。無事かい?」
鳩たちの安否を確認するが、掴まれていた二羽は弱弱しいながらも立ち上がり、羽を伸ばしていた。
「良かった……」
その様子に胸を撫でおろすが、安心するには早すぎる。
「ねぇ、ちょっと君たちの力を借りたいんだけどいいかな?」
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