五十一話 12000人の転移
ここは、イキア国とタマロ国の戦の場。ダークプラトーの戦い。
イキア国は20万、タマロはわずか5万の兵を対峙させて、今や戦いの火ぶたを切ろうとしている。
早朝の空には暗雲が立ち込め、時に稲妻が天空を駆け抜ける。
田畑であったところは、無残にも兵の足で踏まれ、ぬかるんだ大地となっていた。
そして、この先、多くの骸は容赦なく泥の中に没するのであろう。
タマロ国側は1万を先頭に、続いて1万を後ろに、そして左右に1万、その後方に1万の楔形。救援隊1000人、兵糧隊1000人で臨んだ戦いである。高らかに進軍ラッパが鳴り響いた。
後方隊の隊長も進軍の合図を送る。
そして、“ざっ”と足音がしたと同時に、後方の指揮官シンが率いる12000人だけがその場から消えた。
「ここは、どこだ?」前にいたはずの軍が見えず、うろたえる兵士たちを、副官のマサムネは茫然自失で眺めていた。先ほどまで暗雲が立ち込めた戦場ではなく、どこまでも青い空と、緑の大地、遠くには森が見え、前には大海原が広がっている。目を凝らしても敵がいない。
神崎歴5603年に指揮官シンが率いる12000人の転移があった。
8代目の魔女ジロウが統治する地へ。
そして、魔女の保護区に転移したシンたちは魔女隊の支援により、国造りを始め無事住みつくに至った。
「こんにちは。 パラレルワールド管理局のキイと申します」
魔女の家に、子供が2人訪ねてきた。
「パラレルワールド管理局のアンです」
「このたびは、ちょうどジロウ様の一助となるかと思い、12000人の魂を移す段取りができましたので、許可をいただきに参りました」
「ありがとうございます。これで魔女の星の生まれ変わりに十分の魂を用意することができます。後は6か月後の星誕祭が楽しみですね」と僕は言った。
魔女の星の生まれ変わりには、もう少し魂を増やした方がよいと、パラレルワールド管理局から助言が有った。折よくパラレルワールド管理局の管理領域に12000ほどの魂の流入を確認したところで、この魂を受け入れてくれないかと魔女の星ジロウに打診があったのだ。
「渡りに船だね。早速受け入れの準備をしよう」とジロウはサナエたちに指示をした。
「そうですね。魔女の家から西にある保護区の一部がよいかと思うのですが」
「えーと、そこは以前にも受け入れた場所なんですよ。確かササ様の時代ですね」ナズナが思い出したように言った。
後から、分かったことだが、この転移は3度目らしい。
一回目は、初代ハナの時代。2回目はササの時代。過去2回とも、元の星に帰ったそうだ。
そして2回とも、元の星の消滅は避けられなかった。
今回もそのような顛末になるのだろうか?。
しかし、同じところから3回も魂を放出するなんて、理解に苦しむ。
いずれにしても、この星には魂の供給ということで貢献してもらえたので、良しとしよう。