四十五話 魔女の星の飛躍 魂を産む星へ
突然、パラレルワールド管理局から使いが来た。
彼らの言うには、我々の魔女の星が属する宇宙は膨張する一方で、このままでは、一様に溶けて、ビッグバンの前に戻ってしまう。そこで、パラレルワールド管理局は、近々再構築することになったと。
そして、ある意味当然のことながら、魔女の星も再構築の候補に上がってきたらしい。
「こんにちは。 パラレルワールド管理局のキースです」
「お初にお目にかかります。パラレルワールド再構築係のカレンです」
「スミレです。その節はお世話になりました」
「ああ、初代魔女ハナ様のお孫さんですね」
「アウラです。よろしくお願いします」
「アウラ族の皆さんの修業は順調ですか?」カレンが聞いた。
「おかげさまで、順調です。今回の件で飛躍できるかもしれません」
ここは、魔女の家の居間。
テーブルに、パラレルワールド管理局と再構築係の2人と、魔女側にはジロウ、ナズナ、サナエ、スミレ、アウラの5人が顔を合わせている。
イリカには、ちょっと難しい話なので、外で遊んでいる。
キースが説明を始めた。
「こちらを見てください。神崎元様が住んでいた星 『地球』と、この魔女の星、そしてベータ星系に浮かぶ仮想の星(ベータ星)です。一目でお分かりと思いますが、地球は澄み切った青です。魔女の星は淡い青です。仮想の星は青く光っていません。 これは魂の数、質を現しています」
続いてカレンから。
「我々再構築係では、魂の練度で候補を絞っています。 地球が7度、魔女の星が4度、ベータ星が1度です。 そして、レベル5以下はパラレルワールドから排除することにしました。 これにより、溶融の危険性を10%以下にすることができます」
「文明が高くなると、仮想世界が構築される率が高くなります。そのシステムを維持するために宇宙の原資を食ってしまいます。現にベータ星系では、ほとんどのエネルギーがシステムの維持のために食い尽くされるまでに至っています。もちろん、資源を消費する事象は、仮想世界だけではありませんが」キースが続けた。
「それでは、この僕たちの星も構築対象になるのですか?」
キースが続ける。
「残念なことに、該当します。端的に言って魂の数が少ないせいです。排除と言っても消滅はしません。時間軸が引き伸ばされ、外から見るとスリープしている星となります。ほとんどエネルギーも使いませんので、エントロピは少しの増加に止まります。生命活動がなくなり、それを暗黒星になると言います。そして、他の星系と交わることはなく、我々、パラレルワールド管理局も関与しなくなります」
「それでは、僕たちの星は暗黒星になるということでしょうか?」
「このままだと、そういうことになります。しかし、手はあります」とキース。
カレンがナズナの方を見ながら話を進めた。
「実は、この星は、遥か昔大きな生命体だったのです。地上には高度な文化・文明が栄え、とても良い星だったのですが。ある時から小さな仮想世界が発明されたせいで、一人一人がその仮想世界に籠ってしまったのです。そして、やがて一人、二人と消滅していって、やがて誰もいなくなりました。そして、星は宇宙を彷徨い暗黒星になりました。 ところが、神崎元様が、それを手に入れたのです」
「我々は、支援することになり、そして今日に至ります。この星、すなわち生命体を復活させることによって、以前のように魂の豊富な星に生まれ変わります。そのためには、この星の魂を集め、その日を迎え祈る必要があります」
キースが言い切った。
「必要な魂は十分集まっています。あとは一つにまとまるだけです。 そして、コロネ様もサクヤ様、ハナ様も解放されます」カレンがうれしい話をしてくれた。
キースとカレンの説明を長々と聞いたが、
「なるほど。 壮大な話で今一つ理解が追いつきませんが、要するに魂で覆うと消滅の危機を乗り越えられると」と僕は一言でまとめてみた。
いやーっ! 大変な話だ。うすうす感じていたが、ここは仮想世界の延長上にあるということ。このままでは、実質的に消滅する。先人たちの苦労も吹っ飛んでしまう。これは、皆に心づもりをしてもらわねば。
僕が召喚された使命って、このことだったのだ。
「わかりました。この星の魂を一つにまとめ上げるよう努力します」
ここは、魔女の家の僕の居室。
「ジロウ様、少しお話があります」ミミが真剣な顔をして近づいてきた。
「実は、私はこの星、そのものではないかと。この前、初めてアウラさんとあった時に、『ナズナちゃん自身がこの星につながっているように思う』と私に話をしたの。今日、パラレルワールド管理局の話を聞いて、若しかして?と思いはしたけれど、自覚はないです。ジロウ様、どう思われます?」
「まあ、ナズナはナズナだし。つながっていたとしてもナズナはナズナ。僕はナズナが好きだよ!」
「えぇー」
膝にいたミミが慌てたように降りて、部屋を行ったり来たりして、
「みゃー」「みゃー」「みゃー」
「ナズナ、大丈夫か?。おいで!」