四十一話 ニカ町の人々は先祖がえりだった
ガルバ王国の魔法学園から、ペガサスで東へ1時間ほどの距離にあるニカ町にやってきた。
僕、ナズナ、スミレ、イリカ、ジンとアミンダ隊。町の近くにペガサスを着陸させた。町の門に着くと、門番の人が慌ててやってきた。
「魔女様、こちらへどうぞ」
VIP専用の出入り口があるようだ。どこからともなく、ニカ町の警備隊が我々を視ている。
「さて、宿を取ってから、見物しようか?」ジンがお父さん役?を演じる。
「ええと、ジンとガルは一部屋、アミンダ隊の女の子3人が一部屋、ジロウ様とスミレ様、ナズナ様の御三方が一部屋で、魔女隊の方に二部屋で良いかと思うのですが?」しっかり者のサチが部屋を割り振る。
「さあ、いくぞー。食うぞー!」
「もう、ガルは食うことしか頭にないの!」
「いて!」クロエがガルの頭を小突いた。
ガルを先頭に、屋台が出ている広場に向かった。食い気だけのガルはぶれない。
「やあ、おじさん。この櫛を10本くれるかな?」ジンが注文した
「あ・・。どうぞどうぞ。これは、また可愛い子を連れて。にくいね」
一方、あちこちの屋台を覘いては、食い漁るガルがいた。
「ねえ。ジロウ様。ちょっと気が付いたのですが。子供たちや大人も、やけに似ていませんか?」
「そうね。あそこに居る、5人の子。見分けがつかないほどね」
「そうじゃのう。ちと調べてみるか」
一行は、町長の家に向かった。
「たのもう!」僕は、門に向かって呼ばわった。
「どうれ! 何の用じゃ!」門番らしき偉丈夫が出てきた。
「町長に、ちと話を聞きたい。あないせい!」なぜか魔女は薄い胸を張って威張るのだ。
2メータの偉丈夫と140センチメータの女の子が、相対して睨んでいる。
「これ。この方は今代の魔女ジロウ様であらせられる。頭が高いぞ!」ジンが間に入った。
皆は、(ジロウは楽しんでいる)と、生暖かい目で見ている。
そこへ、使用人が何かの用事で門に出てきた。彼は、第3王女のサチの顔を知っており、慌てて門番を叱責した。
「すみません。此方へどうぞ」と招き入れられた。
パタパタと外の廊下を走る音がして、ドアがノックされた。
「大変失礼しました」中年の男が深々と頭を下げた
「私が、町長を仰せつかっておりますニカイと申します。 今日はどのようなご用件で?」
僕の顔を見て、赤くなったり青くなったりと、見ていて面白い。もう少し様子を見ていよう。
「私が、第3王女のサチです。右の方は今代魔女のジロウ様、錬金術師のスミレ様、サハラ王国の第5王子のジン様、ジロウ様の警護役のナズナ様、そして、私の同僚のクロエ、カノン、ガルです。今日は、少しお聞きたいことがあって寄らせていただきました。急ですみません」
「へぇ。魔女様?」呆気にとられた町長のニカイ。
「それでじゃ。この町の者たちが、やけに似ておるように思うのじゃが、なぜじゃ?」
町長のニカイは、俯いてしばらく考えてた。
(魔女様がご存じない。今代の魔女様は最近来られたので存じていない。このことは王様も知っていることなので、話しても問題になることはない)
ニカイは意を決したように顔を上げた。
「実は、我々はニカワ族の先祖がえりなのです。昔、ニカワ族が、この星へ移住する時、条件が胎生繁殖への移行だったのです。しかし、稀に分裂繁殖する個体が生まれてきたのです。そして、この町には、分裂繁殖する者が500人ほどいます。隠すことではありませんし、サクヤ王はご存知です」
「ほおぉ・・。そういうことなのか。相分かった」
(ならば、昔アリスが調剤した薬があったと思うが。必要ないかのう)僕は一人呟いた。
この世界に来る前のニカワ族は、主に沼地に生息していた球体の生物が進化して、手足を持ったとのこと。そして進化してレベル7に達した。素は全体にのっぺりとしているが、擬態する特技がある。サクヤ王の時代に、30万人が移住を希望してきた。その時の条件が分裂繁殖から胎生繁殖への移行だった。そして、このサクヤ王国の主要な人種となった。しかし、遺伝子が持つ変異のなせる業か、それとも神の気まぐれなのか、先祖がえりが、たまに発生した。それは、4000年の月日を経た今、500人になっている。
ここは、魔女の家の居間
「サナエさん、***ということがありました。アイリスの工房を探せば、またスミレが紐解けば、胎生繁殖への転換薬ができると思うのですが。僕は、このままで良いかと」
「そうですね。本来、多様な生き物が楽しめる世界が、この星の理でもありますし、このままでよろしいかと私も思います」
「ああ・・。折角アイリス母さんの工房で研究できるチャンスだったのに」冷たいジュースを飲みながらスミレが呟いた。