三十二話 世直し行脚 その1
『重い年貢を軽くしてほしい』
翌日、クルーザ2を駆って、フナイ河の上流にある、アプスト町にやってきた。町は活気づいていない。人通りも少ない。
「おじさん。串を四つと、アブルジュースを四つくれるかな?」
「あいよ! 全部で大銅貨3枚だよ」
「おい、おい、ずいぶんぼったくりだな」
「すみません。大きな声では言えませんが、7割も税に持っていかれるので、手元には材料代がやっとなんだよ」
「ほぉぉ」僕がジンの前に出た。
「う・・・。ひょっとして魔女様?」
「そうじゃ。この辺にフリージアという人はおらんかのう」
「フリージア様なら、ここをまっすぐ行って、右側に「めぐみの館」という看板があります。そこの館長です」
300メータぐらい歩くと、如何にも崩れかけた建物があって『めぐみの館』の看板がかかっていた。中から、子供たちの声が聞こえる。孤児院なのだろうか?
「ごめんくださーい」ナズナが声をかけた。
「はーい」元気な声がして、町娘が出てきた。
「フリージアさんはいますか?」
「はい、わたしです。あの・・ もしかして魔女様?」
中に入れてもらって、椅子を勧められ、テーブルに着いた。ここは、託児所だとのこと。ただ、家に帰れない子もいるとのこと。
フリージアの話と、先ほどの屋台のおっさんの話から、どうも税が高すぎることが分かった。巷では通常3割で、共有部の新設や改修に費用が掛かる場合は、4割もあるそうだ。魔女の家としては、3割を推奨しているが、強制はしていない。だが7割はひどい。
「ナズナ、ちょっと忍び込んで、調べてくれるかな?」
ナズナは、ミミになって潜入した。1時間ほど待っていると、ナズナが帰ってきた。
「町長の息子が病気で、その治療薬がかなり高くて、そのせいのようです。贅沢な様子はありません。それに、治療薬は魔女印に似ていましたが偽物ですね。怪しいですね。入所先、入手元を調べます」
急いては事を仕損じる。アブスト町に宿を取って、ゆっくりやろう。
女の子3人は同じ部屋。ジンは一人別室で、警備のホセたちにも一室、部屋を取った。スミレがウキウキ気分で、俺に引っ付いている。
翌朝は、ナズナは調査、俺とジン、スミレは町の散策に出かけた。
「お姉ちゃん。これこれ。ほしい」
露店で、アクセサリーを覗いていた、スミレがバラのようなブローチを手にしていた。
「それは、砂漠のバラと言って、ここから西に行った砂丘で見つかる、特産だよ」
「お姉ちゃん、付けて」
露店で買った串焼きや、ハンバーガもどきを食べながら、広場の椅子に座っていると、ナズナが戻ってきた。
ナズナの説明では、
1、過剰な税は、子供の治療薬の購入費に充てていた。
2、治療薬は、ボタクリ商会から購入しており、入手元はスローン王国のニセモ製作所だと。
3、町の予算で、振興財源として計上されており、監査役がOKを出していた。
町会議員は、区域の持ち回りで、保身者ばかりだった。不正を正す人がいなかった。
4、フリージアは、前町長の娘で、託児所と孤児院を運営している。
よし、フリージアを宿に呼んで、今後の対策を練ろうではないか。
1、町長の子供の容態をスミレが診る。必要ならば魔女の家で療養させる。
2、町長は解任。鉱山送りとする。当面、フリージアを暫定町長とする。魔女隊から支援要員を送る。
3、税は、3割に戻す。今までの払い過ぎは税で考慮する。
4、関係者は、罪状に応じて奉仕をさせる。
5、ボタクリ商会とニセモ製作所は取り潰し。関係者は罪状に応じて開拓村送り。
僕は、町の主要なところに、お触れを出して、魔女隊を投入した。一網打尽だ。
「お姉ちゃんは、徹底しているね。それに上には厳しく、下には優しくだね」
「この度は、ありがとうございました」フリージアが深々と頭を下げた。
この話は、瞬く間広まった。 『今代の魔女様が世直し行脚に出られた。不正は厳しく正される』と。