三十一話 サハラ王国の騒動
「夜分、恐れ入ります。 ジロウ様にお取次ぎをお願いできませんか?」サハラ王国の宰相のユーラスが、ジロウの部屋の前にやってきた。
「どのうような、ご用件ですか?」と警備(魔女隊)のファティマが問うた。
「サハラ王国で、クーデターが起きたのです。 魔女様のお知恵をお借りしたいのです」
(もしもし、ジロウ様 斯様に申しておりますが、如何いたしましょう?)
(応接室に通してちょうだい)
まだ、部屋着のままだったので、とりあえず会うことにした。
「まことに、恥ずべきことです。第1王子のユーヤンが毒を盛られて殺害されました」ユーラスが悲壮な声を絞り出した。
「そのことを、知っているのは?」
「私と側付きのメイドのみです」
「自力で解決するのが従来のルール、なぜ、我々に?」とナズナが聞き返した。
「それは、魔女様の方が、お力があるのではと思い・・・」
「こんな夜半に、失礼にもほどがあります。魔女の家は基本的に不干渉です。くれぐれもお間違えの無いように! もうお下がりください」ナズナが渋る宰相を追い返した。
ここは魔女の家の居間。
「さて、今回のサハラ王国の騒乱処理ですが、従来からのルールでは、我々は無視する方向となります。過去にも、同様のことが他の国でもありました。過度に干渉しないとする我々の姿勢は、3代魔女カレン様からの方針でもあります」
サナエが事の次第と対処について説明した。
「宰相のユーラスが正しいことを言っているとは限らない。怪しいのでは?」ジンが意見を挟んだ。
「でも、すっきりしないから調べにゆくよ」僕が腰を上げた。
「そうですね。それも良いかも。 新しい魔女さんの考えですもんね」サナエが不満そうにうなづいた。
早速、メンバーは、僕とジン、ナズナ、スミレの4人構成。
大男のお父さんが、3人の幼い娘を連れているという絵面だ。僕は『男の娘』なんだけどね。ジンと僕は顔が知れているので、仮面を用意した。どこから見ても、普通の騎士と町の小娘に見えるようにした。ぼくら、魔女は瞳が赤いので、こちらもナズナとスミレには茶色のコンタクトを入れてもらった。
「さて、サハラ王国の 王都の門に着いたよ」
門では、ものものしい警戒状況にあるようで、入ろうとする人でごった返していた。どうも、この行列では3日後ぐらいになりそうだと、ナズナが情報を集めてきた。
この事件は、第2王子が王になりたくて、仕組んだものと判明。
「よし、不可視結界を張って、あそこからすり抜けて行こう」
大通りに出ると、変わらない光景が見えるが、やたら兵らしき者が多い。串焼き屋のおっさんに、串を10本注文してから、情報収集。
「なにか、騒動でもあったのか?それともこれからなのか?」串を手にしながらジンが聞いた。
「いやー。ジーク王が亡くなって、第2王子が王に就くとのことで、反対派ともめているそうですよ」
「巷に見える兵はどちらの者かな?」
「第2王子派です」
僕たちは広場で立ち話をする。
「ここは、直接第2王子に聞くことにしたい。ジンはここで待機」
門の外に待たせている警備班を呼び寄せた。アオシが5人、モモコが5人、リーダはアラン。
「たのもう!」僕は大声で王城の門に向けて呼ばわった。
「なにものだ!」門番と兵がわらわらと、集まってきた。
「僕は、8代目魔女ジロウじゃ。 ジーク王に会わせろ!」
出てきましたね。宰相のユーラスが。
「これはこれは、魔女様、こちらへどうぞ」しれっとした態度でユーラスが案内する。
「こちらで、お待ち願えますでしょうか。直ぐに第2王子のジダンを呼んでまいります」
ジダンがやってきたよ。線の細い神経質そうな男だ。
「遠いところを、おいでいただきありがとうございます。第2王子、いやジーク王の後をついでジダン王となりました。以後お見知りおきを」
「ほおぉ。なんと申したか! 良く聞こえなかったぞ。僕はジーク王に会いに来たのじゃ。即刻、あないせい」
と言いながら、全員に目配せをして立ち上がった。
「魔女様が乱心なされた。みなのものであえ!」宰相のユーラスが兵を集めて、けしかけようとした。
「ほおぉー。僕に逆らうのかな」
僕の怖さを知らぬやつめ。思い知るがいい。
僕は、王都の外に待機していた、魔女隊を突入させた。
サハラ王国に出向く魔女隊が整列した。指揮は、魔女隊2番手のギル。戦略は考えてある。やることは、魔女の家のメインコンピュータを中心に魔女の家関係の皆が共有している。
・拡声器で投降を促す。
・移動車で王城内を迅速に移動する。
・飛空艇で全体の俯瞰と動きを得る。
・広範囲結界装置で、王城からの脱出を阻止する。
・催眠放射機で、抵抗するものを眠らせる。
・隔離柵で捕虜を一時隔離する。
・真偽判定装置で調べる。
装置は、この辺で良いだろう。必要に応じて、本部から送ってもらおう。アオシやモモコはアンドロイドなので、魔法は使えない。装置が必要。
「よーし、突入!」ギルが号令をかけた。
アオシは、青色いオーバオールに白のブラウスと青い色のズック、青いベレー帽。モモコは、ピンク色のオーバオールに白のブラウスとピンク色のズック、ピンクのベレー帽。それぞれ50人おり、男女混合で5人が一組で構成する。
魔女隊100人が王都に迫った。
・王都には4つの門がある。A班の1から4組が同時に突入する。
・突入と同時に飛空艇から、クーデターを企て実行したものたちへ、投降を促す言葉を発する。
「我々は、魔女隊だ。ジーク王にあだなすものは、即刻投降せよ!。白旗を掲げ通りに出て座れ!」
・捕虜収集車を回せ。
捕虜たちは、早速真偽判定装置で次から次へと事情聴取とかやって、芋づる式に被疑者を特定してゆく。
続いて、魔女隊100人が王城の門に到達した。
「我々は、魔女隊だ。ジーク王にあだなすものは、即刻投降せよ!。白旗を掲げ城門に来て座れ!」
10分ほど待って、突入してゆく。第2王子とそれに連なる者たちが捕えられた。
知らずに加担したものは、町の奉仕。それ以外の被疑者は、開拓村へ強制移住させられた。
開拓村で刑が確定され、軽いものは刑が終われば町に帰ることができる。重罪者は、死んでも村からは出られない。
そう、開拓村は、ガルバ王国から1200キロメータ北にある。タタラ河が中央を流れる、大きな台地である。そこは、移住者や転移者の受け入れ先として、開発を進めているところだ。
一方、サハラ王国の第1王子のユーヤンは、反乱を防ぐことができないばかりか、まず治世に向かない性格であった。まあ、反乱も予知できず自業自得だね。第3・4王子も第2王子と共謀のかどで開拓村へ強制移住させられた。
順当に、第5王子ジンが就くのだが、本人が辞退。したがって、魔女の家から、治世の代理と、立法、行政、司法をつかさどる者を遣わした。相応しいものが育つまでの対応とした。
魔女隊のやることは徹底している。通常のいざこざは、各国の警備隊が対処に任せているが、サハラ王国のこの件は、魔女の威信を知らしめる、良い例となった。
(今代の魔女様は、怖い。)良からぬ者たちの噂である。