三話 魔女の家
魔女の家は、外から見ると草原の中にある茅葺の小さな家である。
家は南向きで、家の後ろである北側は300メータほど先が森になっている。また、家の周りは木の柵で巡らされており、大きな動物や人が容易に侵入できないようになっている。そして、目の前には鶏が三羽いる。
家の北側の草原は徐々に山につながっている。東は遠くに川が見えており、その先も森である。西側は地平線まで草原が続いている。南側は緩やかな傾斜が2キロメータほど続いて、その先がミナミ村である。
玄関のドアを開けると、広い土間があって内ドアがある。内ドアを開けると広いホールで、その奥には3つのドアがある。右側のドアは居間兼食堂、真ん中のドアは居室へ、左側は調合室となっている。
それぞれのドアの先は奥があって、外側からは想像できない作りである。居室へのドアを開くと、広くて明るい廊下があって右側がサナエの部屋、その奥が僕の居室となっている。
その先は一見行き止まりの壁に見えるが、前に進むと廊下が伸びて、左右にそれぞれ5つの客室が連なっている。そしてその奥に歴代の魔女の室が続いている。
今日は初代の魔女の部屋にサナエと一緒に立っている。
「初代様はハナと申されていました。この星に初めて魂を持ち込まれた方です。そして、混沌とした、この世界に調和をもたらせた方です。当時は、人間、獣人、竜人、魔物などの小さな集団がたくさんあって、いざこざが絶えない状況だったそうです。
初代の“ハナ”さまは、大きくそれぞれの生息域をお決めになられ、それぞれに統治組織を作ったのです」
初代様の偉業を自信満々で、次々と披露するサナエである。
「今も、その統治は守られており、平穏な状況にあります。時に小さないざこざは絶えませんが、それはそれで緊張感があって、バランスしているとも言えます」
「2代目のニーナさまは、エルフでして、あまり外には興味がなく、もっぱら魔女の家の周りを散歩したり、詩を読んだり、薬草の研究をされておりました」
「3代目のカレンさまは、竜人族でして、ほとんど竜人エリアにおられて、滅多にこの魔女の家に来られなかったようです」
「4代目のサヤカさまは、人族で農業の普及に尽力されたようです」
「5代目のササさまは、私の生みの親でして、高度な文明から来られたようで、この魔女の家に世界のモニタを設置されました。ササさまの部屋では、この世界の至る所をモニター越しに見ることができます」
「6代目のヒカリさまも人族の方で、商業関係に詳しく、商業ギルドを設立して物の流れを活発にし、世界を豊かにしました」
「7代目のミズキさまは、猫族の方で森の開拓に尽力され、この魔女の家の周囲を切り開き、牛やヤギの放畜場をつくりました。農園など自給できるよう魔女の村を設け、聖地として地盤固めを行いました」
「まあ、ざっとこんなところですが、詳しくはそれぞれの方の部屋に行けば、本人にお尋ねすることができます」
やっと終わった。なぜ本人が部屋にいるかって!突っ込みを入れたいところだがやめておく。
ということで、僕は自室に戻って寛ぐことにした。といっても、何もない。テレビもスマホもパソコンもない。窓の外は、のどかで、もちろんコンビニもない。
そうだ、ササ様の部屋に行ってみよう。高度文明から来たのだからパソコンがあるかも?。
えーと、確かササ様の部屋にはハートマークの可愛らしい名札が掛かっているらしい。
「こんにちは。お邪魔します」
「ああ、此処にいるよ。何の用かな?」20歳ぐらいの女性が、うっすらと目の前に現れた。
「僕は8代目のジロウです。ササ様ですか?」
「ああ、ササだ。そうか君が8代目の・う・・ それにしても可愛い男の子だね。魔女とは言い難いが。まあ良いか!。それより何の用かな?」
ササ様はしゃがんで、金色の長い髪を掻き揚げて私の目を覗き込む。
「パーソナルコンピュータがあれば貸してほしいのですが」
「いいよ。そこの棚にいろいろあるから、使えそうなものを持っていっていいよ」
腕時計のようなものがある。ボタンを押すと10インチぐらいの画面が浮かぶ。入力は声でできるようだ。60センチ*15センチの板状のものがある。スイッチを押すと30インチぐらいの大きさの画面と光るキーボードがでてきた。画面に実態はなく、空中に描かれるものである。
無難なところで、板状パソコンを貸してもらうことにした。
「ササ様。この使い方を教えていただけませんか?」
ということで、ひとしきりササ様に教えてもらった。携帯用に腕輪型のものも借りた。
基本的には、現世で使用していたパソコンに似ている。進歩しているところでは、考えていることやイメージを言葉や画像に変えてくれるらしい。
また、中央監視システムに接続すると、この世界のほとんどの場所をリアルタイムで見ることができるようだ。
表計算ソフトやカレンダーなど現世にあるソフトも入っていた。日記アプリがあったので、これまでのことを思い出しながら記録した。また、カレンダーにはこれからの予定などを入力しておく。