二十五話 研究会のあれこれ
「おお・・。なかなかの眺めじゃ」
ここは、アズミ山の頂上。眼下にガルバ王国が一望に見渡せる。
レベル3の世界観だと、これは重要な要所だよ。敵や味方の配置が手に取るように見えるだろうに。
だが、この魔女の星では、戦争が無いので、そのようなものは不要だ。愛好会のメンバーを見ると、男の子4人と、女の子3人であった。
一方、僕たちは、ナズナと警護班が5人の7人。
「ジロウ様、お昼にしましょう」
かちゃかちゃと、食器を並べる音や、スープのいい匂いが立ち込めてきた。やはり、山ごはんは最高だ。大した食べ物ではないが、自然が味を引きだたせてくれる。
肉がたっぷり入ったスープとパンが主。それと、食後のティーとクッキーがうまい。これで、ビールがあれば最高なんだけど。この場には未成年しかいないから ダメ!。
ここは、登山愛好会の部屋。
汗臭い匂いがしない。登山靴のあの悶絶する臭さがない。と言うより登山靴が無い。壁には地図と杖がかけてあった。棚には、クッキング用の鍋や、小物が置いてある。ザイルのようなロープもかけてある。まあ、普通の集合場所と備品置場だな。
「まず、装備じゃな。靴はもっとも重要なのじゃ。でこぼこしていたり、岩でゴツゴツしていたりする山道を安全に歩くために、どんなものが良いのか、少し考えてみよう」
「日頃はいている靴だと、瓦礫や岩の尖がりで足の裏が痛いのよね」
「くるぶしが”ぐねっ”って、ねん挫したことがあるわ。踝まで守ってくれる深いものが良いかも」
といろいろ、経験に基づく意見や改良点が出てきた。
「10日後、まとめておくのじゃ。そして、靴屋にゆこうぞ」
10日後、靴屋にぞろぞろと出かけた。
「たのもう!」
僕は、靴屋の前で大声で呼ばわった。
「だれじゃ? 大声をせんでも聞こえとるわい」老婆が出てきた。
「おお・・。魔女様ではないかえ? どうぞどうぞ。むさくるしい店じゃが」老婆が奥へと案内した。
「この前、御作りした山登り用の靴は如何でしたか?」
お茶を出しながら、大男が僕に聞いてきた。
「良い出来栄えじゃった。やはり履きこまないと、少しソールが固いかな?」
僕は、持参の靴のソールを曲げて見せた。
「それでじゃ、今日は学園の登山愛好会のメンバーを連れてきたのじゃ」
「登山愛好会のリーダを務めているユーイです。よろしくお願いします」
「彼らなりのこだわりをまとめてきてもらったのじゃ。聞いてやってほしい」
登山愛好会のメンバーが次々と挨拶して、本題の靴の説明に入った。
大男は、ここの店主であり靴職人のタツオである。見た目とは異なり、細やかなセンスを持っているし、人当たりも良い。
出来上がりは、1か月後になった。履き初めはアズミ山にしよう。ザックとか、調理器具、テント、雨具など追々ヒントを与えて、良いものを揃えさそう。
それから、各王国にも山登りを広めたい。しかし、馬車での移動では・・・・。まあ、それはそれで、遠い山への憧れが募るのでよいかもしれない。
ここは、魔女の家の居間。僕は肘をついてサナエに聞いた。
「サナエさん、うーん、魔法を蓄えて、順次発生させることは、できる?」
「さあ? 聞いたことないですね。魔法に詳しい4代目のサヤカ様にお尋ねしてはどうですか?」
早速、4代目魔女サヤカさまの部屋に向かう。
「サヤカ様いらっしゃいますか?」
僕は、狐の絵が懸けてある、サヤカ様のドアをノックした。
「どうぞ。 入って良いよ」
「魔法学園の生徒が古い文献で『魔法を蓄えて、順次発生させる』というものを発見したそうなんです。心当たりはありませんか?」
「ほう。そのようなものを研究していたものが居ったと。確かに、私も考えたことがある。しかし、それはこの星の文明を押し上げることになるので、禁止事項になったぞ」
「確かに。魔動機関なるものが作られて、一挙に産業革命への進展するかもしれないね」
「ジロウも、そう思うか。その研究者は私の時代より前に居たようだが、きっと当時の魔女か管理人が中止させたのだと思う」
「でも、若者の着眼点を無駄にしたくないのですが、なにか良い手はないでしょうか?」
「いや、私に聞かんでくれ。幽体の私は、思考する機能を持ち合わせていない」
「失礼しました」
魔動機関か? 魔素や魔力が、馬車以上の仕事をさせられるほど多いとは思えない。周囲の魔素は多くないので、貯めて使うということになる。どうやって貯める?。
魔女は、魔素と魔力が豊富に保持できるが、一般には、コップ一杯の水、着火の炎、そよ風の発生程度。そんなエネルギーレベルでモータのようなものはできない。
科学を使えばよいのだが、それはこの星では禁止事項だ。支援するにしても、ちょっと、これは難しいな。様子見にしておこう。
さて、料理研はどうしたかな?
柔らかなパンに、肉とトマト、野菜を乗せて、ソースをかける。それを挟むと、ハンバーガーができる。ガルバ王国の魔女の別邸でアヤセに作ってもらった。これを料理研に見せた。食べさせた。
「なんと。両手で!、いや片手で! かぶりつく。なんとワイルドな食べものなんですか!」
料理研のカオルがハンバーガを手に叫んだ。
「うむ。これは参考じゃ。そなたらで、皆の口に合うものを工夫してほしいのじゃ」
「ジロウ様。これ以上のものを作れとおっしゃるのですか! 鬼ですか!」
カオルがジト目で迫ってきた。
「これは、なんと言う食べ物なんですか?」
「これは、ハンバーガーという食べ物じゃ。手軽でおいしかろう」
メンバーの5人が、20個用意したものを、全て食べてしまった。おいおい、食い気だけで、研究はどうしたのだ?
と、ひとり黙々とメモを取っている、色白のおとなしそうな男の子が居た。まあ、ひとまず安心じゃ。
それにしても、女4人が”げっぷ”とは、はしたない。ナズナまで、”げっぷ”とは。
「それでじゃ。これをメインにしてショップを開こうではないか。どうじゃ?」
1年後、学園の向かい側に、ハンバーガーショップができた。商人たちの人づてや、料理人の移住によって、他の王国にも広がっていった。