二十四話 スミレと魔女の家で会う
ある日、午後の自由時間を満喫して、魔女の家に帰ってくると。8歳ぐらいの女の子が居間のテーブルに座っていた。
「やあ。ジロウくん!」
(うん! チビが”くんづけ”するなよ!)、と突っ込みたいがぐっと我慢。
「こんにちは。お嬢さん。おチビさん!」って。
ちょっと仕返し。
途端に、テーブルに有った飲みかけのジュースを僕に向かって振りまいた。
「お嬢さんは許す。『おチビさん』は、撤回しろ! 」
すごい剣幕で、空のコップを振り回している。
「ごめんごめん! 僕はジロウ。お嬢さんの名前を聞いていいかな?」
「ふん。私はスミレ。かの有名なアイリスの娘なの!」
「ほお! それはそれは御見それしました」とうやうやしく返した。
そろそろ、隣でクスクス笑っている、サナエに救助を頼んだ。
「この前ね。初代魔女ハナ様の娘さんから連絡があって、娘を預かって欲しいって」
「うんっと、初代魔女ハナ様の孫かな!!」
初代って言えば、およそ5000年以前に活躍した人。その孫? 3世代の隔世ならせいぜい60年ぐらいのはず。まあ、時間を超越しているパラレルワールド管理局が噛んでいるのだから、これもありか。
初代魔女ハナ様の娘さんはアイリス。そのアイリスの娘がスミレ。
それにしても、ずいぶんお転婆だな。
「スミレ様、ジロウ様のことは、『お姉さま』、『お姉ちゃん』のどちらかでお呼びしてもらえますか?」
「まあ、ここでは一番偉いんだよね。しかたないな。じゃあ『お姉ちゃん』でどお?」
「いいよ。スミレは『スミレ』いいよな!」
「OK。問題なし」
「私たちは、『さん』付けで呼ばれると、うれしいです」サナエたち。
「承知しました。よろしくお願いします」スミレは頭を下げた。
「ところで、ジロウ様、食事前に一緒に風呂にお入りになったら、どうですか?」サナエが、にこっとする。
「あっれ! お前男じゃなかった??」
「それ、誰に聞いたんだよ!」
「まあ良いか。家じゃあ、お兄ちゃんと入るし」
ということで、2人で風呂場に行った。
まあ、前世の記憶で言えば、孫と風呂に入っているようなもので、懐かしい。
「ジロウくん! あっ、違った。お姉ちゃん、頭を洗って?」と可愛いなあ。
シャワシャワと小さな頭をもみ洗いする。
「もう、私の出番はないですね」
待機中のサナエがあきれたように呟いた。
風呂に入っている間に、スミレの歓迎会の準備が行われた。
「みんな、元気かな?」僕は皆に語りかけた。
「「「げんきだよー」」」と会場の皆が折り返し応えてくれた。
「今日は、新しい仲間を紹介するよ。 『スミレ』だ」
白のワンピースにピンクの髪飾りをさした、スミレがしずしずと壇上に上がり
、
「よろしくーー」って、ちょっと飛び上がって、手を振った。
肩ぐるしいのは、ご法度。まあ、魔女の資質によるが、おおむね代々の魔女は、和気あいあいだったようだ。
魔女組は、ジュース。村の大人たちにはお酒がお供になっている。
「いやー。今度の魔女様といい、スミレ様といい、めんこいなあ・・」
「いてて・・・」とロゼッタに抓られている若者がいる。
村のほとんどがこの場にいる。スピーチなんてない。これからいつも顔を会せるので、単に顔つなぎだけ。そして、次々と出てくる料理や飲み物を堪能して、やがて歓迎会はお開きになった。
仲の良い、兄妹は温かいホットミルクを飲んで、一段落。その後、スミレは僕の横で寝ている。
さびしいんだろうな。ちょっとまぶたに光るものが見えた。
スミレの転移は、急なことではなく、10日前にアイリスからサナエに打診があったそうだ。スミレの成績はいつも学年トップで、スポーツも万能。何をやらせてもそつなくこなすし、友達も多い。ただ問題が無いわけではない。
アイリスは学校に呼ばれた。担任の言うには、授業中は何時も上の空で、つまらなそうに見える。このままでは可愛そうだ。とのこと。アイリスは思った。この世界には、スミレを満足させるところが無い。血は争えない。スミレの知能指数は300を超えており、世界でも注目されている神童である。
そこで、アイリスはパラレルワールド管理局に、魔女の星への転移を願った。まあ、パラレルワールド管理局も神崎元や初代ハナに、少なからず借りがあるので、快く承諾してくれた。転移先は、『8代目魔女ジロウ』のところに決まった。
スミレの独り言。
テレビもないし、スマホもない。コンビニもない。夜になると、外は真っ暗。とんでもないところに来たよ。おばあさまも、お母さんも、こんなところで何をしていたのだろう? ああ退屈だ。