二十話 ジロウ ナズナと話す
ナズナと魔女の家の居間でのんびりしていた。
「なあ、サナエたちは、どこへ行ったの?」
「サナエ様たちは、ミズホ王国に何か問題が起きたようで、そちらに行っております」
「そうか、静かな夜だね。そうだ、この世界に音楽と言うものはあるのかな?」僕はナズナに尋ねた。
「音を楽しむですか?。王都に行くと音楽を演奏するホールがあるそうです。確か、初代サクヤ王が広めたそうです。一度行ってみますか?。それと、昨年スローン王国にバガーという男が転移してきたそうですが、その男が色々なものから音を出して楽しんでいると聞きました」
「一度、会ってみたいね」
「転移って、頻繁にあるのかな? それにぼくもその転移してきたものなのかな?」
「いえ、ジロウ様は神様に特別召喚された方です。ジロウ様は特別の加護のもとに多くの能力を持っておられます」
「転移者はその使命も能力もありません。因みにジロウ様の蔵書にある勇者召喚なんてものはありません。ただ、単に魂を持った人種がやってくるだけです。魂の獲得、そのものです」
「結構ドライなんだね」
「そうですね。サクヤ様の時代には多く渡ってきて、人口が600万人近くになったそうです」
「と言うことは、およそ4000年で200万人の転移があったということか」
「そういえば、ガルバ王国にはニカワ族がおりますね。 彼らは、もともと主に沼地に生息していた球体の生物が進化して、手足を持って人型に進化したそうです。ただ繁殖が分裂のため、この星に移住するには胎生への移行を条件にしたそうです。その末裔がニカワ族です」
「サナエさんが言っていたね。衣食住はニカワ族のものが流行ったって」
「そうですよ。ジロウ様が食べている、『カロカロ煮込み』は、ニカワ族の好物ですよ。カロカロってなんだか知ってます?」
ナズナが意地悪そうな顔をする。きっとびっくりするものだろうな。
「うーーん。あのコロコロとした舌触り?。うーーん。沼に関係するもの?。ナズナ、降参だ」
「ふふ・・。沼にすむ『なまこ』でした」
「『うげっ』と言うだろうと思ったかな?僕はナマコは好物なんだよ!」
「う・・。残念!」
たわいもない話が続く。
「ところで、この世界では日曜日は休みだよね。みんな何をしているの? 娯楽は?」
「娯楽とは?」
「楽しむこと。たとえばピクニックに行くとか。ボール投げやかけっこをするなど。うーーん。何か競争して勝ち負けを決めるものとか?仕事以外で、笑ったり喜んだり悔しがったりするもの。」
「無いですね」
「では、ナズナは何をしているの?」
「それはもう、ジロウ様に引っ付いています。それが私の癒しですから!」力が入った。
「あっちゃー。 それはそれでうれしいけど。 そうそう、その癒しを、みなはどうしているのかな?」
「子供たちは、プチダンジョンに入り浸っているかな。大人たちは、うーーん、何もせずにぼーっと英気を養っているのが大半ですかね」
「よし、それでは余暇の過ごし方、癒しを得る方法を、考えよう。 働くだけではつまらんだろう?」
「私は、ジロウ様のそばで十分です」
ナズナは、ぶれないな。なぜにここまで慕われるのか?
喜楽園を歩く。秋が訪れたものの今日は、ちょっと汗ばむ。小鳥が近くに来ては、挨拶のように小首を傾げてゆく。時々、鹿や狸も顔を出す。イノシシは、ちらっとこちらを見て、木の陰に入ってゆく
明日は、サキたちとピクニックにゆく約束があるので、マシャに乗って、ガルバ王国の別邸に移動する。操縦は、ナズナ。
魔女の家を出て東へ、サハラ王国、スローン王国、ミズホ王国、そしてガルバ王国への空路。魔法学園にゆくとき、はじめての遠出となったが、その時に見た眼下とは少し印象が変わってきた。
(そうか、責任というか、僕の庇護下というか、ちょっと愛おしいというか、そんな思いがよぎる)
どうしてこんな記憶が浮かんでくるのだろうか?動物園の檻の前に立っている。痩せこけたライオン。そうだ、もう彼らを殺処分しなければ。戦争で食べ物が無くなった。最後の食べ物に薬を仕込んだ。あと数時間で静かに息をしなくなる。
俺は、服を脱いで横たわった。思惑通り、若い雄ライオンが、近づいてきて牙をむいた。その時、奥にいた老ライオンが瞬時に移動して、その若いライオンを右足の一撃で壁にたたき込んだのだ。
しばらく老ライオンは俺の横にいたが、
(もう、気が済んだか? 早くこの檻からでろ!)と言った。
おれは、彼らを守れなかった。
「ジロウ様! もうすぐ着きますよ」ナズナの声で、現実に戻った。
別邸の庭に、マシャを着陸した。
「おかえりなさいませ」と執事、メイドたちが迎えてくれた。
自室に入って、酷い夢?を記憶から引き出した。だれかの記憶なのだろうか?。今日の出来事を、メモする。